再出発の時
30年前、突如として魔王が復活した。魔王率いる魔族達は次々と人間界へ侵略し、人々は常に魔物の恐怖にさらされながら生活していた。もう終わりなのか、人々がそう感じた時。人間界に救世主が降り立ったのだ!それは「勇者」、魔王が復活した時代に必ず誕生し生まれながら魔王討伐を使命付けられた存在。
そして14年前勇者一行が魔王討伐の旅へと出た。
それから年が6年がたった経った20年前。魔王は勇者によって討伐されたのである。
小さな村の近く、とある山奥。
一人の30代半ばの男が自分の庭の畑に種をまいている。
そこに一人の女がやってきた。
「ふー…」
畑で屈みながら袋から種を取り出し、まいて土を被せてはまた種をまく。いい加減あたりも暗くなってきた。そろそろやめにしようか。と考えていた時。一人の女がやってきた。
「アスカロン・ミューラーさんでお間違いないですか?」
「…そうだが、誰だお前は」
「私はミターシャ・シキです。あなたにお願い事があって参りました」
シキ…あのシキ家だろうか?
シキ家、かなり有名な魔法使いの家系だ。
「なんだ、こんな山奥に住む一般人に」
「単刀直入に申し上げますと。あなたに、魔王を…討伐してもらいたいのです」
「魔王を討伐?なんでってばこんなに一般人に。それに、魔王討伐なら勇者様御一行が旅に出てるだろ」
「心配なのか知らないがあの勇者様が、負けるはず無いだろ?心配しなくても大丈夫だよお嬢ちゃん」
適当にあしらって少女から背中を向けて家へと戻ろうとする。
「それは。今旅に出てる勇者が"偽物"だからです」
「……」
俺は種の袋に入れていた手を止めた。
「……なんのことだ、陰謀論でも信じているのか?」
「いいえ、陰謀論なんかではなく事実です」
「あの勇者は、本物じゃない」
「…」
「その事はあなたが一番よく知ってるんじゃないですか?」
「"本物"の勇者様?」
沈黙のあと声を発する。
「………何故だ?」
「最近叔父様が亡くなりました。そして叔父様の書斎を整理していた時に日記を見つけたんです。内容は勇者様達の魔王討伐の旅の冒険譚」
「そして日記にはあなたの名前が刻まれていた。勇者アスカロン・ミューラーの名が」
「こうして私は真実にたどり着いた。そして今に至るという訳です」
「…」
「お間違い無いですね?」
しばらくの沈黙が続く。
「…そうかもな」
「なら、魔王討伐の依頼を受けてくれまよね?」
「それは断らせて貰う」
「何故…ですか?」
「旅はもう、うんざりだからだ。」
「…それでも、魔王討伐の依頼を達成した暁には貴方がこの世界の全員に覚えられる勇者になることを保証します!」
「14年前、俺が旅に出た時。その時の国王にも同じことを言われた」
「―!」
「そして俺は裏切られたんだ。そんな俺がお前を信じられると思うか?」
「それは…」
「そういうわけだ。他を当たるんだな、シキ家のお嬢様なら人脈ならいくらでもあるだろ」
「じゃあな」
そういってアスカロンは小屋へと入っていった。
―翌日
ベットから起き、準備をする。今日も今日とて畑仕事をしなければ。
準備が終わり、ドアに手をかける。
(朝の空気は心地良い。今は春だし尚更だ)
そうしてドアを開けた。
ガチャ
「おはようございます!」
ドアを開けると。外の空気と同時に、最近見た顔があった。
バタン!!
「は…?」
反射的にドアを締めたが…
除き口から外を覗くとあのシキ家のお嬢様が手を振っている。
「あいつは何をしてるんだ?」
その時外から声が聞こえてきた。
「ミューラーさーん!魔王討伐行きますよー!出て来てくださーい!」
(一つ聞きたい、あいつは鶏かなんかなのか?)
俺は確かに昨日断ったはずだ。
「ミューラーさーん!早くー!」
俺は少しだけドアを開けて
「あっミューラーさん行きますよ!」
「断る」
そういって少し強めにドアを締めた。
―翌日 小屋のドア越しに
「ミューラーさん!魔王討伐の旅に!」
「断る」
―また翌日 畑仕事中に
「ミューラーさん!魔王討」
「断る」
―またまた翌日 村への買い出し中に
「ミューラーさん!」
「断る」
―翌日
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「やつは、やつは耳がないのか?!なんでも右から左なのか?!それとも都合の良い耳なのか?!」
「…はぁ…クソッたれだな」
「にしても今日は来てないな…いや毎日来る方がおかしいのだが」
(今日は、行きつけのバーにでも行こう…)
「いらっしゃい」
店に入ると少し甘い香りとゆったりとした音楽が体に飛び込んできた。
「おや、久しぶりですね。いつもので良いですか?」
「あぁ、頼む」
「珍しく疲れていますね、なにかあったんですか?」
「ちょっとな…色々あったんだ」
「なぁ、もしも。一度裏切られた相手に一緒に旅に出ようと誘われたとしたら、あんたはどうする?」
「…ふむ。そうですね。私なら断るでしょう」
「そうだよな…」
するとカウンター席にカクテルが置かれる。俺はそれを手にとって一口飲んだ。
「ですが、流れに身を任せるってのも悪くないものですよ。考えてばかりいると、人生は楽しくないものですから」
家に帰っても、その言葉が思考をジャックしていた。
湯船に浸かり終わり、外の空気を浴びに外に出ていた。この5年間の毎日の日課である。
山から見える小さな村には所々明かりが灯っていて、綺麗だ。
魔王討伐の手柄を横取りされ、26歳の時にこの山に住み着いてからもう8年が経とうとしている。
…そうだな、いい加減こんな引きこもり生活は、終わりにするとしよう。
明日からは8年ぶりの魔王討伐の旅を始めようじゃないか、まだ書き終わってない物語に結末を書いてやる。
アスカロンは立ち上がり、8年間眺めてきた村の夜景に背を向け、歩き始めた。
「さぁ、再出発の時だ」
自然と声が出ていた。
僕は昔ポケモンよりドラクエをやっていました。またドラクエやりたいですね。