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シトミトゼ  作者: 暁針
プロローグ「アグスティア祭」
15/29

14.異常事態





ボトッ。



ツィリカの首が胴体から切り離され地面へと落下する。白目を剥き、鮮血がナイフを伝わり地面へと滴り落ちた。一瞬の静寂の後、大歓声が辺りを包み込む。どこからどう見ても完全なる優勝であった。



「首がっ!ツィリカ・インサーナーの首が完全に切り離されました!!〜〜〜〜〜〜〜勝者!!

サン・アイヴズ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」



「わあぁぁぁぁーーーー!!!!」



感情が抑えきれなくて俺はギュッと目を閉じた。そして瞑ったまま上を見上げ、両手を大きく広げる。



勝った。勝ったんだ。俺はツィリカに勝ったんだ。



じわじわと幸福な気持ちでいっぱいになる。こんな幸せな時間が一生続けばいいのにと、幸せな俺は願うにはいられなかった。先程の出来事は一体なんだったんだろうとふと思ったが、そんなことを吹き飛ばすぐらい俺は幸せに満ち溢れていた。目を開けると祝福が可視化されたかのように俺の周りは輝いて見え、世界が一新されたようであった。なんて綺麗なんだろう。アグスティア様も俺を祝福してくれているのだろうか?きっとそうに違いない。だってこんなにも世界は美しいのだから。



「サーン!!サーン!!サーン!!サーン!!」



観客が俺の名前を叫ぶ。小さかった声は少しずつ大きくなり、やがて全体が一体となった。拳を上げ、声に応えるとさらに会場は盛り上がる。幸せだった。俺は幸福に浸り続ける。



その勢いもやがて収束し、俺はそろそろツィリカを起こそうとツィリカの元へと歩み寄っていく。このまま放ったらかしにしてたら後でなにを言われるのか分かったもんじゃない。それに今回は負けたけど次は勝つからね、なんて言われそうだ。苦笑気味に笑いながらツィリカの首を持ち、汚れていた顔を軽く手で払うと少し離れている身体の元まで歩いていく。その途中、今にも取れかかっていたヘアゴムをとり、後で髪を結おうと左手首へと付けておく。しゃがみこみ横たわっている身体と首を接触させ、《神の祝福》が発動し、修復されるのを待つ。



「おいツィリカ、俺が勝ったぞ。お前は悔しいだろうが、今回は俺の勝ちだ。」

「・・・・・・・・・・・・」

「さっきは悪かったな。なんだか怖気付いちまって、お前の首を斬れなかった。でも、ツィリカのおかげで斬ることができたよ。・・・・・・しっかしいい勝負だったな。お前と出会って十年、ぐらいか?ずっと張り合ってきたもんな。試合の勝敗も五分五分だけど、どっちが多く飯を食べられるか、とか・・・どっちが速く走られるか、とか・・・いろいろ。まぁ、これはツィリカに勝ったことなんかないんだけどな」

「・・・・・・・・・・・・」

「でも本当にお前と出会って良かったよ。ツィリカと出会わなかったらエレアやミドとそこまで仲良くなかったかもしれない。これは俺がお前を褒める唯一の事だ。誇ってもいいんだぞ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「王都に行っても頑張ろうな、俺たち。エレアもこの一年でさらに強くなっているかもしれないけど、俺たちも頑張ってきたんだ。エレアに勝てるかもしれない。いや、勝とう!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「だから、早く起きろって!!みんながお前を待ってるぞ!!二人仲良くみんなに挨拶といこうぜ!!」



肩をバンバンと叩く。しかしツィリカは何の反応も示さない。俺が肩を叩いた分だけ揺れていた。未だ白目のままで、首と胴体は繋がりを見せておらず、額の傷も修復途中でそのままであった。



・・・・・・おかしい。首を胴体にくっつけてから時間は経っているはずだ。なのになぜか何も治っていない。そろそろ全ての修復が終わるはずなのに、一向に変化は見られなかった。首の向きが少し違うかったか?いや、そうではないな。・・・・・・そういえば《神の祝福》時、傷部分が光るはずなのにツィリカの身体は何も光っていない。いったいこれは、何が起きている??



