鰻と山葵と山椒と
今年も土用の丑の日が近づいてきましたね。皆さん今年は鰻を食べる予定はありますか?
食べようと考えている人。せっかく高い物を食べるんですから、ちゃんとした美味しいものを食べたいですよね。
そこで、鰻狂の私、鶴舞が、年に一度の大盤振る舞いとして行う、贅沢な鰻の食べ方をご紹介します。
一度は皆さんにも試していただきたい私のオススメは、蒲焼き・白焼きがセットになった『二段重』です。
鰻がたくさん乗っている『筏』とか、ご飯と鰻が2層になった二段重とかも贅沢ではあるんですが、同じ味のものがたくさんあっても、だんだん慣れてきますので、徐々に最初の感動が薄れてしまいます。ところが、こちらは味が2種類。なんと、2度感動が味わえる!
なお、こちらの二段重。蒲焼きはご飯の上に、白焼きは別の重に入って出てくると考えてください(※白焼きまでご飯の上に乗ってくると、ご飯でお腹いっぱいになってしまいますのでw)。
ですから、お店のメニューに『二段重』がなくても、鰻重+白焼き を頼めば、同じ物を味わうことができます。
それでは二段重の食べ方。始めます。
店に入って、二段重を注文します(※ここからですw)。
まともな店なら、出てくるまでは、しばらく時間がかかりますので、その間、骨せんべい(※鰻の骨を揚げたもの)でも囓りながら待ちましょう。飲めるんだったら軽く飲んでいるのもいいでしょう。
20~40分ほど経って、二段重が登場しました。
まず何をするか。
蒲焼きの乗った鰻重は、蓋をしてしまいます。そして、白焼きを先に食します。
「まずは鰻重じゃろうが!!」
気持ちはわかりますが、慌ててはいけません。蒲焼きはご飯にのっているので、すぐには冷めませんが、白焼きは、皿にのっているだけですから、すぐ食べないと味が落ちてしまいます。美味しいものを美味しいうちに。これが大切です。
白焼きを食する前に、しなければいけないことがあります。山葵の準備です。
白焼きには山葵が付きものです。ここで、普通の人は、山葵を醤油に溶くか、鰻に少量乗せていただくのでしょうが、そんなのは鰻と本物の山葵のポテンシャルを知らないトーシロのすることです。
ツウ(w)である私は違います。
何をするか。付いてきた山葵を全て鰻に塗りたくるのです。
すると、鰻がまるで、バラエティー番組の山葵寿司のような有様になります。
一見、こんなものを口に入れたら、鼻を押さえてのたうち回る光景しか予想ができないと思います。ところが、これが、ほとんど辛くないんです。
騙されたと思って試してみてください。濃厚な鰻の脂と、山葵の爽やかさがマッチして絶品ですよ。
※「鶴舞のような、おかしな話ばかり書く輩など信用できん!」という方。ご安心ください。『酒のほそ道』の、ラズウェル細木 先生もコミックモーニング(講談社)で連載されていた『う』の中で、主人公に同じ食べ方をさせていました(というか、それを鶴舞が真似たw)。
※これは、きちんとした山葵を出すお店での話です。チューブの練りわさびだと、辛さが無くなる保証はありませんので、「練りわさびっぽい」と思ったら、最初は少量で試してみてください。
山葵を塗りたくった白焼きは、醤油で良し、塩で良し。気が付けば、鰻は瞬く間に消えていることでしょう。
さて、お待ちかね。鰻重です。
実は、白焼きを先に食べたのは、白焼きが冷める以外に、もう一つ理由があります。
それは、鰻のタレをご飯に吸わせるためです。
先に鰻重を食べてしまうと、タレがご飯に染みず、ご飯がタレの中で泳ぐことになってしまいます。
確かにタレご飯は美味しいのですが、あくまで、タレが染みたご飯と、鰻を一緒に食べるから良いのであって、最後にタレの海に取り残されたご飯粒を一つずつつまんで食べたい方や、タレ粥をすすりたい方は、あまりいらっしゃらないのではないでしょうか。
