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第六話

俺とエレナが夜番を任されたのは三グループの中の二番目、つまりは真夜中の頃だった。

「スヴァン。お前の夜番の時間だぞ。エレナはもう外に出てお前を待っている。」

父キャスパーの声に反応し目をこすりながら外に出ると、薪の周りにポツンと座るエレナの姿があった。いつも通りのシンプルな戦闘服に全身を覆い、髪の毛は短く結いである。


「遅かったわね。ここにでも座って。」

「おう。今晩はよろしく。」

一通り夜番の決め事を話し合った後に、エレナが語り始めた。

「あなた魔物と戦い始めてまだ一年半ぐらいって本当なの?」

「え?ああ。それまでも魔法と剣術の鍛錬は積んでいたけど、実戦経験はなかったな。」

「それなのに、もうレベルが私より高いってどう言うことなの?この一年半よっぽど沢山実戦を積んできたの?」

「いや、基本的には週に1、2回父親と仮に出かけるくらいだったな。だから、エレナと同じくらいのペースだったと思うけれど。。。」

「それじゃあ、おかしいじゃないの!私はあなたより前から狩りに出ているのに、なんでこんなに成長速度に差がつくのよ、何か秘密があるなら私に教えなさい!!」


(うーーん、秘密がないことはないけれど、というかありまくりなんだがそれを正直にしゃべるわけにもいかないしなあ。)

「いやあ。俺にもなぜかはさっぱりで。イニトスに着いたら少しでもその手がかりがつかめたらいいなと思ってるんだ。」

しらばっくれる俺を、エレナはじーっと見つめてくる。

。。。。


何秒経ったであろうか。ひたすらに俺のことを見つめて、いや睨んできたエレナが目を逸らすと、少し肩を落としてポツポツと語り出す。

「羨ましい。」

「え?」

「私ね、あなたのことが羨ましい。あなたのレベルのことだけじゃない。それよりも私のお父さんとお母さんがあなたのことを褒めてばかりなのが羨ましいし、気に食わないの!」


一体、彼女の両親たちが私のことをどれだけ褒めちぎっていたのかわからないが、俺もエレナの立場にいたら同じように感じていたに違いない。

自分より才能のある人を見た時に感じる嫉妬。自分の努力を否定されるような感覚。そして自分の大切な人が自分よりも他の人やものに意識を奪われているという事実。俺はそれら全てが嫌いだった。でも、今エレナを見て思うのは、それらの嫌な気持ちに直面した時に俺は逃げてばかりだった。あいつはものが違うから、別に本気を出せば俺だって。。。エレナのように真っ直ぐにそれらを見て、そこに張り合うために何が必要か、そんなふうな気持ちになることはできなかった。


するとどうだろう、だんだんとそんな感情を察知するのか、周りの人間も私にそういったことを言わなくすらなっていく。俺にはまるでそれが、彼らが俺に失望しているかのように見えて、心を抉られるような感情になった。期待して欲しくないけど、やっぱり少しはしてほしい。そんな矛盾が俺の心の中にはあったに違いない。


「エレナ。君はすごいね。」

「え?私?」

「そうだよ。君は下を向いてない。君のご両親が君を嫉妬させるようなことを言っても、君はその言葉は君自身の燃料に変えて、闘志を燃やし続けてる。だから君は本当に強い人だよ。俺なんかよりずっと。」

