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プロローグ

 この物語は、星山大学蹴球部の話で、僕が、蹴球部に入部してからの約二年間の話だ。でも、最初に、僕の高校時代の彼女の話をしなければならない。彼女は、サッカーに関しては、無知なもので、ゴールキーパーとハウスキーパーの区別すら、ついていないんじゃないかと、僕は疑っていた。

 じゃあ、何で、彼女の話をしなければならないかというと、彼女は、僕にとって、そして、星山大学蹴球部にとって、大切な人を、二人、残してくれたからだ。

 高校時代、僕は、J2の弱小ユースチームに所属していた。

 弱小というのは、トップチームもそうだったし、ユースチームの方も、散々な成績だった。とはいえ、ユースだ。その地域のサッカーの上手い奴らが集まる。今、考えても、僕が、セレクションに受かった理由が分からない。そして、高校卒業時には、極めて、順調に、トップチームには上がれず、星山大学に進学することになる。因みに、ユースチームから、トップチームに上がるのは極めて、狭き門だ。もちろん、チームによって違うが、一学年、十五人~二十五名中、トップチームに上がれるのは、二~三名ぐらいだろう。これは、世界的にそうだ。

 彼女と出会ったのは、高二の夏で、噴水の前だった。

 当時、僕は、ユースの練習後、チームメイトのユウジとダイスケと、寄り道して、買い食いをするのが、日課だった。練習は、夕方なので、つまり、夜ご飯の前に、ジャンクフードを食べていたことになる。

 ……スポーツ選手の卵としては、決して、褒められたものではない。でもまあ、お腹が空くからね。

 その日も、ハンバーガーをテイクアウトして、駅前にある噴水広場で、パクついていた。二年生の夏なので、おおよそ、チームの主軸になるか、補欠になるかの分岐点な時期だった。

 その観点からすると、三人とも、微妙だった。

 でも、その事情はそれぞれ違っていた。

 ダイスケは、いわゆる司令塔タイプというか、天才肌で、ボール扱いが上手く、サッカーも上手かった。その反面、ボールに対する執着心というか、そういったものに欠けていた。ユウジなどは、ダイレクトに、お前、もっとやる気だせよ、上手い奴が、必死にならなくて、どうすんだよ、と、分かった様な分からないことを、ズケズケと言っていた。ダイスケは、ダイスケで、飄々と、別に、手を抜いているわけじゃないんだけどね、と苦笑する。そして、何か言いたげなユウジに、ユウジみたいに走るのも才能だよ、と、言葉を足すのが常だった。

 ユウジは、CB希望で、ファイタータイプだった。ただ、身長が、伸び悩んでいた。CBで世界で戦うなら、一八五は欲しい。J1でも戦うには一八二はいるだろう。足元の技術は、普通だが、どんな相手にも、気後れせず、体をぶつけていくガッツがあった。

 僕が、どんな選手だったかというと、オール三の選手だった。この場合のオール三は、小学校でも五段階評価になる、高学年の話だ。つまり、目立つ欠点もないが、ウリになる武器もない、という、つまり、どう転んでも、トップチーム昇格は無理、というか、正直、日々の練習に疑問を覚える日々だった。

 ……とは言っても、弱小チームだ。

 俺だって試合に出たい、というのが、三人の共通見解で、試合に出る為にはどうしたらいいか、或いは、レギュラーの奴より、俺の方が上手い、と言ったことを、飽きることなく、話していた。

 三人が、愚痴なのか、建設的な議論なのかは置いといて、話が盛り上がっていると、

「あのー」

と、不意に、声がした。

 顔を上げた、僕ら三人の視線の先には、女子高生の三人組がいた。三人ともお揃いのブレザーを着ていた。そして、声の主が、後に、僕の彼女になる、マユミだった。もちろん、僕は、マユミの吸い込まれそうな瞳に、釘付けになった。

 しかし、同時に、マユミは、何処か、面倒臭そうな感じだった。……今、思えば、それは面倒臭い、とかそういうものじゃなくて、ある種の厭世観みたいなものだったのだろう。もちろん、何故、マユミが、そこまで、厭世観を持っていたのかは、僕には分からない。恐らく、僕には、いや、誰にも、永久に分かることはないだろう。

 マユミが、言う。

「せっかく、三人と三人だから、お茶しませんか。……ウチラ、女子高だし」

 後に、マユミから聞いた話によると、チカがダイスケにビビッと来たらしい。

 僕ら三人は、三人とも共学で、クラスに一人や二人、好きとまでは言わないが、いいな、と思う女の子がいた。学校が違う分、そういう話は、アケスケに出来た。それに何よりも、色気より眠気で、練習でクタクタだった。だから、逆ナンされるのは、もちろん、嬉しいし、光栄なことなんだけど、ちょっと、どうしようか的なとこはあった。それで、三人は、顔を見合わせた。僕には、ダイスケもユウジも乗り気でないことが、直ぐに、分かった。

 サッカーで、必要なことの一つに、勇気を持つこと、とはよく言われる。ところが、僕は、凡庸な選手で、つまりは、勇気にも欠けていた。

 真実の恋は勇気をくれる。

 僕は、このことをマユミから教わった。

 ダイスケとユウジが乗り気でないのを見て取った僕は、先手を打った。

「いいですね。ちょうど、場所替えしよう、と話していたところ」

 その夜、それから、どんな話をしたかは、今となっては、忘れてしまった。きっと、好きな音楽とか、へえー、サッカーやってるんだ、とかそういう話だったろう。

 その後、僕とダイスケ、マユミとチカで、時々、ダブルデートをするようになった。僕がマユミを好きで、チカがダイスケを好きで、そういう面子になった。ところが、残念ながら、チカの恋は実らないで、ダイスケからチカの話を聞くことは、直ぐに無くなった。

 今となっては、マユミが僕のことを好いてくれていたのか、分からない。

 一緒にいれば、僕のつまらない冗談にも笑ってくれたし、セックスもしたが、ペッテイングで終わる日もあって、マユミは、むしろ、そっちの方を、喜んでいたような気がしないでもない。

 そして、高校三年生の秋、僕たちが付き合い出してから、約一年後、マユミは自殺してしまった。

 ある日、突然、マユミは、隣町のビルから飛び降りた。でも、そのビルは、自殺のスポットとして、有名なとこだったらしい。つまり、マユミの中では、突然でなかったわけだ。事前に、そういうスポットを調べていたと考えるのが自然だし、もしかしたら、下見もしてたかもしれない。

 そして、もしかしたら、僕と会っている時に、話している時に、セックスしている時に、どうやって自殺しようか、どこで自殺しようか、考えていたのかもしれない。

 マユミが死んでしまって、しばらくは、そんなことばかり考えていた。

 マユミが死んでしまって、一週間は、本当最悪で、水ばかり飲んでいた。人間、水だけで結構、生きれるんだな、と、ボンヤリ考えていたのを、今でも鮮明に思い出す。

 マユミ、死ぬなら死ぬで、僕に、一言、言ってくれよ。

 それは、どんな言葉でもいいからさ。

 けれど、もちろん、マユミと話すことは、もう、出来ない。

 でも、マユミが僕に残してくれた人が二人いる。

 秋津子さんと直人さんだ。

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