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シトミトゼ  作者: 暁針
プロローグ「アグスティア祭」
11/29

10.一時の休息




目を覚ますと、俺はベッドに寝かされていた。動く気になれずぼーっと辺りを目だけで見回していく。窓を見ると太陽の光が部屋全体を明るくしており気持ちが良い。しかし簡易的に作られたベッドなのか、そこまで柔らかくなく目覚めが良いものでは無かった。



あーそういや俺・・・・・・



先程あった記憶が蘇ってくる。激闘の末、ラルクに勝利したこと、そして王都行きが確定したこと。そして疲労なのか分からないがあれから気絶し今に至るということを。



あれからどれほど時間が経ったのだろう。太陽の位置を見るにそこまで時間は経っていないはずだ。決勝戦までに直ぐに準備しないと、ツィリカにドヤされちまう。



俺は急いで布団をめくり、床に足をつけ立ち上がろうとした。そのとき、ドアノブがガチャッと回される。



「あれ?サン、もう起きたんだ」

「ミド・・・・・・」



ドアノブが音を立てて回り、部屋に入ってきたミドは目をいつもより大きく開けこちらへと近づいてくる。その手には軽く食べられるようにとサンドウィッチが運ばれていた。



「怪我は大丈夫??」

「ああ、もう完全に治った。ちぃーと身体がだりぃけどそれもすぐ戻ると思う」

「そっか、良かった。・・・・・・これサンドウィッチ。お腹すいてるでしょ、良かったら食べて」

「悪ぃな」



色鮮やかな具材が挟み込まれたサンドウィッチがすきっ腹な俺の腹を満たしてくれる。肉に野菜に魚。全て違う味のサンドウィッチに飽きることなく舌鼓を打つ。



「・・・・・・うめぇ」

「ふふっ、良かった。そう言ってくれて嬉しいよ」

「やっぱミドの料理は美味いな。毎日食いてぇ」

「毎日は厳しいなぁ。でもリクエストがあれば気軽に言って!作ってくるから!」

「なんでもか?」

「そこまでの自信はないけど・・・・・・」

「ははっ、いや悪ぃ。また食べたくなったら言うわ」

「うん、わかった」



サンドウィッチを食べ終え、ソースが付いた指を少し舐め、洗浄魔法で綺麗にする。そしてミドの魔法によって出された水を有難く頂き、喉を整える。その工程をやり終えて俺は両腕を真上にやり身体を伸ばした。身体がボキボキと鳴り、凝り固まっていたんだと自覚する。



「俺はどれぐらい寝ていたんだ?」

「一時間ぐらいかな?いびきまでかいてぐっすりだったよ。あっ、普通に観客のみんなは準決勝のあとお昼休憩だったしみんな休んでるよ」

「そうか」

「うん。サンが起きたら決勝戦を始める予定だったから、僕大会の責任者にちょっと伝えてくるよ」

「えっ?あっ、ああ」



急ぎ足で部屋から出ようと、ベッドから降りドアへと近づいていく。そしてドアノブに手をかけた瞬間、ミドがこちらへと振り向いてきた。



「サン、決勝進出おめでとう!!夢が叶って本当に良かった!!二人して王都に行くことが叶って僕はちょっと寂しいけれど・・・・・・応援してるよ!!」

「・・・・・・ありがとな」

「う、うん!それじゃあ僕伝えてくるね!」



普段よりも荒くなってしまったドアノブの音に気づくことなく、ミドが急いでその場から離れていった。次第に小さくなっていく駆け足に少し笑みを零しつつ、それとは別にこちらへと近付いてくる二人分の足音が俺の注意を引いていく。ドアノブがガチャッと回り、二人の人物が部屋へと入ってきた。



「あ!!サン、起きたんだーー!!」

「決勝進出おめでとう。有言実行ってやつだな」



ツィリカとダリスおじさんが部屋に入ってきた。一気に場が賑やかになる。二人はベッドに座っている俺を挟むように近づき、祝いの言葉を掛けていく。わちゃわちゃとした雰囲気が漂い、俺はますます笑みを浮かべた。



