#記念日にショートショートをNo.29『4月1日のさくら』(Sakura on April 1st)
2020/4/1(水)エイプリルフール 公開
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【関連作品】
「さくら」シリーズ
「来年こそは、もっと近くで見られるといいな……。」
病院のベッドに身を起こし、窓の外を見ながら、君は寂しげに呟いた。
「当たり前だろ。来年こそは、僕が、直接花びらに触らせてあげるから。」
生まれた時から心臓が弱い君は、生まれてから一度も、病院から外に出たことがない。君の名前でもある花を、一度も近くで見たことがない。毎年いつも、病院のベッドの上から、窓越しに中庭に咲く桜を見ている。
来年は、君が二十歳になる年だ。
僕は4月、君に桜の花びらに触らせてあげることを約束した。
季節は巡り3月。
君の体調も良好。今年こそは、満開の桜を、君に肌で感じさせてあげることが出来ると思っていた。
➖あの日、僕が病院に行かなければ。
3月3日。
桃の節句のこの日に生まれた、君の二十歳の誕生日を祝いに、僕は病院を訪れた。
ケーキを一緒に食べて、たくさんお喋りをして、君に文庫本をプレゼントして。
「かずくん、ありがとう。」
僕➖志賀 一樹を〝かずくん〟と呼ぶ君は、嬉しそうに僕にその言葉を伝えた。
とても楽しかった。君は笑顔だった。
➖それなのに。
一週間後、君がウイルスに感染したと連絡が来た。
そしてその3日後、君は亡くなった。
桜が開花したのは、その次の日だった。
感染源は僕で、僕があの日、病院に行ってしまったために、君は生涯で一度も近くで桜を見ることなく、この世を去ってしまった。
それから2週間と少しが過ぎ、4月になった。
君の墓石の前で、手を合わせる。
「卯咲 桜」
その名前が、刻まれないでほしかったのに。
誰か、君の死が、嘘であると言ってほしかった。
僕が、あの日、病院に行かなければ。
ウイルスを持っていたと知っていれば、行かなかったのに。
年齢のせいか、症状も軽微で、気が付かなかった。
僕は、馬鹿だ。
散り始めた桜が、一片、墓石に舞い落ちた。
【登場人物】
●志賀 一樹(しが かずき/Kazuki Siga)
○卯咲 桜(うさき さくら/Sakura Usaki)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
◎桜の開花時期について
公開当時(2020年)の桜の開花時期と合わせてあります。
【原案誕生時期】
公開時