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第八話

目を覚ますと、俺はどうやらテントの中で眠っているようだった。全身から激痛が走り、酷い頭痛と倦怠感に襲われる。

魔力枯渇は何回か経験したことがあるのだが、ここまでの痛みは初めてだ。戦闘の疲労も二重になって効果を大きくしているのだろう。


ふと横を見ると、そこにはスヤスヤと寝息を立てて眠るエレナの姿があった。俺の右手を両手でガッチリと握りしめたまま倒れ込むようにして横になっている。


「ずっと付き添ってくれていたのか。なんだか申し訳ないな。」

「んーー。あれ?スヴァン?スヴァン!!やっと起きたのね!?」


「あ。ああ今ちょうど起きたところだよ。寝てる間ずっと一緒にいてくれたのか、エレナ。ありがとう。」

「え?あ、ああこれはその違くて。いや、あの一緒にいたのはそうだけど、元はといえば大人達が私に一緒にいてあげたら?って言ってきたからしてるのよ。そ、そうなのよ。」

「あ、違うわ。そんなことよりスヴァンが起きたら知らせに来てって言われてたんだった。ちょっとこのまま待っててね!スヴァン。」


そういうと、早足でエレナはテントから出て行ってしまった。

「そんなに急がなくたっていいと思うんだけどなあ。。。」


ーーーー


その後両親達に聞いた話によれば、俺が眠りについたあと、エレナが両親達を起こして早急にゲールを捕獲したらしい。両親達はやはりゲールの睡眠魔法で眠らされていたようだが、エレナが干渉したからなのか、術者が魔力切れを起こしたからなのか、割と簡単に意識を覚醒することができたようだ。ちなみに両親達からは、深々と頭を下げられ謝罪を受けた。それもそうだ、睡眠中で油断していたとはいえ、四人全員が的の睡眠魔法にかけられ、一歩間違えれば俺とエレナは死んでいた。それにゲール達はどうやら俺とエレナが見張りを担当し始めるずっと前から潜伏していたようだし、それまでの見張りが気付けなかったことにもいくらか責任があるだろう。


しかし結局のところ、俺たち二人が見張りの時間にこの異常事態が発生し、原則通り俺たちが二人で対応した、対応せざるを得なかった。

これまでなんとなく現実感がなく、生きてきたこの異世界での時間だったが、今回の事件は自分の生死について考え直すいい機会だったのかもしれない。当然ここでは多くのイレギュラーが発生するし、そう言った状況下で死ぬ確率は元の世界とは比べ物にならない。

今までのような死生観でいては、何も成し遂げることができずにむざむざと死んでいくのがオチだろう。

俺の一度死んだ経験と死への恐怖の軽減と言うのは、土壇場では馬鹿力を出す助けになるかもしれないが、それに頼ることは自分の死期を早めるだけに違いない。できるだけリスクは最小限で、しかし自分の必要な場面ではリスクを許容することも恐れずに、今の時点ではそんなところだろうか。



そしてこんなことを考えている理由の一つに両親から聞いたゲールの処分がある。両親達に捕獲された後、魔力切れを起こして意識を失っていたゲールだったが、ここから街に戻り治安部隊に引き渡すのもかなりリスクがあるしという理由で殺すという判断になったらしい。殺すならば、奴が目を覚ます前にということで満場一致し、すでに埋葬まで終えたと言うことだった。


当然、ゲールは俺たちを襲ってきた敵で、俺たちには奴を殺す権利がある。両親達の判断も論理的でエレナなどは幼いながらもしっかりとこの状況を受け入れている様子だった。それでもやはり俺にはまだ前世の倫理観が残っている。つい先ほどまであれの目の前にいて、少しばかり会話もしていて人間が俺の両親によって殺された。その事実が必要以上に重くのしかかる。


しかし、俺が本当の意味でこの世界の住人になるなれば、これを受け入れていかなければいけない。いつかは自分の手で人を殺さなければいけない状況も来るはずなのだから。


閑散とした平地にゲールの遺体は埋められたようだった。そこにはただ風が吹き、言われなければそこに人が埋められているなど誰も気づきもしない。いや、例えそれを知ったとしても、この世界の人間達は特に気にも留めないだろう。


俺はその遺体が埋められているであろう場所の真上に立ち、指で土に文字を書き下す。


ーーー

睡眠魔法使いゲール、ここに死す。

例え誰からも忘れ去られようと、

お前は魔法使いスヴァンの最初の敵として

その名を残すことになるだろう。


仲間に裏切られても勇敢に戦ったその姿勢に、

最大限の敬意を

願わくばその独特な魔法のように、

安らかな永遠の眠りを

ーーー




ーーーーーーーーーーーー



一行はその日は同じ場所に留まり、翌日また移動を開始することになった。

「ねえスヴァン、敵の死体を埋めたところの土に何を書いてたの?」

夜食をとった後後片付けをしていると、エレナが話しかけてきた。

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「なんだかすごく真剣に書いてたから。あなたがいなくなった後少し覗き見したけれど、私あまり字を読むのは得意じゃなくって。。。」


「そっか。なんて説明すればいいんだろうな。俺自身のけじめをつけるために大事なことを少し書いてたんだ。自分の気持ちを整理するために。」

「ふーん。。。よく分からないけど、それってスヴァンにとって大事なことなの?」

「ああ。大事だ。少なくとも今は。」

「。。。そっか。私も何か書いた方がいいのかな?」


「え!?いやそれは別に。。。いいんじゃないか何も書かなくて。エレナが好きなようにすれば。」

「うん。そうよね。私あの盗賊には何にも書きたくないし何もしたくない。私にとって大事な人が死んじゃった時にだけ、私はきっといろんなことを書く。話し足りなかったことを全部書いて、お手紙にして、天国まで届ける。」

「そっか。そりゃあいいな。きっとその人もすごく喜ぶに違いない。」

「でも天国ってどうやっていくのか私にはさっぱり。だからその時はイニトスを目指そうかな。」

「イニトス?なんだってそんな危ないところに。」

「だって!イニトスには人類が見たこともないお宝がいっぱいあるんだよ!もしかしたら死んじゃった人に手紙を届ける方法も見つかるかもしれないでしょ?」


「はは。そうだな。確かに。その時は俺も手伝うことにするよ。」


この子はなんて純粋なんだろう。その心はまるで氷のように透き通っていて、話していると心が浄化されるようだ。

それにしても、ここでもやっぱりイニトスか。

この世界の誰もが憧れる存在。そこには人智を超える財宝が眠るとされ、誰しもがそこに自分自身の、それぞれの夢を見る。


俺もこの2度目の人生、とびきりの夢を見たい。例えそれが、暗く、苦しい道の果てにあるとしても。


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