第一話 転生
なんやかんやあって転生した俺。
異世界では伯爵家の次男として産まれたらしい。
色々教えてくれる案内人が言うには、俺はどうやら最強らしい。
前世では出来なかった自由を、今世では満喫しようと思う。
目を開けると、身体に感覚がある。どうやら本当に転生したらしい。ここは……ベビーベッド?てことは、今は赤ん坊って訳か。
「あら、起きちゃいましたか?」
女性の声がする。視界が狭くて見えない。女の人が近づいてきて、俺を抱き抱える。やっと声の主が視界に入ってくる。真っ黒で綺麗な髪をした、20代くらいの女性だった。この人が母親か?と思うが、可愛らしいメイド服を着ている。なるほど。
(メイドがいるってことは、相当お金持ちなのかな……。)
「よしよーし、どうしたのかな?」
赤子に話すように喋りながら、あやす様に揺れる。
(まあ赤子なんだがな……。)
なんて心の中でツッコミながらも、状況を整理しようとする。
(転生だとここは異世界ってことになるな。魔法とかは使えるのか?)
そんなことを疑問に思い、
(試しに使ってみよう。でも、もし誰かに当たったら危ないな……。)
念の為小さな手を斜め上の天井に向け、魔法を使おうとする。確か漫画だと、身体全体に魔力が行き渡るようにして……。
ドゴォォォン!!!
勢いよく天井を貫く。その威力に驚き唖然とする俺、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして気絶するメイド。倒れたものの、メイドがクッションになって助かった。ホッとため息をついている暇もなく、轟音に驚いた家の人達がやってくる。慌てて何も知らないフリをし嘘泣きする。
「今のは何の音だ!? アカード、ルーシ、無事か!!?」
大声を出しながら駆けつけてくる金髪の中年男性。共に駆けつける茶髪の女性。その他にも小学生くらいの背格好をした男の子と女の子。武装をした男女が部屋に入ってくる。
「一体何があったんだ! 屋敷にヒビが入るほどの攻撃なんて……!!!」
「ホントよ……!幸いすぐにルフドが復元魔法を使ってくれたから屋敷は壊れなかったけれど……。ルフドが居なかったらどうなっていたの……。とにかく無事でよかったわ……」
「最近は魔物がここら辺に湧くようになったからな。流れ弾が飛んできたのかもしれない……」
泣きながら安心する彼女らに罪悪感が湧いてくる。
(いや、でも俺は悪くないはず……。いきなり魔法が使えるなんて思うわけないじゃないか……。)
言い訳しながらも、まあ怪我人も出ていないし良かったと安堵する。
「アカード……。よかったぁ」
「ビックリしたよぉ」
小さい男の子と女の子が泣きながら抱きついてくる。兄弟、だろうか。それにしても、どこもかしこも美形ばかりだ。目がチカチカしてきた。
突然、長身の男がドアを開けて入って来て、
「屋敷の復元が完了致しました。お怪我は無いようで幸いでございます」
と言いながら深くお辞儀をする。
すごい。この男、輝いている。イケメンすぎて。後光が差してる。サラサラで輝くシルバーヘアーに、整った顔立ち。脚はモデル並みに長く、女が憧れる細マッチョと言うやつだろう。
(羨ましい。俺もこんなチート級イケメンに生まれたかった。)
でも、両親の顔を見る限りブサメンということはなさそうで安心する。って、そんなことはいいから(よくないが)この世界がどんなものが知っておかないと。
(なんで産まれて間も無い俺が家を壊せるような魔法が使えるんだ?転生とは言っていたけれど、チートスキルが備わってたりするのか……?)
《その通りです。》
(うわっ、また喋った!? 死ぬ間際にもこの声が聞こえたような……。)
《はい。貴方を転生させたのは私です。》
(転生って……。そんな事が出来るのか……? それに、お前は誰なんだ……?)
《私は貴方の案内人です。正確には、貴方のスキルを私が使用させて頂きました。》
(俺の……スキル?)
《はい、貴方は生まれる世界を間違えてしまったのです。そのため、前居た世界でもスキルを所持していました。ですが、貴方のスキルは特定の条件下でしか使用出来ないので、今まで自由に使えなかった訳です。》
(世界を……間違えた。だからいい事がなかったのかもしれない。)
しかし、あんなに騒々しかったのに人の声がひとつも聞こえない。
《今は時間を停止しています。こちらも貴方のスキルです。》
(そんなチート級スキルを俺が……?)
《貴方は生まれる先を間違えてしまった。その加護みたいなものです。この世界では、貴方が最強です。》
(最強……。ハハッ、そうか。それなら……自由になれる。そうだ、俺のプロフィールについて教えてくれないか?)
《かしこまりました。》
ウィーンという音と共に、プロフィールが表示される。
《アカード・ウィルカーソン。生後5ヶ月と19日。ウィルカーソン家の次男として生まれる。9才の兄と、4才の姉がいる。ウィルカーソン家は代々伯爵家の血筋。父はここ中央の国、ウィータ国の元騎士団長。母は世界的に有名な科学者。》
(伯爵家……! だからこんなに使用人もいるし家も大きいわけか……。)
《貴方のプロフィールの説明は以上です。他に聞きたいことはありますか?》
(今日はもう頭に何も入らなそうだから遠慮しておくよ。大きくなれば本で調べられるし、分からないことがあったらまた聞く。)
《承知致しました。それでは、良い転生ライフを。》
一気に騒がしくなる。何となくの事は分かったし、とりあえず休みたい。生まれ変わったものの、心がヘトヘトだ。いつの間にかスヤスヤと眠りに落ち、騒ぎもだんだん収まってくる。少しボロボロになったベビーベッドも、ルフドと言う奴が直してくれた。
「伯爵様、ご夫人様、これから1ヶ月の間は屋敷の守りと結界を固める方向で行こうと思います」
「そうしてくれ、ありがとうな、ルフド」
「主様のご心のままに。」
部屋を出ていくルフドの後に続き、母も部屋を出ようとする。
「私は今日の事についてまとめてきますね」
「俺も、屋敷の警備について話してくる、頼んだぞ、ユスモ」
そう言い両親は部屋を出ていき、ユスモというメイドが俺を見守る。そのうち、俺は再び眠りに落ちる――。