タイトル未定2024/12/07 04:26
ハッピーエンドです
〜私公爵令嬢のフランソワですわ。最近私の家が没落しまして。なにもかもあの狸悪徳侯爵のせいですわ。ゴホンッ。失礼話しがそれるところでした。逃亡犯の私ですが、行き倒れてしまいまして。起きたら怪しい自称お兄さんの家。これってかなりまずいのではないでしょうか。〜
届いた文を私は握り潰した。日付は3日前になっている。どこかの転移魔法の使い手が私へ送って来たのだ。だから足を辿られる心配はないのかもしれないけれど。何かあったら巻き込まれる私の身にもなってほしい。
返信〜あたり前ですわ!さっさとお逃げ下さいまし! 何かもうされてしまった事後かもしれませんが、あなたがいなくなってしまうと悲しむ者がここにもいます。命を大事にしてくださいませ〜
チュンチュンと小鳥の声が聞こえる。私はハッと我にかえり飛び起きた。
昨日返信が返ってきた私の友人ともいえるかもしれない手紙にふたたび目を通す。
変なことですか・・・。ご心配頂いているところ悪いのですけれど。特になにもされていませんわ?
いえ。そのう私も乙女のはしくれでありますし。一応そういう知識も持っておりますの。
コンコン。
「どうぞ。」
「お嬢。朝ごはんできたぞ。」
ドアの向こう側からひょこりとのぞかれて朝食に誘われてしまった。
包布をそっと頭に手繰りよせ私の人生初のイヤイヤ期に突入してしまった私は精いっぱいの抵抗をしてみせた。
「私・・・。食欲がありませんの。ところで・・・。お食事のメニューは何かしら。ね、念のために聞いておこうかと。」
ぐうう~。はしたなくなったお腹。えええい。黙りなさい! 聞こえてないわよね? お願いそうでありますように。神様一生のお願いです。
なんにせよ。私は居候の身である。家主の好意に甘んじて自宅で療養させてもらっている上にこのわがままである。
まったくいっそのこと死にたいくらいの羞恥心がチクチクとおそってきた。
「ううう・・・。世の中なんて残酷ですのよ。」
「南国のチャトグレリオンの市場で新鮮なフルーツを仕入れて来てな。庭でとれた野菜とサラダにしれみた。路地裏のシャドバーンの焼き立てパンも買ってきたぞ。あったかスープとともに食べるとこれまたおいしいんだ。いいか。焼き立てだぞ。」
「また転移魔法でズルして買ってきたのですか。」
「私はそうはおもわない。大切な客人がいるんだ。多少の強引な手段などささいなことではないか。」
朝一で大陸を横断するほどの距離を朝ごはんのために転移魔法を連発しする大魔法使いがどこにいますのよ!?
