第四話
初めての狩りを終えてからは索敵魔法の習得に力を入れ始めた。父が言っていたように、戦闘に自分が有利な状態で臨むというのはとても重要なことだ。
それに俺の場合は魔力量が多いので、索敵魔法の精度を上げていけばそれだけで役に立つことができるだろう。
そして今日は3度目の狩りに出かける。前回の狩りでも魔物との遭遇はなかった。
森に入って2時間した頃、父が足跡を見つける。俺は父の指示に従い、索敵魔法を放つ。索敵の範囲などはだいぶ上がってきたのだが、発動にまだ時間がかかってしまう。足跡のある方向、30メートルほど先だろうか?何かがいるようだ、今までの鹿や猪とは少し違った反応だ。
近づいてみると人型の小さな生き物が、あれはゴブリンだな。鑑定の結果はこんな感じ
種族:ゴブリン
年齢: 5
レベル: 1
HP: 25/25
MP: 14/14
筋力: 7
耐久: 8
俊敏: 10
精神: 6
スキル: なし
固有スキル: なし
「スヴァン、あれはゴブリンと呼ばれるGランクの魔物だ。今のスヴァンでも倒せないことはないと思うが、先ずは父さんが戦うのをみておけよ。」
そう言って父は剣を持ってゴブリンへと近づいていく。そして身体強化をかけ背後から
ザシュ、、、
ゴブリンに振り向く隙も与えなかった。さすがはCランクの冒険者だ。
「見ればわかったと思うが、ゴブリンは1対1ならばあまり危険ではない。ただ、稀に集団で戦闘を仕掛けてくるからそこは警戒しとかないとな。
それと魔石っていうのはな、動物の心臓と同じ部分にある。ゴブリンレベルの魔石だとあまり金にならないから放置していく人も多いが、スヴァンの場合は解体の練習も兼ねて取り出してみるのがいいと思うぞ。」
ゴブリンの魔石取り出し作業はかなりグロテスクだったが、なんとか完遂することができた。その後も探索を続けていると、またゴブリンを発見した。今度は俺が倒してみることになった。
よーし、鹿や猪の時は獲物を焦がさないために火魔法を使うのは控えていたが、魔物が相手となれば得意の火魔法を思いっきりぶっ放すことができる。(森に火事を起こさない程度に)
全くこちらに気づいていないゴブリンに対して、一番得意な魔法ファイアボールをぶつける。
ジュウウという音とともにゴブリンの心臓あたりに衝突する。ゴブリンは少しもがいた後、動かなくなった。ふう、思ったよりもあっけなかったな。
自分のステータスを確認してみたが、特に変化は見られなかった。経験値2倍とはいえ流石にゴブリン一匹ではレベルは上がらなかったか。
その晩、自室の固いベッドの上で現状とこれからについて色々と考えてみた。
まず俺自身の強さについて。これに関しては両親の話などを聞いても子供にしてはやる方というぐらいの認識でいいだろう。魔力量については同世代ではずば抜けていると思うが、魔法に関してはまだ風と火以外は学べていないし、剣術も世代トップというところには到底届かないだろう。レベルに関してもこれから上がっていくだろうが、経験値を裏技的なやり方で稼いでいる貴族には及ばない。
ちなみに経験値についてだが、とどめを刺した人間に全てが入るという訳ではないようだ。ここに関しては研究が盛んな分野でまだまだ未解明なことも多いらしい。ただ多くの人がレベル1の幼少期においては裏技レベル上げが有効だが、長期的な目線で見れば強くなるためにはこれは悪手と考えられているらしい。ステータスは上がっても、戦闘の中で得られる知識や経験といったものは非常に価値のあるものだ。
しかし貴族の場合、後々強くなるよりも、若いうちに強くなり学園に入り経歴に箔を付ける方が重要なのだろう。
ともかく同世代では強い方という俺だが今後どう言った方向で自分を伸ばしていくべきだろか?やはり一番の強みとなるのは魔力量だろう。これを活かせば索敵や攻撃魔法を使いつつ、時には身体強化を用いて剣士としても戦う、いわばオールラウンダー的な存在が理想像となるのではないだろうか。
そしてこの戦い方をしていく為に俺自身がやるべきことは
1.魔力量のさらなる増加
2.魔法、剣術の上達
3.筋力や持久力などの基礎体力の向上
4.索敵や解体などの冒険者に必要なスキルの習得、熟達
5.魔法や魔物、迷宮などについての知識を身に付ける
うん、かなりやることがはっきりしたな。とにかく学園への入学試験までの間に両親から学べることは全て学びたい!
