婚約破棄してきたクソ王子が目の前で新しい女との愛を見せつけてくる。本物かどうか試してあげます 〜毒舌レイラの復讐〜
学院のホールに響き渡ったのは、私の婚約者かつ第三王子であるフェード殿下の勇ましい声だった。
「これをもって、レイラ・オルニア嬢との婚約を破棄する!」
……はいはい、出ました。
判を押したような婚約破棄宣言。
どうしてこれ系の人たちは、人前で大声を張り上げるのが好きなのだろう。
せめて人の少ないところでやってほしい。
こっちは暇じゃないのに。
しかも隣に立っているのは、清楚ぶった伯爵令嬢リマリアだ。
「殿下、それではわたくしとっ……」
なんて涙目で縋りついているけれど、つい数日前まで別の男と夜会の庭でいちゃついていたのを、私はしっかり見ている。
どうして男は、こういう清楚系が好きなのか理解に苦しむ。
清楚に見える女なんて、基本はそう見えるように工夫している。
むしろ腹黒いビッチである可能性の方が高いのにねー。
「レイラ、君じゃもうダメなんだ。いつも素っ気ないし、態度も悪い。僕が話しかけても嫌そうな顔をする。それに比べてリマリアは、いつだって優しい。彼女こそ運命の相手なんだっ!」
……ああ、耳が腐りそう。
運命の相手なんて、よくもまあ白々しいことを言えるものだ。
殿下、あなたが運命の相手を見つけたのは別に構わないけれど、せめて少しは頭を使ってから喋ってほしい。
私はゆっくり立ち上がり、集まった野次馬の学生たちのざわめきを背に受けながら、氷のように冷たい声で答える。
「……そう。では、こちらからもひと言だけ。――殿下、おめでとうございます。私としては心苦しいけれど、お二人の祝福を心より願っております」
にっこりと笑ってやった瞬間、殿下の顔がなんともいえない無表情になる。
私の反応が思ってたのと違うからだろう。
まったく、人を都合よく悪役に仕立てたいのなら、もっと上手に演じてもらわないと困るわ。
ま、いいや。
これで私は晴れて自由の身。
ずっとフェードの婚約者という鎖に縛られて隠してきた実力を、いよいよ解放できる。
残念でしたね殿下。
◇ ◆ ◇
その日の夜、オルニア男爵邸……なんていうとかっこいいが、現実は平民の家とそう変わらない。
ともあれ、ボロい書斎に父の慌ただしい足音が響いた。
「レイラァァァアアアアアン!!」
扉が勢いよく開かれ、息を切らせた父が駆け込んできた。
汗で額に貼り付いた髪と、青ざめた顔が父の動揺を如実に表している。
「殿下に婚約破棄されたというのは本当か!? 嘘だよな!?」
私は読んでいた魔法理論書から視線を上げ、淡々と答えた。
「ええ、本当ですよ」
「ななな、なんということだ……。これで、我がオルニア家は完全に終わった……」
父は椅子にへたり込み、鼻水をダビダビ流しながら頭を抱えた。
そうなってしまうのもしょうがない。
貴族であることが奇跡のオルニア家が再建するには、王家からの支援が必須だからだ。
涎を垂らして魂が抜けたような父上の様子を見ながら、私は静かに本を閉じる。
「父上、私としてはやれることはやってきました。父上との約束通り、殿下の活躍も陰ながらサポートしてきました」
「それは……そうだが……」
「ですが、殿下はそのことにすら気づいていない。彼が好きだったのは、私の顔や胸だけでした。父上は、そのような相手に私を捧げたのです」
「……や、それはッ……」
父はしどろもどろになって言葉が途切れる。
さすがに良心が痛み出したのだろう。
私は淡々と続ける。
「そういった考えだから、我が男爵家は貧乏で破綻寸前なのでしょうか? 母上は実家に帰り、兄上や姉上、妹までもが出て行ったではありませんか」
「それ以上は……父上のライフはもう……オーバキル…………俺にはチートなかったんだよぉ……」
父上は、独特の語彙力を持っている。
聞いたことがないような表現をよくする。
「さて、私もそろそろ出て行きますか」
「待て待て、お願いだレイラ! お前までいなくなったら、もう耐えられない! ミッドライフクライシスが襲ってくるんだ! 中年の危機!」
父の必死の懇願に、私は小さくため息をついた。
ダメなところが多い父とはいえ、さすがに見捨てる気にはなれない。
一応、ちゃんと育ててはもらった恩も少しはある。
「私は今後、私の思うように行動します。それでいいですね?」
「うう…………父は、応援します」
父の力ない声を背に、私は再び魔法理論書を開いた。
こんなものより経済学……いいえ『資産が一年で十倍になる!』みたいな胡散臭い本を読むべきなのかもしれない。
