9.大願成就
短いです。
ザシュッ!!
一瞬の大歓声の後、どよめきが辺りに広がる。
「おい、サンのやつ!まだ首切られてねぇぞぉ!!」
「あいつ首切られる寸前に剣入れて相殺しやがった!!」
「サン!?!?」
負ける訳にはいかねぇんだよ!!斧が首にあたる寸前、反射的に剣を挟みこむ。自然と湧き上がっていた力で俺はラルクの斧を防いでいた。ザワザワと周囲が騒がしくなる中、上から怒りを纏ったようなそんな雰囲気を感じる。腕がプルプルと震え、血管は浮き上がり、力は無いに等しかったが、俺は最大限の力でラルクを吹き飛ばす。
痛みや身体の欠損なんか気にせず、俺は急いで腕の力を使い上体を勢いよく起こす。修復によって膝程までは回復しており、バランスよく立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅーー」
滝のように汗が流れ、目がチカチカする。正面にはラルクが威圧をしながらこちらを睨みつけていた。
シュッッ!!シュッッ!!
斧を振る音が風圧となって髪を揺らめかせる。ただでさえ重傷である身体に追い打ちをかけるが如く鋭く重い一撃が俺を襲う。
耐えろ、耐えろ、耐えろ。
治れ、治れ、治れ!!
俺は必死に防御と逃げに徹底し、修復が終わるのを必死に耐える。膝を足の代わりにして四足歩行で素早く逃げると悪魔のように怖い顔をしながら追いかけてきた。俺は叶いやしないのに精一杯アグスティア様に修復が早くなるよう、心の中で懇願し続ける。
「なぜ抗う?そんなことをしてもただの無意味だというのに」
「諦めの悪ぃ、人間なんだよ!!俺は!!」
攻防を続けながら俺たちは会話を続ける。大道芸かのようにアクロバティックに攻撃を避け、理解不能と言わんばかりのラルクには挑発気味に笑顔を向けてやった。
「そういやお前、魔法が、使えたんだな。去年はそんなそぶり、見せなかったのに」
「・・・・・・そんなことを使う暇はなかった。ただ単に俺はあいつに、勝利の可能性すら感じることがなく負けただけだ。」
「そう、か・・・・・・。じゃあ、お前は何故そこまで、優勝したいんだ??地位や名声が、欲しいタイプじゃ、ねぇだろう??」
「・・・・・・」
「何も言わねぇつもりか?」
「・・・・・・」
「だんまり、か・・・・・」
その質問はラルクの心の小さな小さな綻びに水を垂らしたのだろう。身体が少し鈍くなった気がした。隙を見て俺は足の筋肉を最大限に活用しラルクの身体へと飛び移り、腕の力で首を絞める。
「ぐぅっ」
今ある全体重を後ろへと掛けると耐えきれずに倒れていく。俺は押しつぶされないように空中で背部から腹部へと移動し、倒れた衝撃をラルク一人に背負わせる。地面へと到達した瞬間息が漏れたが、関係ないようにラルクの首を力強く絞め付けると、俺の腕を外そうと抵抗して爪を立て、この状況から逃げ出そうと足をバタバタとさせる。腕に爪がくい込み小さな傷口からは血が流れており、目の前には首を絞められ赤いような青いような、そんなラルクの顔が映し出されていた。
「さっさと死ね!!首を切られろ!!!」
感情的に自分の思いを吐露する。脳に酸素を送らせない、強い意志を胸に俺は更に絞める力を強めた。
「俺が、俺が・・・・・・優勝するんだ!!!」
ラルクが小さい声で何かを呟く。すると横から猛スピードで強い衝撃が俺の一時を支配する。目線を向けると右の横腹に深く戦斧が刺さっていた。
つっ!!またあの変な魔法か!!クソが!!
今すぐに斧を抜き修復を始めたい。しかし手を離すとこっちがやられる。保身か、それとも攻めか。この判断が勝敗を決するということは否が応でもわかった。そんなことを考えている間にも斧はじわじわと体内に侵蝕し始め、出血は留まることをしらない。こうなればお互いの意地の勝負であった。どちらかが意識を失うまでの決死の勝負。この空間に俺とラルクの二人だけしか居ない、ただ単にこいつを殺したい、そんな欲求に。
「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
「つっっっ!!」
両者が今できる最大限の力を行使し、全力でぶつかり合う。
何も考えない、何も感じない。
そんな思考に駆られながらも、ただひたすらにひとつの目標に向かって邁進し続ける。
「はああああああああ!!!」
・・・・・・ゴキッという音が聞こえた気がした。先程までじわじわと侵蝕していた戦斧も動きを止め、抗っていた身体は停止し瞳は光を失っていた。
無我夢中で俺は刺さっていた斧を力任せに引き抜く。血が大量に吹き出し、辺り一面を血の海へと変貌させたが気にすることなく斧をラルクの首へとあてがうと、一思いに斧を振るう。
生首が空を舞い、コロコロと転がりある場で停止した。呆然とその様子を見つめ、動きが止まる。心臓の音が、全身に広がった。何も分からない。
遠くの方で先程まで静かであったコロシアムが一瞬にして沸き立つ。今までのノイズが嘘のようにハッキリと聞こえてくる。おぼつかない目は何気なく周囲を見渡す。一様に皆が皆、笑顔でこちらを祝福してくる。
そうか・・・・・・、俺、やったのか・・・・・・
「勝者!!!サン・アイヴズ!!!!!」
大歓声に包まれ、瞳を閉じるとより実感が沸く。真っ二つにされた身体はラルクの首の切断とともに修復が完了し、歩ける状態となっていた。俺は試合の勝者としてアピールするべく、馬乗りになっていた状態から身体を退かそうと起き上がるが、それは叶うことがなく力が入らず倒れてしまう。
やべ、力が・・・・・・
勢いよく倒れ身体全体に痛みが走った。目線を前に向けるとラルクの生首と目線が合う。でこぼこした首の切断面、顔についた砂、光を失った瞳。計り知れない喜びが全身を包み込む。
はっ、俺の・・・・・・執念勝ち・・・・・だな
ドタドタと俺の元へと近寄ってくる音が聞こえる。
「サン!サン!!!!やったね!!!勝ったよ!!勝てたんだよ!!」
ツィリカが地面を滑るように駆け寄り、瞳を滲ませながら話しかけてきた。手のひらをギュッと握られ、ツィリカの気持ちが直接伝わってくる。
ああ、そうだな
そう言葉にしようと口を動かそうとするが、何故だか声が出てこない。極度の緊張状態から解放され安心したのだろう。一気に眠気が襲ってくる。
これで二人で王都に行ける。約束を守ることが出来て良かった。今日は人生で最高の日だな・・・・・・。待ってろよ、エレア・・・・・・。
うつらうつらとそんなことを考えながらも次第に瞼はゆっくりと閉ざされていく。ツィリカから何か言われるが、その呼びかけに反応することが出来ない。そうして俺はだんだんと意識を失い、夢の世界へと旅立っていったのだった。