君とパンケーキ
[君が幸せそうに笑うから]
昔好きな人と食べるパンケーキが大好きだった。
昔食べたふわふわのパンケーキ。
生クリームとイチゴの乗ったパンケーキ。
美味しかった記憶を頼りに僕はその味を思い出していた。
僕は好きな人がいた。
つい最近結婚式の招待状が届いたけどね。
結婚式は夕方から。綺麗な夕日に打たれ二人の白い衣装は紅に染まる。
その結婚式では君は幸せそうに笑っていた。キラキラした空間が視界に広がる。
幸せそうに笑う彼女の笑顔が、周りが祝福する声。
今どんだけ手を伸ばしても届かない空間が羨ましいと思ってしまう。
目頭が熱くなった気がする。だけど不思議に涙は溢れなかった。
美男美女のお似合いのカップルだな、なんて思いながら眺めていた。
僕とは違いすぎるその光景を。
なぜか膜が張られているような感覚だ。
結婚式は夜まで続いた。
月が顔を出した。僕のことを憐れむかのように輝く月に少しの嫌味を覚える。
冷たい夜風が葉に当たり、音を鳴らす。
僕の眼鏡の縁が冷える。
「きてくれてありがとね」
ウェディングドレスよりも短めのドレスを身に纏い月に照らされる彼女はまさに天使のようだった。
少し低いトーンの声色の声は僕の胸の奥底に響いた。
「あぁ」
月が綺麗に見れる夜。
諦めないととわかっている。だけど僕は諦めが悪いだ。あぁ、本当にクズだよな。
小さく開けた口から冷たい空気が水気を奪っていく。喉まで乾く前に声を出さなれてば。
後悔はもっと早く、早く味わっておくのが正解なんだろうな。
「……月が綺麗ですね」
震えた声は僕の瞳に自然と水の膜を張った。
月がどんどん水彩に水をつけたかのように滲んでいく。
冷えた空気が涙を冷やす。
「貴方の目から見るからですよ」
ニコッと笑った彼女の姿は何処か残念そうな悲しそうな顔をしていた。
キラリと光る指輪は僕に現実を見せつけてきた。
残酷な世界を。僕が恐れて手を伸ばさなかった世界の先を。
そして彼女はザクザクと旦那さんの元へ帰って行った。
肩を落とし、目を閉じた。
君は前もこんな笑い方をしていたね。
君の幸せに手を伸ばそうとした僕が間違いだったな。
誰もいなくなった月の下。僕の涙は勝手に止まっていた。
その代わりに小さな笑みを溢していた。
幸せになってくれ僕が想像できないほど……。
君の幸せそうな顔が頭をよぎるよ。
僕はまたパンケーキを食べに行った。
彼女と昔行ったパンケーキ。
小説だとさ、味が違ったりするじゃないか?
不思議なことにさ味は同じだった。
彼女と食べたから美味しかったのかと思ったけど普通にパンケーキが美味しかった。そう思わせる恋愛は凄いな。
相変わらずふわふわで少し甘いパンケーキ。
僕はテーブルの水を飲み干して店を出た。
読んでいただきありがとうございます。
『月が綺麗ですね』は完結とさせて頂きます。
反応して頂けると活動の励みになるので気軽にしていってください。