「私たち、王都に行けるよ!!二人して!!うわぁぁぁー!!!本当に!?嘘じゃないよね!?」



というかツィリカの反応が凄いな。情緒不安定すぎる。ツィリカが跳ねたベッドが大きく揺れ、掴まれた手は上下に振られ続けている。されるがままの俺は振動が凄かった。



「おい、落ち着けって!!」

「落ち着いてられないよ!?本当に王都に行けるの!?えぇぇぇーー!?!?本当に!?!?」

「だから、やめっ」

「エレアねぇとの約束守れたんだね!!うわぁぁぁーー!!!」

「うるせぇ」

「ぎゃ」



ツィリカを蹴り上げベッドから下ろした俺は何も悪くないと思う。本当にうるさかった。ドタッと床に倒れたツィリカは、先程までの喧騒が嘘のように落ち着き静かになった。



「ダリスおじさん!なんで止めてくれなかったんだよ!?」

「いやぁー、ふっ、悪ぃ悪ぃ」



そう言いながらもダリスおじさんは笑いすぎて腹が痛くなったようで、お腹を抑え身をかがめている。引き笑いになっており、目尻からは涙が少し滲んでいた。



「俺、あんなツィリカ初めて見たわー。そんだけ嬉しかったんだろうな。・・・・・・あーめっちゃ笑った」



未だ涙混じりの瞳を手で乱暴に拭い、水を飲むダリスおじさん。すると倒れていたツィリカがむくっと起き上がり、俺の腹にダイブしようとしてきた。慌てて立ち上がり避けると、ツィリカは顔面からベッドに衝突する。



「おい、危ねぇだろうが!!」

「なんで避けるの!!」

「普通避けるだろ!!」

「避けないで!!」

「無茶言うな!!」

「ゔぐぅぅーーー!!!」



膝ほどまでベッドにうつ伏せになったツィリカが手足をバタバタと動かし暴れ回る。みっともねぇ。



「おい、ツィリカそろそろやめとけ。決勝戦も残ってるだろ?」

「ダリスおじさんーー!」



いつの間にか俺と一緒に避難していたダリスおじさんが嘘の泣き寝入りであるツィリカへと近づき頭を撫でる。それをすんなりと受けいれ、なんならもっと撫でろと頭をグリグリと押し付けたツィリカは、髪の毛をボサボサにされていく。そして撫で終わった後チラッチラッとこちらを見つめるツィリカは、俺が何もしないのを悟ったのか不満げに目線を外す。ダリスおじさんはニヤニヤと俺たち二人を見つめているだけで静観するようだった。俺は観念してツィリカに声を掛ける。



「おい、機嫌直せって」

「・・・・・・」

「おい」

「・・・・・・」

「はぁーーー、分かったよ。俺が悪かった。だから、な?」

「・・・・・・じゃあ、髪の毛整えて」

「仰せのままに、お姫様」



俺はこういった時の為にツィリカに買わされたクシをポケットから出し髪を梳かしていく。髪を梳くごとに着実に機嫌が良くなっていくツィリカを背中越しに感じつつ、俺は先程と同じポニーテールにしていく。ヘアゴムもクシを買わされた時に一緒に買ったものでツィリカのお気に入りに認定され、よく付けているところを目撃している。・・・・・・気に入ったようで、ようござんした。ポニーテールが完成し、前髪を少し整えてやると、満足したようだ。満面の笑顔で後ろを振り返り、感謝を伝えられた。



「ありがとう!!」

「どういたしまして。・・・・・・もう機嫌は治ったか?」

「うん、治った!!」

「ふっ、そうか」



その後も色んなことを話しながら、決勝前の最後の時間を過ごしていく。



「そういや、ミド遅いな」

「ミドーー??」

「あぁ、二人がここに来る前に一緒にいたんだ。俺が起きたことを大会の主催者に伝えてくるって行っちまったんだけど」

「ああ、そういや遠目にこの部屋から出ていくのを見たな。あっちは俺たちに気づかなかったようだが」

「探しに行くー??」

「いや、もうすぐ帰ってくるだろ。逆に今探しに行ったら行き違いになっちまうかも」

「じゃあここで待っとこ!!・・・・・・そういやなんかいい匂いするー。なんか食べたの??」

「ミドがサンドウィッチ持ってきてくれたんだよ」

「えぇー!!いいなぁー!!私もミドのサンドウィッチ食べたい!!」

「また後でミドに言ったら作ってくれるだろ」

「やったーー!!」

「いや、まだミドに言ってないからな??」



能天気なツィリカに呆れつつも自然と口角が上がる。普段の日常と変わらないバカバカしい内容の話。それに加えて不明瞭な未来から脱却し、これから明るく輝かしい未来が俺らを待ち受けているはず。そう思うとなんとも清々しく彩り豊かな色彩が映し出される。



