【エピローグ】
三ヶ月後。
マンチェスターの朝は、珍しく抜けるような青空に恵まれていた。ヴァンス・グループ本社のエントランス。そこを歩くレオナルド・ヴァンスの隣には、誰もが見惚れるほど美しい、気品に満ちた女性がいた。かつての分厚い眼鏡はなく、ヘーゼルの瞳は自信と喜びに満ちて輝いている。最高級のテーラードスーツを纏う彼女は、今やマンチェスターで最も注目される女性――レオナルドの最愛の妻、サーラだった。
「ミセス・ヴァンス、午後のスケジュールの確認を」
エレベーターの中で、レオナルドがいたずらっぽく囁いた。
「……レオナルド。仕事中は『ミセス』じゃなくて『サーラ秘書』と呼ぶ約束でしょう?」
「おっと、失念していた。……だが、私の秘書なら、一つ忘れているタスクがあるぞ」
レオナルドは、監視カメラの死角に入った瞬間、サーラの腰をぐいと引き寄せた。
「……まだ、今朝の『おはようのキス』が済んでいない」
「……みんなが見ているわよ」
「構わない。私たちがどれほど仲睦まじいかを見せつけるのも、CEOとしての重要な戦略だ」
レオナルドは、抗うサーラの唇を優しく、しかし有無を言わせぬ独占欲で奪った。完璧だったはずの秘書の「誤算」。それは、冷徹な王を欺こうとして、逆に彼という檻の中に、生涯閉じ込められる愛を知ってしまったこと。マンチェスターの雨上がりの虹の下、二人の終わらない「甘美な契約」は、今日も誰にも邪魔されることなく続いていく。
最後まで、ありがとうございました。