俺は司会者であるレプゴダーに視線を送った。俺には分からないがレプゴダーである彼ならば何か分かるかもしれない、そう思ったからだ。レプゴダーの男は不思議そうにこちらへと歩み寄り、状況を把握する。



「これは・・・・・・なにが起きているのでしょう?」

「なぁ、なにか分かんねぇか?」

「ふむ、しばしお待ちを。少し神界と連絡を取ってみます」



そう言って手を合わせ、小さく呪文を唱える。俺は少し離れたところでそれを見ていた。足元にはいくつもの魔法陣が浮かび上がり光を放っている。それらは円を描くようにくるくると回転しながら重なり合い、さらに眩しい光を放った。幻想的な光景に観客席側からは感嘆の声が聞こえる。



しかし何かに拒絶されたように突然魔法陣に雷撃が走った。突風が吹き上がり、砂が空中を舞う。空も曇天模様になり、雲行きが怪しくなってくる。想像もしていなかった出来事に誰一人対処が遅れた。腕で目を覆いながらもレプゴダーとツィリカの姿に目を凝らす。



「おい、どうなって・・・・・・!!!」



突然の魔法の暴走に、慌てているレプゴダーの男はこちらの声が聞こえていないようであった。必死に解呪の呪文を掛けようと口を動かすが、何の効果も示さない。それどころか突風の勢いがさらに増し、高さ何十メートルのハリケーンが局地的に発生する。ツィリカの首が風に乗せられて上空を舞い、残っていた血が飛び散った。風の勢いが強すぎて俺はその場に留まることしかできず、近づくことすら出来ない。



「つっ、っはぁ!!ツィリカ!!」



大声でツィリカの名前を叫ぶ。しかし何も届かない。縦横無尽に飛び回るツィリカの首はそんな俺を嘲笑っているかのように自由であった。



「ウーゴレプゴダー!!!!今すぐその場から離れなさい!!!」



慌てた様子でバニガスレプゴダーがこちらへと駆け寄ってくる。その後ろにはダリスおじさんも追従していた。二人はこちらへと到着すると、ウーゴレプゴダーを魔法陣から剥がし、遠くへと放り投げる。そしてバニガスレプゴダーは自ら魔法陣の中へと入り、魔法を唱えるため準備を始めた。



「ダリス!!いいですか!!!」

「勿論ですよ!!!バニガスさん!!」



先ほど唱えていた解呪呪文とは別の呪文を二人は唱えていく。重なり合う声は効果を倍増し、威力を最大限に引き出しているようであった。聞いていた関係とは裏腹な、息のあった魔法に俺は驚き息を飲む。



しかしそんな状況などつゆ知らず、無情にも風の勢いは留まることを知らない。二人の顔には次第に汗が伝い、魔力の使いすぎによる疲労が現れ始めていた。



「っぅ!!ダリス!!もう少しの辛抱です!!」

「分かってます!!こちとら、まだまだいけますよ!!」



力を振り絞り、全力を尽くす。レプゴダーとしての職を全うするべく、必死だった。だが、力及ばず二人は大きな力によって弾き飛ばされる。



「っぐぅっ!!!」



邪魔するものは居なくなったとさらに威力を増すハリケーン。それは観客席にも及び、人々は散り散りとなって逃げていく。席が雪崩のように崩壊し下にいた逃げ遅れた人が押しつぶされていた。一体何が起こっているのか、俺たちには何も分からなかった。唯一分かっていること、それはレプゴダーの力を使ってもなお防ぐことが出来ず、勢いが増し続けていることだけ。為す術は何もないのか!?このまま見ているだけで何も出来ないのか!?



