第二話
鑑定の儀を終えた後、家に帰った俺は両親と少しばかり話し合った。そこで、神官になることを勧められた話、その上で自分が冒険者になりたいと思っていることを伝えた。前世の記憶を持つ前の俺はあまり興味を持っていなかったが、実は両親たちはそこそこ名の通った冒険者だったらしい。
この世界における冒険者とはかなり広義の意味を持つ。低ランクの冒険者たちは薬草採取や低ランクの魔物の討伐などを主な仕事としている。中位ランクになると、商隊の護衛、低難易度の迷宮や危険度の高い森林地帯の探索が主な活動領域になる。そして上位ランクの冒険者たちは迷宮探索者とも言われる。
世界にはいくつかの難易度の高い迷宮が存在していて、これらには一定ランク以上の冒険者しか入ることができない。その代表格が大陸の中心に位置する、イニトス大迷宮。
世界中から高位冒険者が集まり長らく探索が行われているものの、未だ果てが見えぬまさに大迷宮。有名な迷宮には冒険者が集まり、商人が集まり街ができ、それらは迷宮都市と呼ばれる。迷宮都市の大きさは基本的には迷宮の大きさと難度に比例する為、当然ながらイニトス大迷宮の迷宮都市、通称イニトスは非常に大きい。イニトスはその大陸の中心部にあるという地理的な特性と、探索によって得られるあまりにも巨大な利権から一つの都市国家とされている。これはもしもこの認識がないと各国間でイニトスを巡り戦争が乱発してしまうからだ。
ただそこそこ名の通った両親でもイニトスに挑戦するランクまでは辿り着かなかったらしい。と言うよりはたどり着く前にエリンの妊娠が発覚したというのが正しいようだ。そこで父であるキャスパーが中位ランク向けの長期の依頼、つまりはグレゴ村の防衛と周辺の魔物の間引きという依頼を見つけてきたらしい。こう言った仕事は割と多いようで、金銭で見ると報酬額は多くないが、村から住居や一定の食糧の供給、出産と育児の補助などもなされるので、少ない予算で安全を確保したい村側と子育てをしながら稼ぎたい冒険者の両方にメリットがあるらしい。
ちなみに両親のステータスはこんな感じだ。まずは父親
名前: キャスパー
年齢: 29
レベル: 46
HP: 213/213
MP: 147/147
筋力: 74
耐久: 66
俊敏: 49
精神: 68
スキル: 身体強化6・剣術7・索敵5・罠感知3・風魔法1
固有スキル: なし
スキルや筋力などのステータスが高いことから、前衛の剣使いであることがわかる。
そして母、
名前: エリン
年齢: 28
レベル: 44
HP: 174/174
MP: 390/390
筋力: 45
耐久: 57
俊敏: 52
精神: 73
スキル: 風魔法7・火魔法4・索敵6・身体強化2
固有スキル: なし
こちらは父親とは打って変わってMPが非常に多い。風魔法と火魔法を使う後衛の魔法使いといったところか。
両親によるとレベル40を超えてくると、中位冒険者でも高位に近い部類に入るらしい。冒険者のランクはH〜Sまでの9段階あるらしく、両親はCランクに上がる直前にグレゴ村にきたようだ。H、G、Fは低位、E、D、Cが中位、B以上が上位というのが一般認識だそうだ。
ランクは上がれば上がるほど次のランクへの昇格が難しくなっていく。また、上位冒険者のほとんどは迷宮都市や王都などの大都市に居る為、そういったところに住んでいない限りなかなか目にすることは無いという。
そんなこんなで冒険者について色々な話を両親から聞いた。両親は僕のスキルも踏まえて、僕が冒険者になることは承諾してくれた。
「アイテムボックスは冒険者なら誰でも欲しいと思っているスキルなのよ。解体した魔物や食糧、武器、野営に必要な装備一式だったり冒険者は荷物が本当に多いの。アイテムボックスを持っているというだけで冒険者になるにはアドバンテージになるの。
鑑定だって、魔物を見た時にどれくらいの強さなのかどこが弱点なのかがわかるなんてすごいスキルよ。」
「でも冒険者になりたいのならちゃんと訓練をすること。私が魔法については教えてあげるから、お父さんには剣術と身体強化について教わりなさい。」
「よーし、しっかりしごいてやるからな。覚悟しろよ、スヴァン。」
魔法を習えるということにワクワクしつつも、完全な脳筋系である父の訓練は少し心配だ、、
〜翌日〜
「それじゃまずは魔法の勉強から始めるわよ。」
母であるエリンが話してくれた内容は興味深かった。魔法には基本の4属性があるそうで、火、水、風、土と分類されるそうだ。その他にも、光や闇属性など多種多様な属性が存在するがそれぞれの人間に適性があるとのこと。ただ生活魔法と呼ばれる種の魔法は、少し練習すれば魔力を持つ人、つまりは全ての人が習得可能だそうだ。これは、スキルとして表示されずほとんどの人が日常的に使っているそうだ。また、魔法の適性は魔法水と呼ばれる特殊な性質の水に、指を浸けそこから魔力を放出することで確認することができる。適性によって魔法水の色が変化するのだそうだ。