「そう・・・。つまりおれは今日のごはんの美味しさに命をかけている。それはおそらくお嬢。君が思っている以上に、な。」
ですよね。基本この国では外国からの敵兵の侵入を阻止するために転移魔法の使用が制限されている。場合によっては死罪である。
それに今の時期はさらに警戒をする必要がある。なんせ今もなお私への追手の衛兵や暗殺者が町中のいたるところにいるのだ。
「というか。なぜおじ様は転移魔法が使えるのかしら。」
ほいっと差し出された手をとり私はようやく重いこしをあげベットから抜け出した。
「世に知られている転移魔法の術式ではないからな。フフッ。連中もまさか転移魔法の術式を停止して転移魔法が発動するのを阻止するたったそれだけのことが理論上不可能だということを未だに気づかないなんてな。」
「悪い顔していますわよ。」
「いやなに。ただ今それがこうして役立っている。あ、そうだ。ご飯の前に顔を洗って来なさい。」
「こ、子ども扱いしないで下さい。」
「これは失礼お嬢さん。先に料理よりそって待っておくとするよ。サラダ大盛りで良い?」
「ええ。それでお願いしますわ。」
「くまさんのクルミとレーズンのパンも買ってきた。好きだったろ。食べるかい。」
「く、くまさん。な、なんでニヤニヤして笑っているんですか。もう。先に行っていて下さい。すぐ私も向かいますわ。」
ゴクリんこ。絶対おいしい私が一番好きなパンですわ。
やれやれと手をすくめるの見てちょっとイラッとしましたけれど。なんだかおかしくなって冷水で流した顔をふきながら少し笑ってしまった。
「お、お待たせしましたわ。」
「はいどうぞ。」
スープをよそって私の前においてくれた。
「いつも通りとても美味しそうですわね。」
「ああ自信作だ。健康的なメニューだがちゃんと味も良いものばかりだよ。」
ニコっと笑うヒゲ。
「・・・。」
「おや。食欲あんまりなかった? つい作りすぎてしまったかな。残しておいても大丈夫。お昼味変して作り直すから。」
「おじ様。」
「どうした?」
「おじさんじゃなくてお兄さんだってもう言わないのですね。」
「まああれはネタだからね。この年になっておじさんなんて気にしてないよ。」
「あこれおいしいですわ。」
「そっか。お代わりあるぞ。」
「んん~♪」
「・・・。」
「ところでご結婚はいつ頃されますの?」
「え、しないが?」
「相手がいないんでしょ。」
「だいぶお嬢さま言葉が抜けてきたようだね。」
「ええおかげさまで。」
「そうか。ところでなんでお嬢は結婚願望ありそうだな。」
「さあどうでしょう。」
「あるとみた。まあでもおれはいいかな。」
「ヒゲ。ゴホンッ。なかなか顔は整っていますし。そのヒゲ。ゴホンッ。経済的にも困っていないですし。女性におもてになるのでは?」
(おれのことヒゲっていいたいのかな?)
「そうだな。否定はしないが。だが誰もが全員だれかと一緒にならないと幸せになれないというわけではない。おれはひとり身でも満たされているのでね。」
「そうなのですね。」
「なんだ気になってたのか。」
「いいえ全然これっぽちも。」
「そっか。食後の珈琲飲む?」
「あなたが飲むのなら。」
「はいはい。」
フンだ。
ずっとこのままの関係で良いと思っていた。あのことが起こるまでは。
*****
「うちで少しでも療養できたのならいいんだが。もっと早くここを見つけてあげられたら良かったのだけれど。男のむさい家にいる期間長引かせてすまなかったね。」
「いえ。個室も頂けてましたし。とても楽しかったですわ。本当に感謝してもしきれないくらいでして。」
「ならよかった。ここは元の国からの脅威に怯えることもない。きれいな景色に過ごしやすい気候。だけどほんとに教会で良かったの? べつに平民として人生をスタートしても良かったとおれは思うが。」
「ええ。もうこの人生に未練なんてありませんから。」
「そっか。まああまり思い詰めるなよ。お嬢。まあ例の友人ほどではないにせよおれもお嬢の幸せを願っているひとりだから。これからもお嬢の人となりに惹かれて大切なひとはできていくと思うよ。身分に囚われず自由に・・・。」
ええ。だけど私は一番欲しかったひとの心を惹けなかった。どうにもならなかった。いろいろ心配してくれて話してくれていたけどなにも頭に入って来なかった。
