第20章 自主練
【章の主役】リンクス・シェフィールド
【作者前書き】ジャクリーンやメディ達の自主練に混ぜてもらうことになったリンクスとヴィータ。
ヴィータの疑似魔法の性能と、それを使いこなすリンクスの技量が明らかに。
「いやーマジで助かったよ。ホント持つべきものは友だね。」
リンクス・シェフィールドは持てる全てのコミュニケーションスキルを総動員した結果、転校してわずか1日で強力な魔剣とパートナーを組み、20人もの友人を作ることに成功した。
それも、初日からパートナーマッチングにプレ講義受講と履修登録、風紀委員の事情聴取に入寮手続きに加え、学院長との会談をこなしたうえでの成果である。
上々の出だしだと言えるだろう。
今日は剣技考査開始の前日だというのに、ヴィータが訓練スペースの予約が取れないなどと言っていたが、その問題も解決した。
練習スペースは学院敷地内の各所に十分用意されており、1つのスペースにつき3組から20組程度が定員となっている。
そのすべてが予約済みとはいえ、理論上の最大収容人数は300組分ほどもあり、休憩時間も考えれば希望する学生全員に数時間の割り当てがもらえるはずだ。
よって、定員に達していないグループを見つけて、その輪に入れてもらえれば何も問題はないと考えた。
そこで≪魔剣師概説≫の講義で講師にやたらと質問していたクラスメイトのメディ・キッシンジャーに相談したところ、あっさりと彼女のグループに入れてもらうことに成功したのだ。
ジャクリーン/メディ組は2年生の中では実力筆頭らしく、今回の剣技考査でも3次リーグから参戦となるシード枠を獲得しているとのことだった。
ちなみに、ヴィータは本来エリザベスと組んでいれば4次リーグからの参戦でもおかしくないはずだったそうだが、特待生とはいえ実績のない自分と組んだことでシード権無しで1次リーグから勝ち抜かなければならなくなったという。
もっとも、事前の準備が足りない自分たちにとってはノーシード選手と事前に試合をして慣れておけるチャンスだと、ここはむしろ前向きにとらえるべきだろう。
「困った時はお互い様だよ。言い練習相手になりそうだし、リンリンならいつでも大歓迎だよ。」
メディが陽気に答える。彼女のようにノリがいいのと友達になっておくと、連鎖的に人脈が広がっていくので今後が楽だ。
「ていうか、そのリンリンて何よ。あんたたちいつの間にそんな仲になったのよ。」
ヴィータが不機嫌な声で問い詰める。
「今朝だよ。今日はちょっと用事があって早く起きたら彼も起きていて、話をしていたらあだ名の話題になって、リンリンって呼ぶことにしたんだ。」
メディが機嫌よく答える。
この2人はとても対照的だが、仲の良い友人同士だという。
ヴィータはあまり社交的な性格ではなく、友人も少なめだと聞いた。
剣技考査や成績にかける想いの強さが、彼女の過去に関係あることも聞かされた。
そんなヴィータが自分とパートナーを組むことになったのは、どんな因果だろうか。
まあ、今はもっと気にするべきことがある。
目の前にはフェンスに囲まれた広い空地。すぐそばの立て看板を読む。
『訓練スペースM(定員24名)
予約時間 :午後1時~5時
予約代表者:ジャクリーン・アボット
立会教官 :ファーディナント・ベンサム』
≪訓練スペースM≫に集まったのは2年生の仲良し集団12組24名と教官1名だ。
どこの魔剣師学校でも同じはずだが、基本的には魔剣化をしていいのは特定の場所で、かつ許可された場合のみである。
個人訓練であっても、トラブル対処のために教官がすぐそばにいることが定められている。
教官に個人指導をしてもらえる場合もあるが、そもそもこの人数では1組あたり20分しか見てもらえない計算になるので、期待しない方がいい。
訓練を仕切るリーダーは、この場所を予約したジャクリーンだ。