その後魔力の放出の仕方を母に教わった。鳩尾のあたりにあるとされる魔力門と呼ばれる物を意識して見るところからスタートした。初めは全く感知できなかったが、コツを教えてもらいながら20分ほど続けると認識することができた。その後数時間ほどで魔力を循環、放出することができるようになった。
「スヴァン、すごいじゃない。私も鑑定の儀が終わってから、この工程を始めたけど魔力を放出できるようになるまで2ヶ月くらいかかったわよ。それでもかなり早い方だったんだから。お父さんなんて魔法はまるっきしだめで、13歳になるまで魔法が使えなかったって言ってたわ。」
おそらく俺がこんなにはやく魔力を放出できるようになったのは、前世の知識からくる体の構造への深い理解と5歳らしからぬ集中力のおかげだろう。あと魔法というロマンに対する執念も、ははは。
普通の5歳児がこんなに長時間面白くも無いことに集中し続けようとしたら、せいぜい3分で飽きが来るだろう。
「それじゃ、スヴァンこの水に指を浸けて魔力を少しずつ放出してみなさい。」
母が魔力水と呼ばれる特殊な水を用意してくれた。属性を見極めるためのもので、様々な色に変色するがその色で適性を判断するそうだ。言われた通りに魔力を放出していく、少しずつ放出しようとするが、流石にまだ制御は難しい。どうしても放出する魔力量が多くなってしまう。
魔力水はというと、様々な色に発光しながら、指を中心に円状に波を打っていく。まずは赤、そして緑、茶、青と続いていく。
「え、スヴァン!あなたまさか基本4属性全てに適性が・・・」
そんな声を聞きながら、急激な疲労感に襲われ俺は意識を手放していく。
ああ、これはいわゆる魔力切れというやつなんだろうか。。。
目を覚ますと既に日は暮れかかっていた。4、5時間は寝ていたのだろう。恐らく母が運んでくれたのか、いつの間にか自室のベッドに横になっていた。
「母さん、おはよう。」
眠い目を擦りながらリビングに出ていくと、父もテーブルに座って何やら話し合っていた。
「あらスヴァン、起きたのね今あなたの魔法について話していたところなの。」
「スヴァン、基本の四属性全部に適性があるそうじゃないか。凄い事だぞ!」
なんでも両親によれば、魔法の適性は1つか2つという人が多いらしい。3属性でもかなり珍しく、ほとんどが魔法使いの道に進むそうだ。4属性となると全体の1%を切るほどの低確率だそうだ。
「それでね、スヴァン。お父さんとあなたの魔法の才能を伸ばすためには、学園に入学させるべきじゃ無いかって話になったの。」
「学園?魔法は母さんに教わるのじゃダメなの?」
「魔法は教えるには、教える側がその魔法を習得している必要があるの。つまりお母さんがあなたに教えてあげられるのは、風と火の魔法だけなの。」
「初めの魔法を習得するのが大変なんだよ。一度その属性の魔法を使えるようになればあとは独学でも成長していけるんだがな。」
つまりはこういうことか
1、魔法の習得は属性ごとに行う必要がある。
2、習得にはその属性魔法を既に習得済の教え手が必要。
3、一度習得した属性の魔法は自分で磨いていくことができる。
「でもそれじゃ、俺が風と火の適性がなかったらどうするつもりだったの?父さんも母さんもそれ以外の属性は教えらえないんでしょ?」
「属性の適正には少なからず遺伝もあるからな。スヴァンの場合、風、火どちらにも適性がない確率は低いのさ。」
「それで、その学園っていうところに行くと、水や地の属性を持った人がいるってこと?」
「そうね、学園には基本の四属性だけじゃなくて色々な属性を持つ生徒、教師がいるわ。魔法の習得だけじゃなくて、そこで魔法について理解を深めたり、迷宮や魔物について学んだりすることもできるの。」
学園の数はそこまで多く無いようで、俺の住むグローゲン王国には王都と迷宮都市にもう2、3個しかないらしい。ちなみに学園には魔法科以外にも剣術科など複数の学科が存在する。逆に特定の学科に特化した教育機関は学院と呼ばれ、魔術学院、剣術学院、商業学院等などがある。ただ、一番大きな学園はやはりイニトスにあるそうで、そこには迷宮の歴史を研究する学科や魔石や迷宮から発掘される鉱物、宝物を研究する学科などがあり世界中から優秀な生徒が集まる。
「四属性に適性があるというのは王国ではかなり珍しいけど、イニトスに行けばそういう人も一定数いると思うわ。あなたにはどうせならそういう所で教育を受けて欲しいの。」
イニトスか、話に聞く感じだとこの世界では一番の大都市と言ってもいいくらいの都市のようだし大迷宮にも興味があるな。もちろん大迷宮に潜るにはランクを上げなくちゃいけないけど、冒険者としてやっていくならいつかは辿り着きたい。
「分かった、母さん、父さん。俺、イニトスの学園を目指すよ。」
学園の入学が許されるのは10歳から。そこまでに少なくとも火と風魔法を使いこなせるようにしなくちゃ。
「スヴァン、魔法科にいくとしても俺の稽古はするんだからな。後衛の魔法使いでも体力は必要だし、剣も使えないに越したことはない。」
うう、母さんの魔法の鍛錬は楽しみだけど、父さんの稽古は少し、いやかなり心配だ。。。