鐘が二回鳴った。二時になったのか。それと同時にドアがノックされる音が聞こえた。



「?はい」

「失礼致します。サン・アイヴズが目覚めたとお聞きしたので確認しに参りました」

「あなたは・・・・・・えぇーーっと」

「おっと失礼。私はアグスティア教会ルーバ支部所属の第一レプゴダー、ユーグリス・バニガスと申します。分かりやすく言うとそこにいるダリスの直轄の上司となっております」

「そうだったんですか。わざわざ御足労いただきありがとうございます」



やばい、偉い人だ!粗相がないようにしないと!自然と背中がピシッとなる。衣服が乱れていないか気づかれないように調整し、身だしなみを整える。言葉遣いなど、なにか失態を起こさないか不安で、同じレプゴダーであるダリスおじさんに助けを求めアイコンタクトを送る。しかし一向に視線が混じりあわない。え???ダリスおじさん!?!?



その様子を眼鏡をかけ真面目そうな顔立ちのその男は気にすることなく会話を続行させる。



「体調に問題はないですか?」

「は、はい!」

「ツィリカさん、あなたも?」

「う、いや、はい!」

「そうですか。それでは予定通り三十分後の二時半に決勝戦を行いたいと思います。それまでに会場の観客に戻るよう指示しておきますので、あなたたちも準備をお願い致します」

「「はい!」」

「いい返事ですね。それではよい決勝戦になるよう祈っております。それでは」



そうして数歩しか部屋の中に入っていない距離をドアまで戻り、部屋から出ていく。コツコツと高そうな靴の音が廊下から聞こえ、段々と遠ざかっていく音が聞こえる。俺は、嫌ではないが慣れない人物に緊張していたため、ホッと息を吐いた。姿勢も僅かばかり楽にして、緊張状態を解く。他の二人も姿勢を楽にして息を整えた。



「なぁ、ダリスおじさん」

「あ?」

「あの人のこと苦手なのか?」

「めちゃくちゃ緊張してたよね?なにか因縁でもあるの?」

「いやーー、まぁ・・・・・・。俺が悪いっちゃー悪いからなぁ」

「どういうこと?」

「・・・・・・昔、やんちゃ坊主だった俺がやらかして、そんでバニガスレプゴダーにきつーいお叱りを受けたんだよ」

「えーーー!?あのダリスおじさんを怖がらせるほどのお叱り!?!?ええっ!!ってかあの人ダリスおじさんと同い年ぐらいじゃないの!?」

「ああ、確かに俺と同い年だ。でも若い頃から優秀だったから色んなことを任されていたらしい。そんで俺はそのきつーいお叱りから更生して、適正があったレプゴダーになったわけ。ってか俺が怒られても言うことを聞かねぇ不真面目な奴だって言いてぇのか!?」

「いやーだって、そうじゃない??」



普段のダリスおじさんを思い浮かべる。

「決まり??んなもんテキトーでいいんだよ、テキトーで」

「おばちゃん!!ここはひとつ、つけといてくれないか!!一生のお願いだ!!」

「あぁーだりぃーーどっかに俺を養ってくれるボインの姉ちゃんでもいねぇかなぁ」



思い当たる節しかない。ツィリカも同じことを思ったようで深々と頷いている。俺たちは哀れみの目をダリスおじさんに向けた。



「まっ、そこがダリスおじさんのいいところだしね!!傷つく必要なんてないよ!!」

「そうそう!!俺はそんなダリスおじさんが好きだしな!!」

「なんのフォローにもなってねぇよ!!はぁ、でもまさか同じ支部になるとは思ってもみなかった。おかげで毎回凍えるように震えるし、出来れば会いたく・・・・・・」

「失礼」



突然ドアが開き、先程のレプゴダーの男が部屋に入ってきた。慌てて全員が口を閉じ様子を伺う。



「すみません。先程お尋ねすれば良かったのですが、忘れてしまっていて。今よろしいですか、ダリス」

「お、俺ですか?・・・・・・はい」

「そうですか。それは良かったです。ここではなんですので部屋の外に行きましょうか」

「・・・・・・・・・・・・はい」



ダリスおじさんは重罰を宣告された奴隷のように重い足取りで部屋の外へと向かっていく。一度部屋を出る前にこちらを振り返ってきたが、俺達も何も出来ずに見送ることしか出来ない。そしてドアがバタンと閉まり、二人の足音は段々と小さくなり聞こえなくなった。



