景色
都市部の交差点の雑踏の真ん中に、青年は寝そべっていた。しかし、誰も目を合わせようとはしない。それどころか、青年の身体に触れられたものも、誰一人としていないのであった。
まもなく、車が通行し始めた。エンジンをふかしながら、それは青年の身体に迫ってくる。しかし、まもなく車は何の抵抗もなく、青年の身体の上を滑っていった。
青年は、せめてもの抵抗というように、空へ手を伸ばした。寝転んでいる青年の目から、手を透過していく夏の日光、空の青、小高いビル群が見える。そしてもう何回かもわからない車が一瞬、視界を遮った。
その視界が、だんだんと人工的で無機質な黒へと変わり、それにつれて人々の喧騒がもう大分奥まで収縮し、遠のいていった。
青年は、そこにただ一人、取り残されていた。
青年は、もう何回かも分からない溜息をつきながら立ち上がり、瓦礫を踏みながら去っていった。朽ちて埃が被るコールドスリープ台が何万台も残る、がらんどうとした、黒い大きな部屋へと。
後に残されたのは、「2025.8.13 15:28〜16:22」と記された、だいぶん色褪せたホログラフィー・テープ。
その傍らには、古寂びた立体体験映写機が、静かにカラカラと回っていた。