第五話
グレゴ村を出た後、俺と両親は城塞都市トルーフェンへとやってきた。ここで旅に必要な物を揃えるのと、旅の仲間と合流するらしい。
待ち合わせの場所だという冒険者ギルド前のレストランに着いた後、どうせなら俺のステータスカードを作ってしまおうという話になった。
ステータスカードはこの世界では金銭の支払いや身分証として使われたりする。また、自分のステータスを確認できる数少ない手段の一つで、鑑定スキルのない多くの人にとっては非常に有用なものだ。冒険者登録ができるのは12歳からだが、ステータスカードは何歳からでも作ることができる。ちなみにステータスカードで確認できるステータスは名前、年齢、レベルの三つだけである。
そしてステータスカードを冒険者ギルドで作って貰った後、例のレストランに戻ると合流相手はすでに到着しているようだった。
「おう、キャスパーにエリン!久しぶりだな〜。」
そこにいたのは冒険者らしき格好をした3人組だった。2人は両親と同じくらいの年齢だろう。もう1人は俺と同世代に見える少女だった。なるほど、おそらくこちらと同じ家族構成なのかなと推測する。
話に聞くところでは彼らは両親の昔の冒険者仲間らしい。男の方の名はワグマールといい、父よりは少し背が低く、茶色っぽい髪色をした気の良さそうな人物だ。
名前: ワグマール
年齢: 34
レベル: 49
HP: 203/203
MP: 268/268
筋力: 59
耐久: 67
俊敏: 72
精神: 75
スキル: 身体強化5・土魔法4・槍術6・索敵8・罠感知4
固有スキル: アイテムボックス
強いな。索敵や罠感知のレベルが高いことからも斥候タイプだと予想できるが、その割には槍や土魔法も使え、総合的なステータスが高い。そして何よりアイテムボックス持ち!自分以外では初めて見た。
もう1人の大人の女性のステータスも除いてみる。
名前: アレシア
年齢: 36
レベル: 52
HP: 171/171
MP: 454/454
筋力: 51
耐久: 62
俊敏: 48
精神: 86
スキル: 身体強化3・治癒魔法8・水魔法4・風魔法5・弓術6・索敵4
固有スキル: なし
アレシアさんというのか。ステータスで目を引くのはなんと言ってもスキル欄の治癒魔法。話には聞いていたが実際に使える人を見るのは初めてだ。しかもこの人の場合は水魔法や風魔法に加え弓術までも高いレベルで使えるようだから驚きだ。
4人でパーティーを組んでいた時にアレシアさんがリーダーだったというのも納得だ。
「あら、あなたがスヴァン君ね。初めまして。私はアレシアっていうの。これからイニトスまでよろしくね。こっちは私達の娘のエレナ。ほら!エレナ、スヴァン君に挨拶しなさい。」
アレシアさんが視線を向ける先には、茶髪の可愛らしい少女がいた。
「あなたがスヴァンね。絶対負けないんだから。」
エレナと呼ばれた少女はそうピシャリと言い放つと、呆気にとられる俺を放ってそのままどこかに歩き去っていってしまった。
ちなみに去り際に鑑定をした結果、
名前: エレナ
年齢: 11
レベル: 8
HP: 85/85
MP: 103/103
筋力: 17
耐久: 20
俊敏: 19
精神: 27
スキル: 身体強化2・槍術1・弓術2・水魔法2・土魔法1・治癒魔法2・索敵2
固有スキル: なし
彼女もかなりの強さであることがわかった。なんでも9歳になってからの2年半程度の期間は定期的に魔物を飼っていたそうだ。それならば納得のステータスだな。俺が狩りをしていたのは一年半程度だから、経験値2倍を考慮して俺の方が少しレベルが上ってことか。
しかし治癒魔法か〜。使えるようになえば便利だろうが適性はどうやって調べるんだろう。
そこで、アレシアさんに聞いてみることにした。
「基本の四属性以外の適性は特殊な魔力水が必要なのよ。普通の魔力水に調べたい属性を習得済みの人間が魔力を流し込まなくちゃいけないの。つまりこの場合にはスヴァン君が治癒魔法の適性があるかを確認するには、魔法水に加えて私の魔力が必要ということ。」
その後アレシアさんに手伝ってもらって適性を確認してみたが残念ながら俺に治癒魔法の適性はないということだった。流石にそこまでの才能を願うのは欲の出し過ぎといったところか。