◇ ◆ ◇
翌日、いつも通りに学院にいくと、私を囲む視線が冷たかった。
予想通りすぎるので特になにも感じることはない。
そもそも私は、ここの生徒が基本的に嫌いだ。
学院には爵位や貴族の上下関係を持ち込まないのがルール。
でも実際は、暗黙の力関係みたいなものはある。
私のような男爵家出身はかなり下に見られる上、王子に婚約破棄までされたからだろう。
「ほらほら、レイラよ」
「フェード殿下を怒らせたんですって」
「あんな性格じゃあね」
「リマリア様の方がずっとお似合いだわ」
廊下を歩くたびに聞こえてくる囁き声。
ほぼ全員、王子とリマリアの味方だ。
鬱陶しいけれど、性格が悪いのは自覚しているのでそこはしょうがないのかもしれない。
このハーマイオニ学院は将来の王都を担う人材で溢れている。
学問、剣術、魔法などに長ける者たちが国中から集結する。
その彼らが作り出す世論は、やがて社交界全体の空気となるだろう。
つまりこのままだと、私は将来とんでもない嫌われ者になる……いや、もうなっているか。
教室に入ると、案の定フェードとリマリアが堂々とイチャイチャしていた。
「リマリア、君がいてくれて本当に良かった。大好きすぎる可愛すぎる天使すぎる」
「もう殿下ったら、褒めすぎですよぉ~」
「君を生んでくれたご両親にも感謝しなきゃな」
「フフ、殿下はいつも大げさですぅ」
「大げさなもんか。君が好きだし、大好きなんだ」
「私も殿下と幸せになりたいです」
なんという頭の悪い応酬だろう。
でも本で読んだことがある。
人は本気で恋愛すると脳みその機能が低下するらしい。
客観的に見て恥ずかしくて馬鹿っぽいことも、本人たちは神々しいと感じているのだとか。
怖すぎだろ恋愛。
私は一生、恋愛しないで生きていきたいです神様。
それにしても、あえて私に見せつけるような態度に最初は氷の心を保っていたが、あまりにもしつこくて段々とイラついてきた。
でもここで反応すると、相手や周りが喜ぶので絶対に態度には出さない。
我慢していると先生が入ってきた。
今年で三十歳になる女性教師だ。
だいぶ頼りなくて、私は苦手。
あとフェードや位の高い生徒に露骨に優しい。
さて、一限目は戦闘訓練で広い訓練場で行う。
この学院は三年制で15歳以上の十代がほとんど。
でも中にはかなり年上の人も交じっている。
私やフェード、リマリアは一年生だ。
特徴的なのは(学年ごとだが)生徒の強さランキングを付けていること。
まず自分のスタイル別でのランキング……例えば剣士とか魔術師とか。
それから全てを含めた総合ランキング。
フェードは、一年生の魔法剣士ランキング1位かつ、総合ランキング1位だ。
一年生の中では、最も戦闘力が高いとされる。
さらに、第三とはいえ王子でもある。
当然、周りにはいつも人だかりができる。
今日だってそう。
適当な魔法剣を披露すると、男女から喝采をあげる。
「さすがは殿下ですね!」
「珠玉の魔法剣術、拝見させていただきますっ」
「かっこいいです……フェード様……」
先生までもが特別扱いだ。
ちなみに、今日は1VS1の授業。
フェードとお手合わせをすることになった騎士志望の少年が緊張した面持ちで剣を構えた。
「では、始め!」
先生の合図で戦闘が始まる。
誰もが予想したのはフェードが圧倒する姿。
それなのに――思ったよりフェードが弱い。
いや、弱すぎる。
騎士少年の剣技にまったくついていけていない。
終いには、剣を弾き飛ばされてしまう。
「あ、あれ? おかしいな……今日は調子が悪いや……」
フェードは困惑している。
どうやら気づいていないみたい。
調子が悪いのじゃなくて、今までは私が貸与魔法で能力をかなり分けていたことに。
「悪いけど、もう返してもらったから」
私は呟く。
今までは父上の頼みを聞いて、フェードを気分良くしていた。
魔力を貸し、その上で身体能力をあげる魔法を定期的にかけてあげていたのだ。
フェードの評判をあげ、他の王子との継承争いで勝てるように。
でももう、その必要はない。
つまり、今の姿が本来のフェードということ。
くそ弱くて腹痛い。
さて、フェード以上に周りが動揺している。
そんな中、凛とした声が響いた。
「レイラ・オルニアさん!」
振り向くと、背後にリマリアが立っていた。
一見柔和な微笑みを浮かべながら、しかしその瞳には明確な敵意を宿す。
「私と勝負していただけませんか?」
訓練場が静まり返る。
なるほど。
恋人を寝取った上で実力でも勝ちたいと?
