表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣帝マギの森羅万象剣  作者: 三千世界
4月9日
19/28

第19章 恋の行方とマギの行方

【章の主役】シャロン・タバナー

【作者前書き】話が長くなったので前後篇に分けました。

アイリの恋愛宣言に続き、シャロンはアイリとともにマギの行方に見当をつけました。

これでマギが見つかるのかと思いきや…。

シャロンは、疑問が1つ解決しても2つ増えるような事態が永遠と続いている現状に頭を痛めた。

マギ失踪事件の最大の原因は、4人の聖剣(しかも美少女)から結婚なり愛人関係なりを迫られての逃亡?

しかし彼の手紙から察するに、4ヶ月もの冷却期間を置くことで彼女たちとの関係を考え直そうとした?

今、目の前にいる聖剣アイリーン・シンクレアはすでにマギの考えを理解しているかもしれない?

そもそもマギの考えとは何のことだ?

この5人はお互いのことをどう思っている?

結局マギはどうして失踪などという強硬手段に出て、今どこで何をしている?

「ええーい!分からーん!」

つい奇声を上げてしまう。

ロウ課長もアイリーンも目を丸くしてこちらを見ている。

「お、落ち着きなさいシャロン君。」

「大丈夫?これ食べる?」

ロウ課長がなだめ、アイリーンがお土産の『みかん味のなまずパイ』を1袋さし出す。

自棄になってそれをひったくるとバリバリ食べる。

柑橘系の味が口の中に広がる。ちょっと甘酸っぱくて、ウマいともマズイとも言い難い微妙な一品だが、脳にわずかながら糖分が補充されたような気がするので、いったん落ち着いてみる。

「はあ、はあ、いったい何がどうなっているんですか!あなたたちの関係も、行動原理も意味不明です!もっと分かるように教えてください!彼は!あなたは!何がしたいんですか!」

やってしまった。つい不満を爆発させ、まくしたててしまった。

「ねえ、課長さん。私たちの担当をあの変なおっちゃんからシャロンに代えたのって…」

ロウ課長の顔が引きつる。でも、もう自分は開き直ってしまっている。

≪剣帝課≫の一員として、マギ担当官として失格でもいい。

「…すっごく良かったと思うよ。」

予想と逆の言葉がアイリーンの口から発せられた。

担当官がバラクロフから自分に代わって良かった?

「だって、すごく私たちのこと考えてくれているみたいだし、本音でぶつかってきてくれるから、ちゃんと信頼できそう。」

意外な発言にロウ課長と二人でポカンとしてしまう。

そもそも≪剣帝課≫は信頼されていなかったともとれる内容だ。


「じゃあ、私たちの関係から話すね。」

アイリーンが勝手に話を進める。

「私は、ううん、私たちは彼のことが好き。そして彼も私たちのことが好き。これは絶対に揺るがない事実。」

ここで一旦言い切り、間をおいて話を続ける。

「魔王と戦うときに、みんなで想いをぶつけあったし、熱い口付けだって交わした。」

指で唇をなぞって、頬を赤らめる。年相応の恋する乙女な表情に一瞬どきりとするが、すぐにそれは切なそうな表情に切り替わる。

「だけど彼は意外と真面目で責任感があるから4人同時に告白されても1人を選ばない。選べないんじゃなくて、選ばないの。1人で消えたのは私たちを捨てたとかじゃなくて、そんな自分への戒めであって、私たちに何かしらの役割を期待してのことだと思う。」

決意を込めた瞳で、なおも続ける。

「ときどき突飛な行動をするけど、そんなときほど実はよく考えた結果で、しかもいつだって正しかった。常に目的意識を持っているから1人で姿を消したのにも絶対に深い意味がある。8月には帰るという宣言がその証拠。だから私は彼を信じて待つ。他の剣帝に立ち向かう方法と、彼との恋を実らせる方法を考えながら。」