しかしアレシアさんに判旨を聞くところによると。基本属性以外の特殊属性に関しては、学園に行けば数多くの習得者がいて、俺の適性を見てもらうことが可能だということだった。
特にイニトスの学園は巨大で、個性豊かな特性を持った講師、生徒が集まっているとのことだった。
「それにしても娘があんな態度をとってごめんなさいね、スヴァンくん。あの子自身も自分が同世代の中ではかなりできる方なのが分かっているから、私たちがスヴァン君ていう凄い子がいるらしいっていう話をしていたら少しヤキモチ妬いちゃっているのよ。ふふふ。」
「な、なるほど。それは納得できましたけど、どうして僕のことを知っていたんです?というか、両親とはどうやって連絡をとっていたんですか?」
アレシアさんの話すところによれば、どうやらステータスカードには簡易的なチャット機能があるらしい。相手の魔力をもとより知ってさえいれば、自分の魔力を流し込みながら相手の魔力をイメージすることで、簡単なメッセージを送ることができて、そのメッセージの長さや複雑性、頻度などは魔力操作と魔力量に依存するそうだ。ちなみに交信を実際にしていたのは俺の母親とアレシアさんで、魔法がそこまで得意でない父親たちは全くと言っていいほどこの技術が使えないようだ。
「エリンから聞いていたけど、スヴァン君は魔法が得意なのよね。君ならきっとこの能力も使いこなせるようになるわ。とにかく今は、自分自身の魔力操作と相手の魔力感知に時間を割くべきね。それがある程度のレベルでできるように慣れば、簡単なメッセージのやり取りはできるようになると思うわ。」
離れた距離でも交信ができるのは本当に便利だし、これは是非とも身につけておかないと行けないな。もちろん交信をするには相手が必要な訳だが。。。
「エレナもこの技術を会得しようと色々と試行錯誤してるんだけど、まだまだ難しいみたいなのよね。スヴァン君と競い合って上達していけばいいと思っているんだけど。」
「そ、そうなんですね。はは。」
うーんアレシアさんはまるで俺の考えていたことがわかるみたいに先回りして話を振ってくる。でも言っていることは正しいな。同年代でここまで張り合える相手は学園に入らない限りはなかなかいないと思うし、エレナもちょうど俺をライバル視していることだ、絶対に向こうより先に交信技術を会得してやる。
一行が旅を始めて数日、旅は比較的穏やかに進んでいた。
「スヴァン君、今日の夜の野営のことなんだけど、アレン君とエレナの二人でやってみない?」
俺たちの旅は6人パーティーが二人ずつの三つのグループに分かれて、分担して野営を行っている。今までは俺とエレナは4人の大人の誰かしらと組んでいたのだが、どうやら大人たちで話し合った結果、俺とエレナにより責任感を持たせるため、さらに二人の仲を深めさせるためにこの提案をするに至ったようだ。
「もちろんスヴァン君が不安を感じるようなら断ってくれても構わないわ。でもいずれかはこの2人で夜番をしてもらわなきゃ行けない時も来るでしょうし、何よりパーティー内の人間同士、仲良くなるのは信頼関係を築く上で大切なことだわ。」
「それは確かに。俺としては構わないですけど、エレナは何て言っているんですか?俺たち二人の関係性が深くなっていかないのは、エレナが俺をあからさまに敵対視して避けているのが大きいと思うんですが。」
「エレナの態度に関しては本当にごめんなさいね。でも今回の件に関しては、エレナもすでに了承しているから安心して。スヴァン君の昼間の魔物との交戦を見て、実力をある程度確認できたのも大きかったんじゃないかしら。」
「わかりました。それならば、俺の方も大丈夫です。だけど一つだけ、夜番中に魔物が襲ってきた際に、俺へのライバル心から判断が崩れることがないようにアレシアさんから一言言っておいてくれませんか。不必要な危険は作りたくありませんから。」
「いいわ。魔物の襲来が来る可能性は低いと思うけど、その時にどんなリスクがあるかを先回りして考えるのは冒険者として大事なことよ。スヴァン君は本当に賢いわね。」
かさかさっ。アレシアさんがその言葉を言い終わった途端30メートルほど離れた茂みの中で何かが動いた気がしたが。気のせいかな?
結局日中は何も起きず、夜が訪れを告げようとしていた。その夜は堂々とした満月の明かりが周囲を照らし、火は沈んでいると言うのに虚な明るさが漂っていた。