「じゃあ、自主練を始めようか。みんな本番は明日だから軽い調整にとどめておくように。間違って怪我でもしたら目も当てられないぞ。予定通りメニューはストレッチからの組打ちと見稽古にするが、リンリンとメディはどうする?」
全員の視線が俺たち2人に注がれる。
そもそもこのメンバーに加えてもらえることになったのは数時間前のことだ。
闖入者に近い立場なので、あまり迷惑はかけたくない。
「俺たちはまだ互いの技量も魔術特性も把握しきっていないから最初の1時間は隅っこで勝手にやらせてもらうよ。残りの3時間はそっちに混ぜてもらっていいかな。」
「分かった。それがいいね。」
勝手に決めてしまったが、ヴィータも特に異論はなさそうだ。
「じゃあ、みんな、最後の調整頑張っていこう。」
「「「おー。」」」
こうして俺たちの最初で最後の考査前調整が始まった。
「まずは魔剣化して魔術の確認から入ろうか。」
「分かった。しっかり頼むわよ。」
ヴィータが光に包まれ、その姿を黒い刀身のソードブレイカーに変える。
俺は右手でその柄に手を伸ばし、左手の人差し指と中指で刀身の腹をなぞる。
「ヴィータの疑似魔法の特性は、“反発”と“干渉”に特化しているね。」
「!!よく一瞬で見抜いたわね。その通りよ。でもあたしをきちんと使いこなせた人は少ないわ。ジャクリーンは良い線いってたし、エリザベス先輩は完璧だったけどね。他はあたしを手にするには及ばない駄剣士ばかりだったわ。」
たしかにこんなカウンタータイプの魔術を熱心に学び、扱える剣士は少ない。
自分の過去のパートナーにも彼女のようなタイプの魔剣はいなかった。
だが問題ない。俺はほとんどの系統の魔術に高い適性を持ち、万遍なく学んできた。
多少じゃじゃ馬な魔剣でも使いこなせる自信がある。剣技は一旦置いておくとして。
足元に10個ほどの小石を見つける。
「ちょっと試してみようか。」
ヴィータの疑似魔法とはパスがつながっている。
彼女の魔術回路から適切な部位を見つけ、魔力を通して術を発動させる。
腰を落として剣の腹を小石に近づけると、まるで磁石が反発し合うように石が魔剣から一定の距離を保とうと逃げていく。
「初めてで…こんなことができるの?」
ヴィータの驚きは、まあ理解できる。
数十センチという近距離とはいえ、直接触れていない物体を “反発”で遠ざけたりするのは多少の慣れが必要だ。
低出力ゆえに威力は低かったが、魔力の変換効率が良すぎたことも驚かせた原因かもしれない。
「確かに扱いづらくて癖が強いね。俺には関係ないけど。じゃあ次のステップ行こうか。」
空手になっている左手を前にかざし、掌を上にして、自分自身の魔術回路から“波動”の魔術を選択して使用する。
これは簡単に言うと魔力の波を発生させて他者の魔術を押し返したりする基礎的な術だ。
左手から全方位に均等に魔力の波が発生しているが非常に低出力なので、それ自体は毒にも薬にもならない。
これに右手の魔剣をゆっくり近づけると波が乱れてしまった。
魔剣が近づくほどにどんどん乱れが大きくなり、掌に魔剣を乗せると、ついに魔術が停止してしまった。
「これってエリザベス先輩がよく練習していたのと似ている。」
ヴィータの発言に「なるほど」と思う。
「あいつ、次は俺に勝つって言ってたのは、これがあるからか。」
“干渉”の魔術で相手の魔術を乱してやれば、発動阻害から自滅を誘うことまでできるだろう。
しかし、こんな方法で俺の魔術を封じることは難しい。
エリザベスの技量でこの疑似魔法なら、俺の魔術に対しても十分な牽制になりうる。
この疑似魔法の干渉下では、いくつかの魔術は使いたくないし、コントロールを狂わせられる危険はある。
それでも、これに抗する手段はいくつでも思いつく。
俺の魔術のバリエーションの豊富さをもってすれば、いくらでも策はあるのだ。
あまり敵に回したくない程度であって、相性最悪の天敵とまではいかない。
だが、自分が使う分には使い勝手の悪さは気にならないし、いくらでも応用が利く。
本当に面白い魔剣と出会えた。