「ツィリカーーーーーーーーーーーーーー!!」



ただひたすらに叫ぶ。理解に苦しかった。一体何が起きている?弾き飛ばされた二人は諦めず呪文を唱え続けるが、大きな力の前では無に等しい。



「バニガスさん!!これは一体神界側で何が起こってるっつーんですか!?こんなのはじめてですよね!?」

「神界側で何か問題が起こったのは確実だ!このままではさらに被害が広がる!!早急に他の街から応援を呼ばないと!!」

「おい誰か!!伝達魔法で近くの街に片っ端から連絡をしろ!!魔法石はどれだけ使ってもいい!!緊急事態だ!!!急げ!!!」

「っはい!!!」



疾走でこの場から黒の教会に向け走り去る人物。

その後ろ姿を早く行け!と圧をかけながら見送り、俺は再びツィリカの首を見つめ続ける。早く首を元に戻してやらねぇと。そうしないとあいつ動けねぇじゃん。なにか・・・・・・なにか俺にも手伝えることがあるかもしれない!!



「ダリスおじさん!!バニガスレプゴダー!!何か手伝えることは!!!」

「おいサン!!近づくんじゃねぇ!!!離れてろ!!」

「ツィリカがあんなことなってんのに、このまま黙って見てろと!?そんなの嫌だね!!」

「危ねぇって言ってんだろ!!!」



近づいた俺にダリスおじさんが怒号を浴びせる。だがそんなことで従うような俺じゃない。ダリスおじさんの言葉を無視し、さらに近づいていく。標的をハリケーンに向け注視していた二人は後ろから来る俺は除けさせることが出来ない。バニガスレプゴダーは諦めたように俺に指示を出してきた。



「ズボンの右ポケットに小さくはありますが、魔法石が入っています!」

「バニガスレプゴダー!?!?」

「私が許可します!!使える者は使った方がいい!!そして、その魔法石を私と、ダリスの前に掲げて下さい!!・・・・・・ダリス!!今から消滅魔法を使用します!!よろしいですか!!」

「・・・・・・っ!!あ゛ぁ゛っ、くそっ!!分かりましたよ!!」



無茶な要求を言われ焦るダリスおじさんであったが、息を合わせ呪文を唱えていく。手のひらで握れる程のサイズの魔法石が俺の手の中で輝き、二人の身体の中へと吸収されていった。そして先程よりも大きく、幾重にも重なる複雑な魔法陣が構築され、輝かしい光を放つ。消滅呪文なんて、成功率は限りなく低い。しかもそれを一人ではなく二人がかりでやるなんて。無茶にも程がある。でもなぜか俺の中には成功する未来しか見えていなかった。二人の顔がとても全力で、真剣だったから・・・・・・。



観客席からは二人に感化されたのか、逃げるのを止め何か出来ることは無いかとこちらへと降りてくるものも現れ始める。誰しもがこの不可解な状況を打破したいと必死だった。レプゴダーをサポートし、このハリケーンを消滅させる。



全員が息を合わせた。皆の思いがひとつであった。風が鋭い刃のように俺たちの身体を傷つける。目が眩み、立ってもいられない。それでも誰一人諦めてはいなかった。



『うおおおおおおおおおおおおお!!!!!』






・・・・・・どこかでパリンと音が鳴った気がした。



消滅魔法が成功し、ハリケーンが止んだ。しばらくの沈黙の後、周りから歓声が上がる。



「っはぁ、っはぁ、っはぁ、っはぁ」



肩で呼吸をして息を整える。あれだけの曇天模様が一気に晴れて、青い空が顔を覗かせた。ツィリカの首が鈍い音を立てて地面へと落下する。高いところから落ちた衝撃で頭蓋骨が割れた音が聞こえ、俺は急いで首へと駆け寄り頭を抱きしめた。



「早くくっつけてやらねぇと・・・・・・」



俺は落下した衝撃で無惨な姿になったツィリカの首を急いで身体の方へと持っていく。砂まみれになっていた身体を軽く払い、首を接合部分にくっつけた。しばらくその状況で待機する。しかし待てど暮らせど修復される気配がない。やはり神界で何か問題が??もう何が起こっているのか分からなかった。



