4.もう会いたくはないね
「勝者、サン・アイヴズ!!!!!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
歓声が会場内を包み込み、じわじわと勝利という二文字が頭の中にデカデカと映り込む。
「よっしゃぁぁぁ!!!」
嬉しさのあまり勢いよくガッツポーズをして、喜びを表現する。謎の鳥肌が身体中を駆け巡り、身体が勝手に震える。心が湧き上がる喜びで波打ち、全身が異常に興奮していた。喜びを分かち合うべく、観客席に満面の笑顔を見せ拳を高く握りしめると、うわぁぁぁと歓声や口笛が巻き起こった。その反応に俺はさらに興奮が巻き起こっていく。ふと、ベルトー二を見つめると《神の祝福》によって修復が終わりを迎える頃であったが、首だけは新しく生えてこないため近くまで持っていく必要がある。俺は急いでベルトー二の首を胴体の近くまで持っていき切断面をくっつけた。切り落とした首の方からは血が大量に出ていったためか生気のない顔で青白くなっており、とても不健康そうである。しかしそれも修復が終わり次第、元の顔色へと戻っていくためあまり心配では無い。
「ふっ、ぐぅっ、はぁっはぁっはぁっはぁっ!」
倒れていたベルトー二が突然起き上がり、信じられないような顔で首に手を当て、ちゃんと繋がっているのかどうかを確認し続ける。呼吸が乱れ、目の焦点があっておらず、どこか夢のようなそんな状態で一言も喋らない。先程までのあのうるさいベルトー二はどこに行ったのだろうかと思えるほど、物静かで呼吸音だけが聞こえてくる。
「おい、大丈夫か?」
さすがに心配になり近くへ寄ると、やっと俺に気づいたのか、こちらへと顔を向け瞳に光が入った。
「あっ、ああ、心配かけたね。首を切られるというのは初めての経験で少し戸惑ってしまったみたいだ。これを禁止にするアグスティア様のお気持ちがなんとなくわかった気がするよ。・・・・・・うん、もうこれで大丈夫!僕の美しい顔におかしな箇所はないかい?毎秒毎秒更新する僕の魅力に着いてこれているかい!?まぁ、着いてこれていなくとも君のせいじゃないのだけれどね!僕が美し過ぎるのが問題なだけなんだが・・・・・・。それにしても君の強さは賞賛に値する!勝つ自信しかなかった僕に勝ててしまうなんて!きっと勝利の女神が君に微笑んでくれたのだろう!!鋭く重い一撃に僕は感銘を受けた!僕には無い君の魅力が沢山詰まった剣技であったからね!相対した時に見た君の表情は絶対に勝ってやるという気概に満ち溢れていて僕自身圧倒されてしまったよ!・・・・・・実は先程君に贈ったペンダントがあるだろう?それとは別に僕が渡したいと思う人物にだけもう一個渡しているものがあるんだ!どうか受け取って欲しい!」
これまたひとりでに勝手に喋り、ひとりでに話を完結させ、ひとりでに俺の手になにかを置いていった。入り込む隙もなく、話を途切れされることも出来ないこの男は、謎の力を持っているらしい。しかし俺は先程の対応とは違い
素直に受け入れることにした。口こそうるさい男であるが、実力は本物でやりがいのある楽しい試合だったからである。俺は手の中にしまわれたものをじっと見つめる。
「これは・・・なんだ?」
「これはね、ミサンガというものらしいのだよ!これも僕を慕ってくれる仲間が提案してくれてね!場所によって意味が変わるらしいが、手首や足首につけてちぎれたら願いが叶う代物らしい!!初めて聞いたとき、なんて素晴らしいものなんだと感嘆に浸ってしまったよ!世界中の幸せを願う僕にはピッタリのものじゃあないか!だが魔法を使わず手作業で作った方が効果が高いと言われてしまってね・・・・・・。そのため配る人数を限らせて貰っているんだ。僕の直感で渡す人を決めていてね!!君・・・・・・サンくんで11人目だね!どうか遠慮せず受け取って欲しい!!」
「あっ、ああ、サンキューな」
ベルトー二のマシンガントークに苦笑いを浮かべつつ、素直に感謝を述べる。先程の会話を思い出しつつ手に持ったミサンガを見つめると不思議と叶いそうな、そんな予感がした。やはりこの男には不思議な力があるらしい。
「それでは一回戦第四試合、ラルク・アーグワー対ジチー・ドリトンの試合を始めます!呼ばれた選手は前へと出てきてください!サン・アイヴズ、ネストリ・ベルトーニ、両名は速やかに控えの席へ!」
「やべ!すぐに戻るぞ!」
「ふむ、長々と話し込んでしまったようだね」
ベルトー二の手を強引に引っ張り、控え席へと戻っていく。後ろでキラキラオーラを放っているが無視だ、無視。・・・・・・おい、周囲の奴に挨拶すんな!!早く足を進めろ!!おい、何食べ物買ってんだ!!今じゃねぇだろ!!子どもたちにキャンディーを分け与えるな!!後でやれ!!
・・・・・・疲れた。普段の何倍もの体力を使ったのかと思うほどぐったりとした俺を気にもしないベルトー二。どうして席に戻るまでにこんなに疲れているんだ。すると意気消沈とした俺の後ろでベルトー二が突然大声を出す。今度はなんなんだ?
