第九話
ーーー2ヶ月後ーーー
ゲールの夜襲があった後は、俺たちの旅はかなり順調に、そして平穏に進んでいた。夜番は、夜襲の後しばらくは俺とエレナは大人と組むことが定番になっていたが、一ヶ月も経ったかと言うところでエレナの強い希望もあり俺とエレナでペアを組むことも解禁された。
昼間は基本的には移動がメインだが、俺とエレナの成長のためにも魔物と遭遇した時には逃げるのではなくできるだけ倒すようにしている。
そんな効果もあってなのかこの二ヶ月で二人ともレベルが一つずつ上昇した。
名前: スヴァン
年齢: 9
レベル: 14(+1)
HP: 87/87(+6)
MP: 303/303(+9)
筋力: 24 (+3)
耐久: 29 (+3)
俊敏: 23 (+3)
精神: 39 (+1)
スキル: 火魔法3・風魔法2・剣術2・身体強化3(+1)・索敵2・水魔法1・土魔法1・魔力操作1
固有スキル: アイテムボックス・鑑定・経験値2倍
名前: エレナ
年齢: 11
レベル: 9 (+1)
HP: 89/89(+4)
MP: 111/111(+8)
筋力: 19(+2)
耐久: 23(+3)
俊敏: 20(+1)
精神: 29(+2)
スキル: 身体強化2・槍術1・弓術2・水魔法2・土魔法2(+1)・治癒魔法2・索敵2・視力強化1(NEW)
固有スキル: なし
二人ともいい感じに成長している。俺は魔力量が大台の300を突破した。母さんによれば、魔力量300と言えば一人前の魔法使いを名乗れるらしく、冒険者登録もできない9歳でこの魔力量というのは規格外という他ないらしい。
ただこの国の宮廷魔導士には、魔力量1000越えの魔法使いもいるということだった。イニトスにはそれを上回る魔力お化けもいるのではないだろうかというのが俺の個人的な予想だ。まだまだ俺はひよっこで、イニトスに行けばより一層それが顕著になるに違いない。
ただ魔法については一つ大きな武器も手に入った。新しいスキルである魔力操作のことだ。母さんにこのスキルの話をしたところ、どうやらこれはかなり希少なスキルらしく、歴代の有名な魔法使いのほとんどがこのスキルを持っていたということだった。冒険者ギルドで詳しい情報を調べようとしても、残念なことに多くの情報は出回っていなかった。
ただしこのスキルを経てから、明らかに魔法への理解が深まって、より微細な操作が可能になった感覚がある。特に大きいのは今までは考えさえしなかった、二つの魔法の同時発動への可能性が開けたことだ。今まではあくまで感覚的に行なっていた魔力の放出という作業への理解が深まったことで、二つの場所からの魔力の同時発動の感覚が少しだけ掴めたのだ。
しかしまだまだその出力の調整にはむらがありすぎて、実践で使うレベルには程遠い。さらにこれを全く系統の違う二つの魔法でやろうとしれば、その難易度は正直に言って計り知れない。
それでも、もしこれをものにできれば大きな武器になるし、何より成長への道筋が見えたという事実が今は嬉しい。
一方エレナはというと、レベルの上昇と共に基礎能力が順調に伸びている。それと共に弓術の訓練に力を入れているせいもあってか、視力強化という特殊能力を獲得している。これはその名の通り視力が強化されるものだが、暗い場所や煙のある状況下での視力も大幅に強化してくれる代物らしい。ダンジョンでは様々な特殊な状況が考えられるのでこのような基礎身体能力を高めるスキルは非常に有用なようだ。
ちなみに今俺たちが滞在しているのはトルーフェンと同規模の中都市、バルハイム。ここはこの国の王都から近く、非常に堅牢な城壁に囲まれている。その理由の一つとしては、ここは地政学上王都の喉仏とも言える場所らしく、他国との戦闘が起きた際にはここで敵を食い止めることが求められているそうだ。そして王都への脅威を排除するという意味では魔物に対しても同様である。バルハイムは王都と魔物がの活動が非常に盛んな森との直線上に作られており、万一その森で非常に危険な魔物が発生した際にはここで対処することになっている。
俺たちは数日間はここに滞在することになっているのだが、今日は両親たちが市場へと調達に出かけていて暇なため、俺とエレナの二人で狩りに来ていた。
「スヴァン、私たちから見て南西、300mぐらいの距離にホーンラビットが2匹いるわ。」
「ホーンラビットか。無視してもいいがそれ以外には魔物はいない感じか?」
「そうね、ホーンラビットと同じ方角の奥側は森になっていて見えないけど、目視できる範囲では特に魔物はいないわね。」
「あの森か、確か通称"魔物の巣窟"だっけか。市場であったおっさんが言ってたな。どんなに腕に自信があってもあそこにだけは近づくなって。次から次へと敵が出てきて痛い目を喰らうと。」
「あのおじさん、以前に起きた魔物の大量発生で娘さんを亡くしたって言ってたよね。。。私はその娘さんの小さい頃にそっくりだって。」
「ああ。あの語りぐさからして、すごく昔の話ってわけでもないんだろう。俺たち二人で近づくにはやっぱり危なすぎると思うし、もう少しここから様子を見て、良さそうな敵がいなかったらそのまま帰ろう。」
エレナの視力強化は非常に有用なスキルだが、あくまでも魔力と引き換えに一時的に効果を発揮する代物である。使う場面はよく選ぶ必要がある、スキルを使ったからといって、完璧な索敵ができるわけでも当然ない。
その後数時間ほど粘ったが、どの魔物たちも森から必要以上に離れる様子はなく狩りは難しい状況だった。
本来なら森に隣接するこの平地も、それなりの数の魔物が散在しておりいい狩場であるはずだ。それがこうも極端に獲物がいないとなると、果たしてこれは偶然か、それとも異変の前触れか。
「エレナ、最後にもう一度だけ視力強化を使って、森の外側面の様子を見てくれないか?」
「いいけど、あれってかなり遠いから、その分魔力も多く使うわよ?多分魔力をほとんど使い切っちゃうわ。」
「ああ。帰る時に自分で安全を確保できる魔力さえ残れば、大丈夫だ。」
「・・・わかったわ。」
そう言ったエレナは深呼吸をし、集中力を高めていく。
「見えるわ。。。ぼんやりとだけど。。。
・・・これは、暗くてよく分からないけど、森の中で大きな何かが蠢いているように見えるわ。
っっく、だめだわ魔力がもう限界。。。」
「はあ、はあ。もう少しあの蠢いているものが何か、見れればよかったんだけど。ごめんなさい。」
「いや、十分だったよ。ありがとう。俺の考えていたことが、エレナのスキルのおかげでより可能性が高まった。
エレナ、よく聞いてくれ。俺の予想ではあそこで蠢いているものは魔物の大量発生だ。俺は今からそれを確かめに森にもう少し近づいてくる。エレナには今すぐにバルハイムに戻って、冒険者ギルドに魔物の大量発生の可能性があることを報告してほしい。」
「わ、わかったわ。もし本当に魔物の大量発生だったら、一大事よね。すぐに都市全体に知らせないと。でも一つだけ約束して、スヴァン。絶対に、絶対に無理はしないで。もしあなたの命の危険があると思ったら、大人しく帰ってきて。」
「わかってるよ、エレナ。俺だってこんなところで死ぬつもりはないさ。」