「おい、サン!やっぱ《神の祝福》発動しねぇか?」



汗をかき疲労をしょい込んだダリスおじさんがこちらへと声を掛けてくる。



「あぁ、首が一向に繋がらねぇ。一体何が起こってるっていうんだ?」

「さぁな、俺にも分からん。今神界側と連絡を取ることができねぇし・・・・・・。今近くの街からレプゴダーを呼んでくるよう手配してるから、もうちっと待ってくれや」



そう言ってツィリカの身体を挟んで俺の正面へと音を立てて座り込んだ。胡座をかき手のひらに顎を乗せ、もう片方の手でツィリカの頭を支える。



「早くお前らが二人揃った姿を見てみたいぜ。アグスティア神もなんてタイミングが悪ぃんだ」

「あぁ、早くツィリカが目覚めてほしいもんだ」



指の腹で汚れていた頬を軽く払い、崩れていた前髪を軽く整えた。ハリケーンは止んだが、ツィリカが目覚めていない現状に俺たちの顔は明るさを取り戻せていない。するとこちらを全速力で走ってくる音が聞こえた。その音の方向に目を向けると、先程伝達魔法で情報を伝えに行っていた者が帰ってきた音であった。



「失礼致します!!伝達魔法でこちらの状況を伝えてまいりました!!」

「おっ!!来たな。それでどうなった?」

「・・・・・・それが、周辺の街もこちらの状況と同じようにハリケーンが突然発生しており、《神の祝福》も発動していないようです」

「っくそ!!一体なにがどうなっているんだ!!」



ダリスおじさんが拳を地面に叩きつける。まさかルーバだけでなく他の街でも同じ状況だったとは・・・・・・。今日は国全体でアグスティア祭が行われている日だ。時間帯的にも俺らと同じ決勝戦で負けた奴らの首が離れ離れになっているだろう。《神の祝福》も効かず大慌てなはずだ。・・・・・・というか周辺の街だけなのか?もしかしたら国全体、いや世界中でこの現象が起きているかもしれない。そうなったら混乱は免れないぞ!!



はあっ・・・・・・。

ただでさえ目まぐるしい一日だったのにさらに疲労が見える。早く問題が解決して欲しい。そう願わずにはいられない。



「おい、ツィリカ。早く目覚めろよ」



俺は脱力し、意味がないことを分かっていながらもツィリカに話しかける。こんなことをしてもなんの意味もないが、俺にはこれが気休めとなった。



ツィリカの状態を見るに細かい傷は修復され目立っていないが、決勝戦で負わせた肩や額の傷は《神の祝福》によって修復されている途中であった。つまり、俺が首を切った直後、または首を切る寸前に神界側で何か問題が起きた?しかしこんなこと教典にも書かれていないし、他の人から聞いたこともない。何から何まで初めての経験すぎる。



「ダリス、それにサン・アイヴズ」

「バニガスレプゴダー!!」



後ろから突然声を掛けられる。足音もなかったもんだから大層驚いてしまった。バニガスレプゴダーは俺とダリスおじさんが見えやすい位置、つまりツィリカの足元に立ち目線を合わせる。



「・・・・・・サン・アイヴズ。先程は大変申し訳ございませんでした。不測の事態であったとはいえ、それを顧みず無茶をさせてしまった。何が起こってもおかしくはないというのに・・・・・・大変申し訳ございません」



そう言って頭を下げるバニガスレプゴダー。深く下げられた頭は後悔の念がひしひしと感じられた。



「それに、ダリス。無理な要求を沢山してしまいました。成功確率の低い魔法をぶっつけ本番で行い、貴方を危険に晒してしまう始末。これでは上司失格ですね」

「いえ!!バニガスレプゴダー!!それは違います!!あの時あの状況で誰もが混乱状態であったにも関わらず、迅速に動けたのはバニガスレプゴダーの指示があったからです!!あなたがいち早く事態を把握されたことで今の私たちがあります!!ですのであまり自分を責めないでください!!」

「ふっ、ははっ!!そう、ですか。・・・・・・まさかダリスに励まされるとは思っても見ませんでした。ありがとうございます」



和やかな雰囲気が流れる。バニガスレプゴダーを前にすると緊張していたダリスおじさんも、微笑みを浮かべていた。



「俺も二人には感謝してもしきれません」



二人の目線がこちらへと向いた。



「ハリケーンが発生してツィリカの首が浮いてしまった時、俺はただただ見つめることしかできなかった。ただ、叫んでツィリカの名前を呼ぶことしか出来なかった。でも、すぐに二人が駆けつけてくれたおかげで自分も動こうと、何か出来る事があるんじゃないかと思うことが出来た。・・・・・・だから、その、ありがとうございます」



