-終焉-
熱い。
強烈な熱が彼を貫いた。そこに彼の想像していた痛みはなく、ただ熱い。
「ア、ベスタ……何を」
「ずっと、考えておりました」
震えた<魔王>の声を遮り、彼は剣を握りしめた。何度も<魔王>を貫いた剣を。今、自分を貫いている剣を。
剣を突き出して固まっている<勇者>の目を見て彼は笑う。
「どうすれば、世界を壊せるのかと」
息をのむ音が2つ。目の前の青年がひるんだ隙に、彼は<勇者>を突き飛ばし、剣を抜いた。
赤い血がぼたぼたと落ちる。しかし不思議なことに落ちた瞬間、赤は消える。まるで世界へ飲みこまれていくかのように。
冷たい石床に、白い花が咲いた。
「簡単なことでした。こんな茶番を、止めてしまえばいいのです」
「止めろ、アベスタ」
彼は制止の声など聞こえぬとばかりに、手にした剣へと意識を集中させた。この場で状況が理解できていないのは、<勇者>ただ一人であった。
「何が起きて……あの剣は僕以外に持てないはずなのに」
ただ茫然としている<勇者>を、彼は憐れんだ目で見つめた。
「ええ、この剣は、私たち以外には持つことさえできません……他の手に渡らぬよう、<魔王>様がつくられたのですから」
「私たち? <魔王>がつくった?」
まだ戸惑っている<勇者>へ、それ以上彼が説明することはなく、淡い青の瞳は再び剣へと向けられた。
一瞬、瞳の青が燃え上がるように輝き、輝きが収まったころには彼の手の中で剣が砂になり、崩れ落ちていった。
すべては簡単なことだったのだ。
「疲れ果てた今のあなたでは、新しい剣はもう作れない。あなた以外には、作るすべがない。あなたの器を壊せるものは、もう何もない。
そしてあなたには供給できる魔力はなく、あなた以外には供給するすべがない」
つまりは、
「あなたはもう、<魔王>ではない」
世界を支えている存在、<魔王>をこの世から消せばすべてが終わるのだ。
初めから終わり方は決まっていたのですが、中々しっくりこず、遅くなりました。
私はぼかしすぎる傾向があるので注意しつつ書いてみました……う~ん。あんまり説明を入れると「説明乙ww」な感じがするなぁ、とも思い……加減が難しいですね。
この話をかくにあたって
魔王と勇者。
が、存在する世界を想像してみました。
すると……そもそも魔王と勇者って何だ? なぜ魔王と勇者が存在するのか疑問がわいてきました。さらに深く考えて、世界にその存在が必要だったからではないか。という結論に。
ということで、世界を支える二柱の存在という基軸ができました。
でもやはり私の中で「勇者は魔王を討伐するもの」というイメージが根強く、そのイメージをせっかくなので生かしてみた……つもりです。
と、あとがきで説明しなきゃならない物語ってなんだ、という感じですね。まだまだ精進せねば。
では、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。