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8話:レオンハイムの反論。

「なに?」


 どうして笑い出したのかわからなかったのか、ルナリスが初めて怪訝な表情を浮かべた。


「ありがとうルナリス審査官。お陰で小生が謎だと思っていたことが解決したよ」


 レオンハイムはルナリスの傍まで歩みを進めて握手を求めるように手を差しだした。しかし、ルナリスは手を取らなかった。


「先ほど、ルナリス審査官が四十二年前に竜があの地に飛来したと教えてくれた。そして、今日まで我々が見つけられなかったのは、認識を外れる結界とやらを展開していたかららしい。さて、約四十年前、竜のいるマクルラズ森林の奥地でこんな事件があるのをご存じかな」


 レオンハイムが一度自分の席に戻り、鞄の中から何枚かの紙を取りだした。


「竜が飛来した洞窟の近くに今は廃村となったとある村があったことが記録に残っている」


 俺はルナリスと休憩した村のことを思い浮かべた。たぶんあの村のことを言っている。


「その村は十数人の小さな村ではあったが、それなりの生活はしていたようだ。しかし、約四十年前突如として全員姿を消した。記録には血の一滴も落ちていなかったと書いてある」


 俺は「約四十年前、姿を消した」という言葉に引っかかりを覚える。


「さて、その頃にとある生物の目撃情報が見受けられる。当時の捜査では熊と推測されたようだが、結局その生物は見つけられないままだったらしい。が、ルナリス審査官の言う通りなら竜が展開した『認識を阻害』する結界によって見つけられなかった可能性がある」


 認識を阻害という言葉をレオンハイムは特に強調した。


「さて四十二年間、竜被害は無かったとのことだが、小生は彼女の話を聞いてこう考える」


 レオンハイムは静かに深く息を吸い、大きなよく通る声で自身の考えを口にした。


「認識を阻害する結界が人にも影響を及ぼし、彼らは他の人間に見つけられないようになった。その結果、集団行方不明だと結論付けられた! 村人全員がいなくなったというのに血の一滴も落ちていないという摩訶不思議な事件。竜の影響だと考えるのが自然ではないか!」


 骨張った指でルナリスのことを力強く指した。


「証拠を出せと言われれば、四十二年前のことだから何も残っていないし、結界とやらを小生はどういうものか知らぬから難しい。だが、時期と場所があまりに一致しすぎている! 結界による影響は無いとこれでも言い切れるか?」


 ルナリスに向かって強い口調で問うた。ルナリスは何かを言おうと口を開いたが、言葉は出てこなかった。その様子にレオンハイムが勝ち誇ったように僅かに口角を上げた。


「どうやらここまで竜による被害は無いと言っていたルナリス審査官も、結界の影響は無いとは言えないようだ。竜は人を襲うつもりは無いと宣ったようだが。存在そのものが人に悪影響を及ぼすのだ! そんな竜があの地に住み着いて我々の平穏な日々は保証されるのだろうか。否! 断じてそんなことは」


 レオンハイムが意気揚々と自身の考えを話している途中だが、構わず俺は手を上げた。それに気付いたのだろう。レオンハイムは俺の方を見て「なんだ?」と首を傾げた。


「あの、発言しても良いですか」


 俺はドミニクに尋ねる。ドミニクよりも先にレオンハイムが口を開いた。


「君は見習いという立場だろう。今は君が出る幕では無い」


 その強い口調に俺は一瞬、手を引っ込めそうになる。口を真横に結んだルナリスの琥珀色の瞳がこちらに向いていた。俺はもう一度力強く腕を天井に向かって伸ばす。


「見習いとは言え彼は依頼審査官試験を突破した者だ。そのような言い方は慎みたまえ」


 ドミニクの厳格な言葉にレオンハイムはふんと不服そうに鼻を鳴らした。


「バド=サルト。発言を認める」


 ドミニクが俺を真っ直ぐ見て、そう言った。俺は小さく会釈したのをお礼代わりとした。

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