感謝なんて言い慣れていないから、恥ずかしくなって目線が下へと向いた。顔が赤くなるのを感じる。



「・・・・・・ははっ、まさかサンから感謝の言葉を聞くなんてなぁ」

「ふふっ、アイヴズのおかげでハリケーンが収まったといっても過言ではありません。こちらこそ感謝致します」



慈愛の目で見つめられ顔を見ることができない。この空気を誰でもいいから変えてくれ!!すると俺の願いが届いたのか誰かがこちらへと歩いてきた。ザッ、ザッと後ろから突然足音が聞こえる。先程一緒に戦ってくれた人だろうか?そう思い振り返るとダリスおじさんとバニガスレプゴダーに突き飛ばされた司会者のレプゴダーがこちらへとゆっくり歩いてくる。



「ウーゴレプゴダー!先程は大変申し訳ございません!混乱状態であったあなたを剥がすために無理やり突き飛ばしてしまいました。お怪我はございませんか?」



バニガスレプゴダーが声を掛けるが反応がない。うつむき加減で表情が読み取れず、また何かをぶつくさと呟いている。



「ウーゴレプゴダー?どうかされましたか?」

「・・・・・・ギ・・・・・・・・・・・・ガ・・・・・・・・・・・・」

「??もう一度お願いします」

「・・・・・・・・・・・ギギ・・・・・・・・・・・・ガガ・・・・・・」

「ウーゴレプゴダー、もしかして突き飛ばした時に頭でも打ってしまいましたか?」

「ギギギギギギギギギギギギギギギギガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」

「ウーゴレプゴダー!?!?」



はっ!?なんか急に壊れたぞ!?こいつ!?!?衝撃で空いた口が塞がらない。一挙手一投足そいつに夢中になる。



「ギギギギギギギギアーギギギギギギギガガガガガガテスガガガガガガマガガガガガクガガガガテスガガガガギギギ」


「ギンンギギギギギアーギギギギギマイギガガガガガガテスガガガガガガマガガガガガクガガガガテスガガガガガギギ」


「ン゛ンンゥーーーアーーーアーーマイギグマイギグガテスガガガトーガマガイイガガクガガテテテストガチユュー」



腕を横に広げ羽のようにパタパタと動かし、軽くジャンプをする。また、音楽に乗っているかのように楽しそうに踊ったりしている。しかし顔だけはこちらから片時も外しておらず、それがとても奇妙であった。表情も真顔で統一されさらに奇妙さを増す。また、声は機械音声のように無機質で壊れており、聞き取りづらい。



『んんっ、あ〜〜〜あ〜〜〜マイク??テストちゅ〜〜、マイクテストちゅ〜〜〜〜である!!』



いきなり機械音声から少女の声に変わった。しかし見た目はウーゴレプゴダーのまま。一体何が起きている!?しかしその言葉を聞いた瞬間、俺たちは条件反射的に跪く。その声は酷く心地よく、頭の中で直接聞こえているみたいであった。ふと目線を一周させると、コロシアム内部にいるもの全員が跪いている。もしかしたら外にまで影響を及ぼしているかもしれない。



『うむうむ!!苦しゅうないぞ〜〜〜〜!!』



絶対に逆らってはいけない、そんな重圧が俺たちを支配する。圧倒的存在に身体が萎縮した。



『身体を楽にせい!!我は怠けておるからといって裁きを与える訳では無いぞ〜〜〜!!』



後光が差し輝きを放っている神様を目の前にそんなことできるはずもなかった。しかし神様は御立腹されたようで、無意識のようではあるがさらに光を放つ。そんな様子に俺たちは緊張と怒らせてしまった恐怖で、全身から汗が吹き出したり、身体が震えたりした。