私はゆっくり口を開く。
「面白そうですね」
先生が慌てて間に入る。
「ちょっと待ちなさい。組み合わせは私が……」
「先生、個人的にレイラさんと仲良くなりたいんです。親睦を深める手合わせです。そうですよね?」
私は肩をすくめる。
「ええ、そんなところでしょう」
先生は渋々といった様子で審判を務める。
生徒たちがざわめき始める。
「リマリアは魔術師ランキング6位、総合ランキング20位だぞ」
「対してレイラは万能ランキング20位、総合ランキング72位だ」
「差がありすぎだろ」
「万能って聞こえはいいが、特化した武器のない器用貧乏だもんな」
周りの生徒たちは私の負けを予想している。
まあ、無理もない。
数字だけ見れば勝負にならないのは明らかだ。
「では……始め!」
先生の合図と同時に、リマリアが詠唱を開始した。
「【炎よ、我が意志に従い敵を焼き尽くせ】――ファイアボール!」
この詠唱は行う者と行わない者がいる。
詠唱のメリットは、消費魔力量を減らせること。また、魔法の成功率を上げること。
デメリットは言葉の分、発動がどうしても遅くなる。
ゆえに私は滅多に使わない。
さて、大きな火球がこちらに向かって飛んでくる。
私は腕を組んだまま、動かずに魔法を発動する。
「ウォーターウォール」
水の壁が私の前方に現れ、飛来する火球を呆気なく消し去った。
「クッ……【風よ、疾風の刃となりて敵を切り裂け】――ウィンドカッター!」
今度は無数の風の刃が襲いかかってくる。
私は腕を組んだまま、目を閉じる。
「アースウォール」
地面から厚い土の壁が立ち上がり、風の刃を全て受け止める。
「えぇっ、そんなぁ!?」
リマリアの顔に動揺の色が差した。
当然だろう。
魔術師で火力型の自分の魔法を、非力であるはずの私が難なく防いでしまったからだ。
なぜ万能型なのに……と。
私は隙だらけのチャンスを逃さない。
地面を強く蹴る。
地面の土が抉れるほどの脚力で、一瞬でリマリアとの距離を詰めた。
「へ?」
リマリアが反応する前に、私は彼女の胸ぐらを掴む。
そして、本人にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「あんまり舐めてんじゃねぇぞ、アバズレ風情が」
そのまま、父から習った背負い投げで地面に叩きつける。
「ガハッ……!?」
リマリアはしばらく息ができない。
全然本気ではないが、軽くもない威力だからもうしばらく苦しむだろう。
私は先生に視線を向ける。
「止めないのですか? もっと魔法を打ち込んだ方がいいのかしら」
「……勝負あり! レイラ・オルニアの勝利よ!」
先生が急いで止めに入る。訓練場は水を打ったように静まり返っていた。
◇ ◆ ◇
その一件は、中々強烈な印象をクラスメイトに与えたらしい。
一週間が経ったが、私をからかう声は圧倒的に少なくなった。
相変わらずといえば、フェードとリマリアのイチャつきぶりくらいか。
当てつけってくらい、イチャイチャを見せつけてくる。
髪を撫でてみたり、私のすぐ近くでキスしてみたり。
「やっぱり女の子は性格が可愛くなくちゃな」
「わたくし、暴力は苦手です。殿下は性格が可愛くない人に苦しめられたのですか~?」
「まーねー、でもリマリアは最高だよ。触らせてくれるし、いつも笑顔だし」
「だって殿下は、わたくしの運命の相手ですもの!」
バカップルがあまりにも酷いので、私がチラッと睨むと、二人は震え上がった。
いや、なにもそこまでビビらなくても……。
先生が教室に入ってきて、挨拶をする。
「皆さん、準備はできていますね」
今日は課外授業なので、いつもとは少し違う。
森に出かけて魔物を狩る実習授業が行われる。
先生が準備について説明している時、生徒の一人が手を上げた。
冒険者ギルドで仕事をしているという男子生徒だった。
「先生、今は魔物が活発に動く時期です。昨日も森は荒ぶっていたと冒険者から聞きました。延期した方がいいのでは?」