「・・・・・・骨は拾ってやろうぜ」

「・・・・・・そうだね」



俺たちはなんとも言えない表情で顔を見合わせ互いに頷いた。そこからしばらく無言の後、移動を開始する。誰かしらいる場所に移動して、この空気感を払拭したいと考えたからだ。



しばらく歩くと喧騒感が次第に大きくなっていく。コロシアムの会場を見渡すと、バニガスレプゴダーのアナウンスに応じたのか、それともそもそも動いていなかったのか分からないが、かなりの人が客先に戻っており空席が目立っていた。控えの席へと戻り、辺りを見回すと俺たち以外には誰もおらず貸切状態である。



まぁ、あと決勝戦だけだしなぁ。負けたやつはここにいる必要ないか・・・・・・。



「あと十五分で決勝戦かぁー。なんだか感慨深いね」

「確かに。ツィリカとは何百、何千回と戦ってきたけど、この大会で正式にどっちが強いか証明できるしな」

「はぁー、緊張するね」

「あぁ」

「「・・・・・・・・・・・・」」

「お互い全力で勝負しようぜ。負けても恨みっこなしだ」

「もちろん!!みんなに楽勝だったって言うぐらいコテンパンにやっつけてあげる!」

「泣きべそかいても知らねぇぞ?」

「どの口が言ってんの?」



へへっと笑うツィリカに頭を軽くチョップする。すると容赦なくお腹に強いパンチをお見舞されるため、こいつの手が出る早さは異常だとなんだか笑えてくる。俺は拳をツィリカの方へと持っていき、ぶつけ合わせ仲直りをし、椅子に浅く座って背もたれにもたれ掛かる。瞼を閉じ、瞼の裏の色を感じながら気持ちを落ち着かせる。呼吸を統一し、全身に血が巡っている感覚を呼び起こすと、瞼をゆっくりと開けた。



「それでは大変お待たせいたしました!!ただいまより決勝戦を行いたいと思います!!出場メンバーであるツィリカ・インサーナー、サン・アイヴズは前に出てきてください!」

「よし、行くか!!」

「行くぞー!!」



同時に椅子から立ち上がり、横並びでステージへと向かっていく。自然と揃い合う靴の音を響かせながら狭い通路を歩いていき、ステージへと到着すると大観衆が声援を送っていた。観衆を煽るとさらに声が大きくなり、ボルテージはマックスだ。司会者に誓制魔法を掛けてもらい俺たちは指定の位置へと歩いていく。互いが互いを見つめ合い、そして司会者へと目線を送る。それを察したのか司会者は司会を始めた。



「それでは改めましてご紹介致します!第83回アグスティア祭・闘技大会の決勝進出者はツィリカ・インサーナー、そしてサン・アイヴズです!この御二方が王都の騎士団へのチケットを獲得致しました!!まずは両者に大きな拍手をお願い致します!!」



「うおおおおおおおお!!!!!!」



「・・・・・・しかしここで終わりではありません!!皆さん、王都に行く二人のうちどちらが強いか気になりませんか!?!?このまま勝敗を決めず、二人を王都に行かせてもよろしいのですか!?」



「それが本当だったら俺たちがお前らを痛めつけてやる!!!」

「毒はいいですよ、毒は。表情がよく見えますからねぇ」

「はははっ!心臓を取り出してやろう!」

「頭ぐっちょんぐっちょんにして、殺っちまえ!!」

「どっちも負けろーーーー!!!」



「えぇ、えぇ、そうですよね!!皆さんそれぞれの想いが充分に伝わってきました!!そんな皆様の気持ちに全力でお応えして頂きたい!!王都に華々しく飛び立っていくお二人に最後の思い出を残していって貰おうではないでしょうか!!」



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



これは生半可な試合は出来ないな。そう司会者が捲し立てる会場の雰囲気を感じ取り、率直に思う。乾いた笑いが俺の口から無意識に飛び出た。いつでも切りかかれる剣の構えをとり、合図を待つ。



「それでは決勝戦、ツィリカ・インサーナー対サン・アイヴズ・・・・・・試合開始!!」






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