「おじ様も、お元気で。」
「ハハッ。忘れたのか? おれはいつだってここに遊びにこれる大魔術師だぞ? まあそれをいったら野暮だよな。ありがとう。じゃあなお嬢。最後に餞別だ。なにかあったらおれのとこにいつでもおいで。」
彼が差し出したなにかを受け取り私は黙って頷いた。話すとすぐにでも泣き出してしまいそうで。
あなたに私の恋は告げてあげたりなんかしませんわ。そう強がって唇をキュッと嚙み締めた。
*****
教会のシスターたちにあいさつをかわし、洗礼をうけた。みんな本当に優しいひとたちでわたしのことを歓迎してくれているのが伝ってきた。きっと彼女たちはひとの痛みが分かるひとたちだ。慈愛に満ちた笑顔に私は心の底から安心をした。
「あのひとと別れて良かったの?」
年の近そうなシスターのアンがそっと私の耳元にささやいた。
とっさに反応ができないでいた。今私はどんな顔をしているのだろうか。
「そう、そうなのね。でも大丈夫。私たちはあなたを歓迎いたします。」
「ありがとうございます。」
ちゃんと無理をしていない感じで笑えていただろうか。
「もうそんな顔しないの。」
「ご、ごめんなさい。うう・・・。」
そっと抱きしめてくれた。うんうんとまわりで見守ってくれていたシスターたちの手が重なりみんなで私を抱きしめてくれた。
この温かさを一生私は忘れることはないだろう。
*****
荷解きをしてて気づいた。お母さまから頂いた串がおじ様の浴室に置き忘れてしまったみたいですわ。
急いで転移魔法陣・快が書かれた魔法紙に手をのせた。
身体から魔力が吸われて行く感覚とともに私はおじ様の屋敷の廊下にいた。そっと扉から覗き込むと淡いランプの光のもとで彼は魔術書に目を通していた。
私の魔力を察知したのだろうか。
「忘れ物か? あとで私が届けても良かったのだが。」
「ええ。大事なものでしたので。」
「そうか。向こうではうまくやれそうか?」
「はい。おじ様のお知り合いのかたたちは優しくて美人なひとが多いのですね。」
「美人? まあそうだなあ。彼女たちは元貴族が多いからな。おっとすまない。今のは聞かなかったことにしてくれ。本人のくちから聞いた方が良いだろうから。」
「分かりました。」
「では送ろう。」
「お願いします。」
*****
あっという間に元いた教会である。もっと一緒にいたかったですのに。手を取りあっていたので離されてしまったのが寂しい。
「先ほどのお願いは聞いてあげます。」
「そうか。ありがとう。また近いうちに顔をみせるよ・おっと今みんなに顔を出すと帰してくれないかもしれないな。」
「ええ。また・・・。あ、あの。」
気づくと彼の袖をつまんでしまっていた。
「どうした?」
「あ、あの。さっきのお願い聞いてあげますわ。」
「ハハッ。なんだそれ。ありがとなお嬢。」
「だ、だから。その・・・。」
「うん。」
「ひと肌のぬくもりが恋しくなったら! 女性とその致したくなったときは! 私に会いに来てくださいませ!!!」
「と、年頃の女の子がそんなこと言っちゃいけま、」
背伸びをして彼の唇に思いを重ねた。
「他の女性に目をむけちゃダメなんですからね。あ。タイプじゃないなんて言わせませんよ。あなたなんてその、私の魅力でその・・・。あの・・・。あれなんですからね。」
「ハハッ。恥ずかしいならしゃべるなよ。」
「だ、だって。」
「分かったよ。今度きたときには指輪買ってこさせられそうだな。」
「約束ですよ。」
「そうきたか。」
「あ、笑った。真剣なんですからね私は。」
「はいはい。仰せのままにお嬢。まったくこんなおじさんのどこがいいんだか。」
「バ、バカにしないで下さいまし! 良いとこもちゃんとありますよ!! 多分!!!」
「おやすみお嬢。」
「おやすみなさい。」
常闇に消え去った男が次遊びに来るときの楽しみができた。
読んでくれてありがとう♪ 物語の設定ですが公爵家の一族郎党、悪徳貴族が裏から手をひいて全滅させられておりこのポンコツ令嬢は天涯孤独の身になっております。悪徳貴族はなにやらお嬢にご執心のご様子。
両親は自分たちの娘の悪役令嬢のポンコツ具合にそれはそれは心配されており天国から見守っていてくれていたそうです。