5話:審問会前夜。
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審問会前日。竜に会いに行った後から、俺はルナリスの指示で竜があの地に来た四十二年前からの、オルシスティア管轄内での魔物による被害状況を調べていた。一方ルナリスは被害状況も調査しつつ、聖典を読むことに重きを置いていた。
暗くなってきたので、オイルランプを二つ灯し、一つはルナリスの机に置いた。「蛇」「塔」と書かれたメモが目に入る。これは何か聞こうとしたが、真剣に聖典を読んでいる姿を見て、声をかけて集中を途切れさせてはいけないと思いやめた。もう一つのランプを自分の机に置いて、もう一度抜けは無いか確認の為に資料に目を落とす。
今日まで調査してみて、オルシスティア管轄内での魔物による被害は他の管轄に比べて想像以上に少ないことがわかった。また、魔物による被害とされている未解決事件がいくつかあったが、もしかしたらと思いつき、人間犯罪を取り締まる治世保安官の詰所に行って犯罪記録を借りて照らし合わせてみた。その結果、魔物被害とされていた事件が、実際には人間による犯罪で解決済みだったということが数件ではあるがあった。
魔物被害が生業の討伐庁と人間犯罪を取り締まる治世庁の連携不足が見えてくる。
他にも人間犯罪の記録を見ていくと、竜が来た四十二年前には、マクルラズ森林に盗賊団がいたこともわかった。
ルナリスが突然聖典を閉じ「さてと」と呟いた。
立ち上がって伸びをしながら俺の方を向いた。
「私、この後用事あるから戸締まりとか頼めるかしら」
「それは大丈夫ですけど、用事ってなんですか?」
明日は審問会だというのに。そう思いながら尋ねると、ルナリスは悪戯な笑みを浮かべた。
「デート」
わざとらしい甘ったるい口調にすぐには反応できず、少し遅れてその意味を理解した。
「デート?! 審問会前夜にですか?!」
俺の驚きの声に、ルナリスはクスクスと笑った。
「むしろ明日が審問会だからその前に鋭気を養う為よ。それじゃ、後よろしく~」
ルナリスはそう言い残して、事務所から出て行ってしまった。
呆然として椅子に力なく座る。国家案件の審問会前日にデートとは何を考えているんだ。
俺なんて、審問会に帯同するだけで話すわけでもないくせに心臓が飛び出しそうなくらい緊張しているというのに。
その後は全く集中できず資料を読んでも全く頭に入ってこなかった。早く寝て明日に備えた方が良いと判断し、オイルランプを消して外に出る。
新月の夜空に星が映えていた。大きな溜息をつきながら、本当に大丈夫かという不安を抱えたまま、審問会当日を迎えることとなった。