『おおっと!!すまないの〜〜!ついついやってしまった!自制するというのはやはり難しいのぉ〜〜!!』



ハッハッハッ〜〜!!と豪快に笑う神様を見てほっと胸を撫で下ろす。しかしそれでもまだ緊張感は抜けない。なぜ下界へと降りてこられたのか、また、ハリケーンが発生し《神の祝福》が発生しなくなった理由とはなんなのか。それを機嫌を損ねることなく聞かなければならない。皆の視線が自然とバニガスレプゴダーに注がれる。そして、バニガスレプゴダーも分かっていたかのように覚悟を決めゆっくりと口を開いた。



「アグスティア様。拝謁賜りまして大変恐縮にございます。私、アグスティア教会ルーバ支部所属の第一レプゴダー、ユーグリス・バニガスと申します。このような素晴らしい一日にお目にかかることができ、大変嬉しく存じます。・・・・・・不躾な質問をいたしますこと、大変失礼いたしますが、本日はどのようなご用件でこちらにお越しになられたのでしょうか。この地でなにか失礼なことをいたした者がいたのでしょうか」



『おぉ〜〜!!お主レプゴダーか!いつも助かっておるぞい!!今後もよろしく頼む!!・・・・・・それでなぜこちらに来たのか、じゃったな?いや〜〜こちらには来なくても良かったのじゃが、ワシが来たかったから来たのじゃ!!それに先ほどからおかしなことが起こっておるじゃろう??それを説明しないというのも神としてはダメなんじゃないかと思ってのぉ〜〜!!それに今はちと神界側がごたついとるし、逃げてきたと言うわけじゃ!!ワッハッハー!!』



それはとてもありがたい。《神の祝福》が発動しないというのは俺たちにとってとても重要な事だ。それを説明してくれるというのであればこの先どう動けば良いのかも分かってくるだろう。早く教えて貰ってツィリカの首を修復したい。



『あっ!そうじゃ!!先にちょっと訂正しておきたいことがあってのぉ〜〜!!実はワシ、スティアという名前で、アグスティアという名はワシともう一人の神アグが一つになったものなのじゃ〜〜!!ナッハッハッ〜〜!!』



「・・・・・・スティア・・・様??アグ・・・・・・様??」



『うむ!!そうじゃ!!そうじゃ!!たしか〜〜つい五百年ほど前だったかの?ワシとアグは一つの存在だったのじゃが、ある日いきなり二つに分裂してのぉ。予期していなかったことで最初は驚いたんじゃが、今ではこの生活も気に入っておる!まぁ、アグはずっと怒ってばっかでたまに逃げ出したくなるのじゃが・・・・・・。って今も逃げとるか!!ワッハッハー!!』



「そうでございましたか。それは大変申し訳ございません、スティア様」



「うむ!!良いぞ〜良いぞ〜!!」



なんて元気な神様なんだろう。想像していた神とは全然違いかなりフレンドリーだ。見た目がウーゴレプゴダーなのが違和感ではあるが、親しみやすいその空気に、先程まで緊張でカチカチに凍っていた体勢を、少しばかりか楽にして話を聞く者も現れた。しかしなぜか俺は底知れぬ恐怖を感じていた。神様だからなのだろうか?いや、しかしもっと別のなにか・・・・・・。いや、やめておこう。やはり神様というのは俺たちとは異なる存在であると再認識する。



「それでスティア様。神界側で何があったのか、お教えいただけますでしょうか」



『そうじゃった!!そうじゃった!!では話していくぞ〜〜!!』



一体何が理由なんだ?早く直してほしい。俺はツィリカと一緒に王都に行くんだからな。騎士団に入って名声を得る。そしてエレアとも競い合って充実した日々を送る。たまにルーバに帰ってミドやダリスおじさんと語らいてぇなぁ。その時には酒にも強くなっているだろう。ダリスおじさんは生粋の酒好きだからなぁ。潰れないように気をつけないと。・・・・・・魔物を倒し、犯罪者を捕まえ、そして地位を手に入れる。あぁ、今からとても楽しみだ。


















『・・・・・・実はのぉ、お主らに与えてきた《神の祝福》を打ち切ろうかと思ってのぉ〜〜』








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」








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