「大丈夫よ。我々には優秀な魔法剣士もいるし、何かあれば私が対処します」
先生は自信満々に答え、予定通り森への実習を決行した。
優秀な魔法剣士ってフェードのことだろうか。
生徒を頼りにしている時点で、不安しかない。
予定通り、生徒たち全員で森の中に入る。
最初は順調だった。
小さなゴブリンや森ウサギなどを相手に実戦経験を積んでいく。
怪我人もいない。
フェードも得意げに魔法剣術を披露している。
かなりしょぼいものだけど。
「十分、訓練になりましたね。そろそろ帰りましょう」
先生がそう言った時、木々の間から巨大な影が現れた。
灰色のオークだった。
その巨体は普通のオークの倍はあろうかという大きさで、鋭い牙と血走った目をしていた。
「全員、下がりなさい!」
先生が前に出るが、オークの一撃で吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられて気絶してしまった。
近くにいたフェードが慌てて後ずさりするが、オークの巨大な足に踏まれ、悲鳴を上げた。
「ぐああああ! 足がぁ!?」
圧倒的な戦力差を目にした生徒たちは、一目散に逃げ出した。
リマリアだけが、フェードの元に駆け寄る。
「殿下、逃げましょう!」
「だ、だめだ! 足が動かない……折れたっ」
リマリアの瞳が激しく左右に動く。
そんな彼女の足首をフェードがガシッと掴む。
「頼む、見捨てないでくれ!」
リマリアは振り返り、オークに向き直った。
「も、もちろんです!」
得意の火魔法を放つが、オークの胸に当たってもびくともしない。
完全に戦意を喪失したリマリアは、横目で逃げ道を探す。
意を決したのか、横道に走り出すが、すぐにコケてしまう。
フェードの手が足首に絡みついたからだ。
「どこへ行くんだリマリア……。僕を見捨てる気か?」
「離してっ、助けを呼んできますから!」
そんな鬼気迫った二人の様子を持参のお茶を飲みながら、私はニコニコで眺める。
その様子に気づいたリマリアは、初めはイラッとしたが、すぐに疑問を覚える。
あいつは、なぜここまで落ち着いていられるのだろうと。
すぐにハッとする。
「そうですわ! レイラさんなら、この化け物でも倒せるのでは!?」
「どうでしょう? 私には関係ないので、特に興味はないですね」
「はっ!? 見殺しにする気ですか!?」
「そうだぞレイラッ! 僕は仮にも王子だぞ。見殺しにしたら死罪になるに違いないッ」
「でも、お二人がお亡くなりになったら目撃者はいませんし。何より、私は真実の愛が見たいのです」
この状況で満面の笑みを浮かべるレイラに、二人は絶望的な顔をした。
リマリアがすぐにまた逃げようとするが、フェードの反応の方が早かった。
体にしがみつくようにして、逃すまいとする。
二人が仲間割れの攻防をする中、オークが二人の前に立った。
怯える二人に対して、蹴りを繰り出す。
鈍い音がして、リマリアの脚が変な方向に曲がってしまった。
「いやぁああああ――!!」
悲鳴を撒き散らす彼女を見て、オークは今度は両拳をそれぞれの頭部に振り下ろそうとした。
二人とも死を覚悟したが、拳が顔面や肉体を砕くことはなかった。
逆に灰オークが吹き飛んで、木の幹に背中を打ちつけた。
私がオークの腹に強烈な蹴りを入れたからだ。
「あの程度では、すぐに起き上がってくるでしょうね。でも二人は、もう逃げることも叶わない」
「一生のお願いだ、助けてくれ!」
そう懇願するフェードたちに、レイラは一つ提案をする。
「一人だけなら、連れて逃げることはできますね。でも私はどちらの命を助けるべきか? 私が助けるべき者の名前を叫んでください。3、2、1――」
「フェード!」
「リマリア!」
フェードはフェードと。
リマリアはリマリアと。
叫んだ。
お互い、憎しみに満ちたような顔で相手を睨みつける。
そのあまりにも醜い様子に私は乾いた笑いすら出てこなかった。
運命の相手はどこにいった?