アイリーンはそう堂々と決意表明をした。


「ですが結局のところ、このままでは何も変わりませんな。」

ロウ課長がため息をつく。

「マギ様はどこで何をしているか不明。≪剣帝課≫は彼の捜索をしないわけにはいきません。」

確かにその通りだ。

アイリーンの言ったことがすべて正しいとしても、マギが一体何をしようとしているのか分からない以上、それを確認しないとならない。

剣帝の持つ圧倒的な力が、自分たちの管理を離れて野放しになっているのは好ましくない状況だ。

せめて所在だけでもつかんでおくべきだ。

「アイリさん。彼の所在を探すことにご協力いただけますか?」

正直望みは薄い。信じて待つなどと宣言されてしまった以上、こちらから追いかけることを良しとしない可能性がある。

「うん、いいよ。私も彼に早く会いたいし。でも彼のやりたいことは邪魔しないでね。」

まあ、思ったよりマシな回答だ。

彼の目的次第では剣帝会議による裁定も視野に入れる必要がある。

しかし、特に危険・迷惑行為でなければ彼を発見してもそのまま監視にとどめても問題ない。

「はい。では推理に協力してください。まず彼の失踪の目的が、自分探し以外にも、他の剣帝への対抗手段とアイリさんたちとの今後の関係の模索だとします。問題はどこで何をしてそれらを成そうとしているかです。彼は通っていた学校を退学して、その翌日には北方のローファーという町で目撃されています。ここから次の行動を予測できませんか?」

ロウ課長が驚いた表情を見せる。配属2日目の新人が聖剣から見事に情報を引き出しつつあるからか。

「学校を退学までしちゃったのは少し驚いたな。剣帝になったせいで学校に通う意味を見いだせなくなった可能性も否定できないけど、彼って大胆だけど慎重だから、いつも保険をかけておくような人で、学校に戻りたくなった時のことを考えて、休学ぐらいにしときそうな気がするんだけどな。」

正直、その視点はなかった。やはりマギの性格を熟知しているアイリーンだからこそ、そこに思い至るのだろう。

「ああ、ローファーって街で目撃された件だけど、あれは多分わざと足跡を残したんだよ、きっと。」

「わざと?」

「だってその後は全く足取りが追えないんだから、追跡の目をローファーに引き付けるための自作自演で、今はもう大陸の反対側にいるかもしれないよ。」

しまった。マギがローファー駅で北方面行の列車の切符を買ったことで、そちらに捜査網が偏っている。

もしもそれがブラフだったら、一度ロストしてしまった以上、もはや見つけようがない。

16歳だからと彼のことを無意識に舐めていたのかもしれないが、魔王殺しを成し遂げたほどの少年だ。かなりの切れ者なのかもしれない。

「彼が行きそうな場所に心当たりはないんですか?」

「それがあったら私はここに来てないよ。でも彼って寂しがり屋さんだから人気のない山奥で1人武者修行って落ちはないんじゃないかな?きっとどこかの町か村で正体は隠したまま堂々と暮らしているよ。」

そんな状態で4ヶ月も≪剣帝課≫の目をかいくぐれるとも思えない。

豪胆な策士ということなのか。どうも人物像がはっきりしない。

「マギ様の性格や人柄がいまいち掴めないんですが、アイリさんから見て彼は一体どんな人ですか?」

「ん~。とっても意外性や二面性があって、そこが面白くって可愛いんだよね。普段は温和で楽しい人だけど、追いつめられたら手段を選ばない奇策に走るところがギャップ萌えかな。」

可愛い?苦労させられている身としてはとても可愛くなどない。

写真で見た彼の顔立ちは、眼光が鋭く、前髪を逆立てていて、威圧的な感じすらした。

しかしアイリーンとの会話から、マギが苛烈ながらも優しく、慎重かつ大胆で、一見無責任だが義理堅いということは理解できるようになってきた。

彼女の言うマギの二面性を理解していなかったことが、彼の行動を追えなかった理由なのだろう。

そして彼の行動全てに意味があり、奇策に出ることがある。

姿をくらましながらも人のいるところに身を置く可能性が高い。

そこから1つの可能性に思い至る。

「もしもですよ、彼の退学が、他の学校に入るためということは、あり得ると思いますか?」

かなり大胆な推理だ。剣帝が聖剣を捨てて学校に通う?

自分でもバカなことを考えたと思う。

マギが、魔王を殺せるほどの超人が、学校ごときで何を学ぼうというのか。

しかし、この推理なら少なくとも矛盾はないはずだ。

それでもロウ課長はジト目でこちらを見ている。それは無いだろうと顔に書いてある。

「あ、なんかすごく有り得そう。8月に帰るって、夏休みに入ったら帰るって意味かも。」

アイリーンの同意の言葉に自分もロウ課長も目を見開く。

初めてマギの行方に迫れた気がした。

「さっそく、すべての魔剣師教育機関から編入学者のリストを取り寄せよう。」

ロウ課長が水を得た魚のごとく動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