「連れを見つけたよ!!ここまでありがとう、サンくん!!」
俺、お前のためにやってねぇんだけど?やっぱりこいつムカつくな・・・。満面の笑顔を振りまきながら、しかし少し悲しそうに別れを切り出したベルトー二に挨拶を交す。何度かこちらを振り返りながら連れの方へと歩を進めていくベルトー二を無視し、俺は清々したといわんばかりに軽い足取りでツィリカの元へと戻っていった。
「おつかれー!!いい試合だったね!!」
「まあな」
「見応えのある試合で観てて楽しかったよ!勝ててよかったー!」
「当然だろ?」
「でも相手も強かったねー!サンと互角に戦えるなんてこの街でもそうそういないのに!やっぱり世界は広いっていうことなんだね!!」
「ああ、戦っていてとても楽しい奴だった。想像以上に厳しい戦いで、身を引き締められたよ。でももう二度と会いたくないね」
ツィリカの隣の席へと座り先程の試合について感想を述べていく。特にツィリカはベルトー二の想定外の強さに興味が湧いたようだ。私も戦いたかった!次の対戦相手は強いのかな?と興奮気味に話している。それを上手く宥めつつ、いつの間に頼んだのやらドリンクやポテトをツィリカの了承を得て腹の中へと収めていく。乾いた喉に潤いが補給され、口寂しい口内に程よい塩味が食欲をそそってくる。あまりの美味しさに手が止まらないでいると、食べ過ぎだと怒られてしまった。汚れた口元や手を雑に拭き、いつ間にか自分のものにしていたポテトをツィリカの元へと返す。愕然とした顔でこちらを見つめるツィリカを無視し、目の前で行われていた試合にようやっと目を向ける。
「確か・・・・・・第四試合はダリスおじさんが言っていたドリトンさん家の娘さんと、・・・ラルク?だっけ?」
「あー確かそうだったと思う。二人ともかなりの実力者だって!それにラルクは去年、二回戦でエレアねぇと戦って負けた相手だったはず・・・・・・」
「あぁー、あいつか。観客席で見ていても白熱したいい試合だったな。エレアが勝ったがラルクもかなり粘ってた。決勝戦よりもいい試合だったんじゃないか?」
「うんうん!手に汗握ったよー!でもラルクって今回がラストチャンスだって言ってなかった?」
「まじか・・・・・・。それは次の試合気合い入れないとな。エレアと戦える実力者だし、もしラルクが負けたとしてもそれを上回る実力が相手にはあるって事だろ?」
「うん、そうだね。・・・・・・よし!!気合い入れて頑張るよ!!」
「一回戦第四試合、勝者ラルク・アーグワー!!!」
「あっ!!!ラルクが勝ったって!!」
ツィリカが俺の肩をバンバンと叩き呼びかける。目の前には勝利条件である首を落とされた少女の頭がコロコロと転がり、血や砂で汚れていく。首の切断面が異様にギザギザしているが気になったが、ラルクの武器を見れば一目瞭然であった。ギザギザと刃こぼれした巨大な戦斧の刃先が血で飾り付けられなんとも不気味な様相を漂わせている。それに加えラルクの凶悪ヅラが一層怖さを引き立てており、深窓のご令嬢が見れば失禁するのではないだろうか。相手の修復が終わる前にスタスタと控え席へと戻ってきたラルクが俺に鋭い目線を飛ばしてきたため、負けじとこちらもガンを飛ばす。数十秒お互いが睨み合ったまま時が止まり一向に動かないが、相手が折れたことによってこの勝負は俺に軍杯が上がった。・・・・・・勝ったな。
「一回戦の試合が全て終了致しました!!第一試合勝者ツィリカ・インサーナー。第二試合勝者キキ・イーヴァーション。第三試合勝者サン・アイヴズ。第四試合勝者ラルク・アーグワー。計四名が二回戦の試合に出場致します!!・・・・・・それでは二回戦第一試合、ツィリカ・インサーナー対キキ・イーヴァーションの試合を始めます!呼ばれた選手は前へと出てきてください!」
「うわぁぁ!!緊張してきたーー!!」
手足をバタバタとさせ落ち着きのないツィリカ。普段は緊張のきの字もないツィリカであるが、流石に今回の大会では心拍数が上がるらしい。そのツィリカの心情に合わせるように段々と雲行きが怪しくなってくる。段々と風も出始め、試合会場とは相性が悪そうだ。心臓に手を当てて落ち着こうと必死に深呼吸を繰り返すが意味はなかったようで、段々と意味不明な行動をするようになり、なかなか会場へと向かわない。しょうがないとツィリカの背中に一発喝を入れて気合いを注入する。
「ツィリカなら勝てる!!頑張ってこい!!」
「う、うん!!だよね!!勝てるよね!!よーし!!頑張るぞ!!」
勢いのまま飛び出していったツィリカを笑顔で見送る。高みの見物とばかりにこれから始まる試合を、座り心地の悪い椅子を座り直し観戦する。ポテトはもう・・・・・・ないか。いまだ口寂しい口内を唾を飲み込むことによって防ぎ、周囲の歓声をバックにツィリカの勇姿を見届ける。誓制魔法が終わり、審判の宣誓を待つ二人。風が強く出始め砂埃が起き、視界が悪くなっていく。このままでは悪天候になりツィリカが不利となってしまうかもしれない。相手もやりにくさを感じてくれればいいが。というか急にこんな悪天候になるのか?タイミングが悪すぎて何か作為的なものを感じる。・・・・・・まぁ、そんなわけねぇか。
試合開始の鐘が鳴り、お互いが同時に相手へと詰め寄り、硬い金属音が反響してこちら側まで圧を飛ばしてくる。砂埃によって詳細な状況が分からないながらも音と影、それらが俺たち観客を興奮の材料へとしてくれる。
「ツィリカーーー!!!いけーー!!!」
必死な思いで声援を飛ばす。ツィリカの勝利を願い、決勝戦で戦えることを信じ俺は叫び続けた。