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シトミトゼ  作者: 暁針
プロローグ「アグスティア祭」
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5.ツィリカ VS キキ





砂で前が見えづらい。必死に目を凝らしキキの姿を追うが砂に隠れて位置が把握しにくい。砂が目に入り自然と涙が出てくる。そんな状態とは露知らず、脳内では先程のキキの試合を思い出していく。先程のキキの試合はひらりひらりと蝶のように舞いとても美しい戦い方であった。身体を隠すほどの両手剣を見事に扱い、軽やかな身のこなし。対となって戦う二人の少女は一種のショーであった。これから戦う相手であるが、なかなかやりにくいであろうと直感的に感じる。目が見えない今、体格に見合わない大きな武器を、身体の一部のようにぐるぐると私の周囲を一定の速さで回るキキがいつ攻撃してくるか、ドキドキしながら私は全神経を集中し研ぎ澄まらせる。

北東から音・・・・・・。



「ここっ!!」



僅かに聞こえた剣の音を拾い瞬時に反応する。気がつくとすぐ近くにあった顔を渾身の表情で睨みつけるが真顔で返されてしまう。涙目なのはご愛嬌だ。小柄ながらも重量感のある攻撃を、方向をずらすことによって逸らし回避する。すぐさま剣を振るうが軽やかに回避され砂煙の中へと消えていく。スタスタと軽快な足音だけが周囲から聞こえ、薄く目線だけを動かしよく観察する。



「ここでしょ!!・・・・・・あーーまた避けられた!!」



砂煙に飲まれ幻影と錯覚が私を苦しませる。気配を至る所で感じ、本当は複数人を相手しているのではないかと思うほど私は困惑していた。狩りに引きずり込まれたように捕食者の目で虎視眈々と狙われ、一瞬でも隙を見せたら食い殺されてしまうだろう。いまだ慣れない環境に苦戦し思ったように実力が出せない。



(スーーーーハァーーーー)



深く深呼吸し、落ち着きを取り戻す。私だって速さには自信がある!!視界が防がれただけで戦えないようじゃ、この先サンに笑われちゃうよ!!いけるぞ、ツィリカ!!負けるな、ツィリカ!!



一度警戒で凝り固まっていた体勢から脱力し、一度棒立ちになり、緊張を緩和させる。その瞬間を待っていたかのように背後から勢いよく首を狙った一太刀がお見舞いされるが、予想のできた攻撃に身体を翻し正面から剣を相手に突きつける。相手の両手剣とこちらの短刀。正面から戦えばこちらの分は圧倒的に悪い。本来であれば片手で使う短刀を、両手を使って力で押していく。勢いで両手剣を弾き飛ばし、特性を生かしたスピード勝負で胴体を切りつける。しかし服が切れただけで身体までは届かなかった。無意識に零れた舌打ちを置き去りにし、キキの元へと素早く駆け寄り、アクロバティックに身体を回転させながらナイフをキキの元へと送り届けてやる。遠心力で尖ったナイフがキキの胴体を縦の直線上に切り込みを入れ、じわじわと血が溢れてくる。服に血が染み込み赤黒く変色する。可憐な少女とはミスマッチだ。今のままではすぐに祝福によって傷が修復され、先程の傷が無かったことになってしまう。それでは首を落とすことなど遠い果ての先だ。私はこれを好機と考え、無茶なことだとは考えながらも勢い任せにキキの懐へと潜り込む。バランスを崩し上手く防御が出来ないキキの足を狙い、更に体勢を崩させる。



「はぁっ!!」

「ッ・・・・・・!」



切られた足に力が入らなくなり、ガクッと地面に倒れ込むキキ。しかし片足など最初からなかったかのように両手だけで体勢を起こし、距離を取られてしまう。身体をあたふたさせることなく直立し、微動だにしない。ものすごいバランス感覚だ。



「あなた・・・・・・強いね・・・・・・」

「・・・・・・ありがとう!!キーちゃんも強いね!!」



不意にキキから声を掛けられる。無口なタイプだと思っていたから突然声を掛けられ、少し反応が遅れた。



「キー・・・・・・ちゃん?」

「うん、そうだよ!!この呼び方ダメだった?嫌だったら違うのに変えるよ!!」

「ううん・・・・・・大丈夫。久しぶりに・・・・・・呼ばれたから・・・・・・びっくりした・・・だけ」

「そうなんだ!!じゃあキーちゃんって呼ぶね!!」

「・・・・・・うん」



砂煙に呑まれ視界は良くなかったが、なんだか嬉しそうな、でも悲しそうな、そんな顔が酷く印象に残った。しばらく無言が続いたが、その間にも《神の祝福》によって傷が塞がり、足が生えていく。



「傷・・・・・・塞がった・・・・・・」

「うん、塞がっちゃったね」

「ごめん・・・・・・話し掛けちゃったから・・・・・・」

「全然、大丈夫!!また一から戦えるなんて嬉しいよ!!」

「ほんと?」

「うん!!ほんと!!」

「・・・・・・あり・・・がとう、・・・・・・名前・・・・・・聞いてもいい?」

「ツィリカだよ!ツィリカ・インサーナー!」

「・・・・・・ツィーちゃん?」

「うん!そうだよ!」

「そっか・・・・・・。じゃあ・・・ツィーちゃん。そろそろ・・・・・・いくね」



その言葉のまま足に踏ん切りをつけ、勢いのままにこちらへと向かってくる。先程よりも重さもスピードも桁違いだ。重さとスピードが合わさった両手剣の威力が凄まじい。僅か数センチの距離に刃が通るのを、冷や汗を感じながら必死に避ける。その後も空を斬るだけで砂を味方につけたような、そんな攻撃が何度も何度も繰り広げられる。それに流れるように、無駄を一切無くしたように剣を奮ってくるため、攻撃がいささか読みにくい。あんなにも大きい両手剣がレイピアのように細く見えるような、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。