「。。。何よそれ。私は、私はそんな言葉よりも、あなたがそこまで強くなれた理由を知りたいの!そんなふうにあなたに褒められたって、ちっとも・・・」

ガサガサ。少し離れた草むらから音がする。


「危ない!エレナ!」

カラン、カラン。。


咄嗟に構えた盾に2本の矢が当たった。すぐ横にいるエレナも盾のおかげでなんとか被害を免れたようだ。

「くそっ。魔力感知には何も引っかかってないのに。」

「魔力感知だあ〜?おいおいいきなり俺たちを魔物扱いとはいい度胸だな。」

目の前に現れたのは、薄汚れた身なりをした3人の男たち。弓を持った二人の男と、長剣を手にした一際大柄な男、どうやらこの男がボス的な立ち回りらしい。


「ったくお前ら二人も使えねーなー。二人ともは無理でも、せめて一人には当てろよなあ。」

「すみません。でもボス、この左のガキは大したもんでっせ。俺たちの存在にいち早く気づいて、盾で矢を防ぎやがった。」

「まあ、確かにこいつはガキにしてはやるようだな。おい小僧、お前には今二つの選択肢がある。一つ目は、大人しく隣にいる嬢ちゃんと降参する。その場合俺たちが直接危害を加えることはないと約束しよう。もう一つは、お前らと俺たちで2対3をぶっぱじめること。ちなみに行っておくがこちらもこちらで色々と細工をさせてもらって、お前らの両親がお前らの危険に気づいて助けてくれる可能性はゼロに近い。まあ俺としては無駄な戦闘なんてしたくねーし、おとなしく降参することをお勧めするぜ。」


こいつ、、一体俺たちの両親に何をしやがった。4人ともそれなりの実力者だし、何よりここから数十メートルのところで寝てるってのに。

すううう

「父さーーん、母さーーん。起きて俺たちを助けてくれーーーーーー。」

腹の底から出した大声は夜空へと散らばっていき、やがてその行方をくらます。しかし、テントの中から反応はない。

横を見るとエレナの顔から、怯えが見てとれる。目は赤く充血し、座り込んだその様子からは覇気が感じられない。

「エレナ!ここであいつらに降参して、酷い扱いを受けるか、死ぬかもしれないけど全力で戦うか。お前はどっちがいい?」

「え、、そ、そんなの選べない。酷い扱いは受けたくないけど、、、死にたくもないよ私、、、」


彼女の言葉は震えている。仕方のない、彼女はまだ文字通り子供だ。前世の記憶がある俺でもこの状況にビビりまくっているのだから。でも、僕¥俺に一つ強みがあるとすれば、それはすでに一度経験した死という事象への許容。俺は一度死んでるんだ、もう一度死んだところでどうしたというんだ。それにこの世界に来た時に決めたじゃないか、この人生は好きなように生きるって。奴らに降参して、俺の人生の行く末を任せるなんて冗談じゃない。


「そうか。それじゃエレナはここでそのまま泣いていればいい。俺は俺のやりたいようにするから。」

「え?」

突然のことに驚いて、見るのを忘れていた敵のステータスをここで確認する。弓矢持ちの二人は大したことなさそうだが、やはり注意すべきなのは大柄の剣使いの男。


名前: ゲール

年齢: 25

レベル: 19

HP: 145/145

MP: 54/219

筋力: 33

耐久: 36

俊敏: 25

精神: 17

スキル: 身体強化3・睡眠魔法3・索敵2

固有スキル: なし


ゲールというのか。純粋な身体面では正直にいって1対1でも勝ち目はない。そして厄介なのは何よりこの睡眠魔法。おそらくこれを使って両親たちを眠らせたんだろう。チャンスがあるとすれば、魔力をすでにかなり消耗している点。魔力勝負に持ち込んでなんとかするしかない。

「おい!そこのボス猿!俺の隣にいる女の子はお前らと戦う気はないらしいが、僕はお前らに降参する気はない1vs3でもなんでもかかってこい!」

「ボス猿だあ?小僧、お前言ってくれるじゃねえかよ。お前らまずあいつをボコボコに

するぞ!」

「え?え?どういうことスヴァン?1vs3なんてそんな。無理だよ。」

「エレナ。俺は戦うって決めたから、君がまだ決断できないようならそこでおとなしく見ていてくれ。でも最後に言わせてくれ。他人を頼りに待って待って、決断を先送りにしても、大抵いいことなんてない。そして何より君は、苦しい現状を闘争心に変えられる心の強さを持っている人だ。」

ぽっかりと口を開けたエレナを他所目に、俺は敵に視線を向ける。正直に言えば、僕だってやっぱり怖い。だけどこれが俺が選んだ第二の人生だから。思うがままに、やってやろうじゃないか。


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