隙を見て背後から襲いかかってきたオークだが、その足元から天に向かって火柱が立った。
紅に包まれたオークは、瞬く間に黒焦げと化す。
私が魔法を使った。
圧倒的な火力の前に、二人は大口を開けて、閉じることすら忘れている。
そもそものモノが違う。
そう痛感したのかもしれない。
私は二人の横を通り過ぎる。
「瀬戸際でこそ人の本性は出るといいます。お二人は、この危機的状況の中で全く同じ言動でした。――相性ぴったり! ――まさしく運命の相手! 結婚式には、絶対に呼んでくださいね? ぜひ今日の出来事を祝辞で述べさせてください!」
首を傾け、レイラはにっこりとスマイルを浮かべる。
悲しみか恐怖か安堵か、顔をくしゃくしゃにして泣く二人を尻目に、優雅な足取りで進んでいく。
普通に森を出て、そのまま自宅に直行した。
◇ ◆ ◇
翌日、いつものように登校すると学院中が大騒ぎだった。
「レイラ・オルニアが単独で灰オークを撃破!」
「総合ランキング72位の快挙!」
「フェード殿下とリマリア嬢を救出!」
こんな感じで大勢が騒がしい。
私が登校するなり、キラキラした目で生徒たちが囲んでくる。
口々に褒め称えるし、取り入ろうとしてくる。
「……こいつら、嫌いだわぁ」
わざと声に出したのに誰も聞いてくれない。
今まで、私のことを見下してきたのに掌返しがハンパない。
一生友達にもなりたくない。
鬱陶しいので無視して教室に入ると、フェードとリマリアが離れた席に座っている。
両者とも席の近くに松葉杖がある。
二人とも、脚が折れているによく来たね。
今日くらい休めばいいのに。
だが、なぜ登校してきたか理由がわかった。
先生が入ってきたと同時、フェードが松葉杖を使いながらも勢いよく立ち上がったのだ。
「せっかくなので、この場で言わせてもらおう。リマリア・ドート、本日をもって、君との婚約を完全破棄させてもらう!」
えぇ……。
教室でも婚約破棄するんですか……。
私だけじゃなくクラス全員がドン引きしている中、リマリアはショックを受けた様子もなく立ち上がる。
「ご自由にどうぞッ」
相手が王子だろうと関係ないといった様子だ。
まあ、昨日あんなことあったばかりだしね。
愛と憎しみは紙一重とはこのことでしょう。
最高に面倒臭いのは、その後フェードとリマリアが私に謝罪してきたことだ。
「僕がすべて間違っていた。君という最高の婚約者がいたというのに……。どうか過ちを許してもらいたい」
「無礼の数々、謝罪いたします。一晩考えて、レイラさんの親友になりたいと思いました」
私はそれぞれの松葉杖を蹴っ飛ばす。
倒れ込んだ二人に冷たい視線を向けてから、先生と生徒たちの顔を見ていく。
「このクラス、ロクなやついないわね」
私はドアをびしゃっと閉めて教室を出ていく。
今日は早退で。




