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雪女の山荘

 言葉のない沈黙ほど痛々しいものはない。


 雪の中を僕らはお互いに手を繋ぎながら歩くことになった。


 夜の雪道は暗く、完全なる暗闇になっていた。唯一の光源は華彩が持っていた携帯電話だけで、その明かりを頼りに僕らはあてのない夜道を歩き続ける。


 本当ならばあの場所に留まるべきなのかもしれないけれど、あそこは火災の現場のすぐ近くで、留まるわけにはいかなくなった。


 とにかく、止まったら終わりだと思った。夜の雪道は寒く、身体を動かさないと凍え死んでしまいそうだった。


 とんだお笑い種だった。僕にはモノを凍らせる超能力があるというのに、まさか凍死するハメに陥るとは。


 馬鹿すぎる。そう思った。杉本はぐったりとしている。もうしゃべる気力もないのかもしれない。背後で背負っていると、たまに痛々しい嗚咽が聞こえる。


 僕が杉本を背負っているので、華彩と夏樹はぐったりと垂れている杉本の手を握りしめている形だ。


 僕はようやく、死ぬかもしれないと感じ始めた。


 ここは、雪女の森は、毎年多くの死者を出す。これだけ鬱蒼とした森の中なのだから、遭難したら確実に助からないだろう。


 雪女伝説なんて、あんな体験がなければただの大自然がもたらした馬鹿げた比喩表現くらいにしか思わなかったかもしれない。

 遭難して、死亡してしまった遺族たちのどうしようもない感情を、雪女のせいにすることで解消する。その程度のモノだときっと感じていた。


 だけど、僕はやっぱり、あれは幻じゃなかったと今でも思っていた。


 もう十年以上も昔の話なのに、未だにあの時僕を助けてくれた女の子は、雪女だったのだと思う。


「ねえ、吉岡くん」


 華彩の声がした。彼女は右手で杉本の手を握り締め、左手で携帯電話を持っている。


「……もう、バッテリーが、切れるよ」


 僕は彼女を見た。こんなにも寒いというのに、彼女の白い肌は赤く染まるどころか、一層白くなっているような気がした。そんな彼女を、僕は綺麗だな、と感じた。


「……わかった」

「……ねえ、もう休もう。杉本も、疲れてるよ」


 夏希の声が弱々しかった。たぶん、彼女ももうわかっている。きっと僕らは今夜、ここで死ぬ。


 その時、華彩が叫んだ。

「ねえ、あれ見て!」


 僕は彼女の顔を見て、そしてプルプルと震える人差し指の先を見た。


 そこには、確かに山荘があった。一寸の違いもない、あの山荘だ。


 やっぱり、あれは幻じゃなかったんだ。僕の昔の記憶と瓜二つの雪女の山荘がそこにあった。


 その景色を見せたが最後、華彩の携帯もついに事切れた。バッテリーはなくなり、僕らの目の前は真っ暗になった。


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