それからというもの3日に1日は父と狩りに出かけ魔物を狩っていった。レベルは大量の経験値のおかげでどんどん上がっていったが、スキルレベルの方も実戦で積極的に使っていったおかげか順調に上昇していった。
母との授業の時間も魔法だけではなく、魔物や迷宮などについても教えてもらっていた。なんでも迷宮にいる魔物は地上にいる魔物より強いのだそうだ。そして難度の高い迷宮は地上とのステータスの乖離が激しいそうだ。例えば、地上ではゴブリンはFランク相当の魔物とされているが、イニトス大迷宮ではステータスがかなり高くなって地上でDランク相当とされる魔物たちと変わらないレベルの強さになるらしい。
そして風と火がモノになってきたこの期間に水と土魔法も村人から教えてもらい、習得することができた。
これに関してはもっと早くやってもよかったのだが、魔力水で適性を見た際に火魔法、風魔法、水魔法、土魔法の順に高い適性があるのがわかったので保留していたのだ。四属性持ちは希少価値が高いが、一つの属性に裂ける時間が短くなる為、器用貧乏になる可能性も秘めている。まずは得意な属性から少しずつものにしていくのが良いだろうと判断した訳だ。
そしてイニトスへの出発を明日に控えた俺のステータスはというと
名前: スヴァン
年齢: 9
レベル: 12
HP: 78/78
MP: 286/286
筋力: 20
耐久: 24
俊敏: 19
精神: 36
スキル: 火魔法3・風魔法2・剣術2・身体強化2・索敵2・水魔法1・土魔法1
固有スキル: アイテムボックス・鑑定・経験値2倍
かなりいい感じのステータスだ。一番の重要項目であったMPは順調に伸びているし、他にもスキルのレベルが上がったりしている。これならいかに入るのが難しいと言われるイニトスでも合格できるのではなかろうか。
ちなみにグレゴ村からイニトスまでは三ヶ月ほどの旅路になるそうだ。ちなみにこの世界の暦は以前のものと全く同じだ。今が3月で入学試験は7月に行われる、受かれば9月から寮に入って学校へと通うことになる。
村には、今までの感謝の気持ちとして、鹿や熊などを贈った。食用としてだけではなく毛皮などは売れば良い値段になるだろう。両親たちもイニトスへと同行するので後任には経験豊富なDランクの冒険者が見つかって、1週間ほど前から村に滞在している。今後も村が危機に陥る可能性は極めて低いと言えるだろう。
出発の際、水魔法を教えてくれた時に掛けて貰った村人からの言葉が脳裏に浮かぶ。
「スヴァン君、この世界で一番の偉業ってなにか分かるかい?」
「なんだろう、魔法の秘密を解明するとか?」
「違うさ、それはイニトス大迷宮の踏破だよ。」
「もしかしたら、そこに魔法の解明も含まれるかもしれない。なぜなら、イニトス大迷宮は最初に魔物が発生したところとされていて、そこに様々なこの世の秘密が眠っているとされているからね。世界中の殆どの人が、子供の頃に妄想するのがイニトス大迷宮を攻略することなのさ。」
「スヴァン君はイニトスの学園を目指しているんだろう?君なら本当にその夢を実現できるかもしれない。」
彼としては、軽い冗談のつもりだったのだろう。
しかし、俺の中にその夢はハッキリと刻まれた。
見送りに来てから村人たちに手を振りながら決意する。
どうせ一度死んだ身だ。今度は前世では夢見ることすらできなかったような、大きな夢を持って生きていこう。