「この剣技は誰かに教わったの?」



攻撃を避けたあと、真っ直ぐに走る私に並走して着いてくるキキに疑問をぶつける。



「・・・・・・なぜ?」

「ここら辺ではあまり見かけない戦い方だから!ここら辺って脳筋な奴が多いでしょ?そんな綺麗な戦い方珍しいなって!!」

「・・・・・・師匠に教わった。・・・・・・ルルと・・・一緒に」

「そうなんだ!!お師匠さん、強い人だったんだね!」

「・・・・・・うん、凄い人・・・だった」



カキーーン!!

会話を続けながらも手を、足を止めることは無い。剣がぶつかる音が周囲の空気を一掃させる。お互いの力が拮抗し、目線が合ったキキに笑顔を向けると、少し口角が上がった気がした。

ブワァッと圧力が増しナイフが小刻みに震える。目線を片時も離すことなくこちらを見つめる様は一種の本能だったのだろうか。勝負を絶対に勝ち取るという気概をひしひしと感じる。連撃を避け続けるが次第に体力が無くなり、段々と対応出来るスピードが遅くなっていく。細かな傷が増え、身体の至る所で光が差し込んでいく。しかしそれは相手も同じこと。段々と赤い一線がドリップケーキのように身体中を彩っていく。



「・・・・・・ツィーちゃん・・・・・・早く・・・首斬られて」

「絶対に嫌!!」



自然と口角が上がるのを感じながら互いに武器で打ち合っていく。・・・・・・楽しい、めっちゃ楽しい!!心拍数が上がり、バクバクとうるさい。アドレナリンが湧き上がり、興奮状態となっている。痛みも特に感じない。いつまでもこの戦いを続けていたい。お互いの血が斬られた衝撃と風によって、飛び散るのが視界の縁に入った。それは運良く、キキの左目へと一直線に飛んでいってしまう。



「つっ!!!」



反射的に左目を閉じたキキに僅かな隙ができた。咄嗟に右手に持ち構えていたナイフを左手に差し替え、死角から攻撃を入れ込む。首横を狙ったその攻撃は筋がブチブチと切れる感触を感じながらも3cmほどの切り込みを入れることに成功し、そこからは血がドバっとほとばしる。苦痛の表情を浮かべ、不安定な首を押さえるべく左手を武器から離すキキだが、その行動は追随を許してしまったようだ。左手を武器から手放し首元へと持っていくまでの間に、ナイフで腕を刺していく。力を込めたナイフがミシミシと肉をこじ開け、硬い骨の部分も砕いていく。引き抜くとナイフが真っ赤に染まり、刃を通して血の雫がポトポトと地面に垂れていった。



「・・・・・・はぁっ・・・・・・はぁっ」



左手をダランとさせてこちらを見つめるキキ。遠くから見るとナイフで指した場所が赤黒い隙間となっている。両手剣は右手だけで構えているが、それはプルプルと震え、気力だけで持ち堪えているようだ。



「最後の勝負だよ、キーちゃん」

「・・・・・・」



覚悟を決め、宣言する。キキも首横を斬った影響か声が出ないが、目礼で意志を表明した。



「はぁぁぁぁぁ!!!!」

「・・・・・・!!」



気合を入れ、疾走してナイフを振りかざす。受けの体勢で私を待っていたキキは既のところで受け止めるが、右手はブルブルと震え今にも力負けしそうだ。私はキキの持つ両手剣をなぞるようにナイフを滑らした。力の矛先が突然変わり、ぐらりと重心が移動する。キキのアメジストのように美しい瞳がシャボン玉のように揺れるのが見えた。キキの歪み切った体勢は変わることなく、重力に引っ張られるように落ちていく。首元をナイフが捉える。この世の摂理とばかりに、非確実性の飴が溶けたように、神のお導きによってこの場面は終了を約束された。スローモーションのようにゆっくりとナイフが「首」と呼ばれる人間の体の部位を通っていく。よく手入れされたこのナイフは切れ味が抜群だ。それでも抵抗感はある。だがやらないと終わりは迎えに来ない。だからやらないといけない!キキの顔を見ると、鮮やかな瞳は閉じられていた。覚悟の決まった表情であった。ナイフが全て首に埋まり、首の中の体温がナイフを伝って手のひらへと集まった気がした。少しずつ少しずつ首の組織を破壊していく。観客の声が異様に遠く聞こえた。私は最後の勝負とばかりに首の皮一枚繋がった首を胴体から切り離す。プチンとなにかが切れた音を皮切りに、こもっていた音が鮮明になっていく。上空を頭部が舞っていた。



「勝者!!!ツィリカ・インサーナー!!!」



その言葉で私は試合に勝てたんだと、王都に行けるんだと、そう自覚した。


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