白焼きタイムの間に、タレはだいぶご飯に吸収されているはずです。そうすることで、鰻とご飯とタレとが渾然一体になった素晴らしいハーモニーを私たちは楽しむことができるのです。
さて、鰻重は、どこから食べ始めるのか。
通は「しっぽから食べなさい」とよく言います。
理由は、「ここが一番鰻の筋肉が発達したところで、鰻の質がよくわかるから」だそうです。
私もしっぽから食べることをオススメします。が、理由は違います。しっぽは身が少なくて食いでがなく、最後に残しておくとちょっと悲しいからです。あ、あと、しっぽの方が薄いから冷えやすいですし……。
とりあえず、私は、まず、何もかけずに、しっぽの部分を少し食べます。そして鰻の味を堪能したら、軽~く全体に山椒を振ります。やっぱり鰻といえば山椒ですよね。
などと書いておいて何ですが、私、鰻に山椒をかける意味が、良くわかっていませんでした。正直今でもわかっている自信はありません。
ただ、不思議なことに、慣れてくると、山椒がないと物足りなくなってきます。
それどころか、今では、醤油ベースのタレを付けて焼いたものに、山椒を振ると、鰻みたいに思えてくるんです。
ウソだと思ったでしょ? そんな人は、京都下鴨の『加茂みたらし茶屋』で『磯辺餅』を食べてご覧なさい。「鰻か!?」と思いますよ。
閑話休題
では、手を合わせて。
「いただきます!」
ここからは、とにかくもう、一心不乱に食べ始ます。鰻は熱さが命。冷める前に、ただひたすらに「食うべし! 食うべし!!」です。美味い鰻に出会ったら、しゃべっている暇などないのです。
さて、だいたい半分食べ終わったなと思ったら、私は、漬け物やら肝吸いやらで箸休めをします。
さらに言うならば、私はこのタイミングで、お茶すら全て飲んでしまいますし、デザートが付く店なら、デザートも完食します。私はここに、鰻を食いに来たのであって、デザートを食いに来たわけではないからです。
ここで口の中をリセットしておくことで、新たな気持ちで鰻と再会できますし、食べ終わった後口に入れる物がありませんから、しばらくは、口の中で鰻の余韻を味わい続けることができます。
あ、余談ですが、肝吸いって好きですか? あれを美味いという人には、あまり会いません。
私にとっても、肝吸いは、基本的には「付いてるくるから食べるだけ」です。ちなみに、それなりに鰻を食ってきた私でも、「食いたい!」と思うような肝吸いを出す店は、1つ(※系列店あり)しか知りません。
ですから、私は店で「肝吸い付けますか?」って質問されたら「要りません」って答えます。でも、その質問をされた場合、私は内心でその店の格を落とします(※質問が「肝吸い。普通の赤だしに変更できますが?」だったら、逆に格を上げます)。
質が悪いと思うでしょ。でも、肝吸いが付いてくる理由を知れば、多くの人は同じように思うはずです。
肝吸いに入っている肝は、本来は、自分が食べている蒲焼きの鰻から取れた肝なんです。ですから、肝吸いは、『あなたの鰻は今、捌いたんですよ』っていう、店側からの証拠の提示なんです。
つまり、別料金で肝吸いを出す店は、『その場で鰻を捌いていない可能性があります』と、自ら告白しているのと同じなんです。
もしかすると、肝焼きとして提供するために集めているのかもしれませんが、そんなの客としてはわかりませんから、がっかり感だけが残る。というわけです。
話を戻しましょう。
鰻ではないものや、肝吸いで、口の中をリセットしたら、最後の感動の時間の始まりです。
残った半身とご飯をやっつけましょう。
もう、この時間にもなれば、ご飯とタレは完全に一体化し、バランスの良いタレご飯が出来上がっているはずです。
しかし、タレご飯の完成と前後して、鰻の温度も下がっていきます。ここからは時間の勝負です。脇目も振らず、鰻を食すのです!
都合の良いことに、先ほど全て消費してしまいましたので、もう、鰻重以外の食べ物も、飲み物も、食卓上には存在しないはずです。
そんな中、お店の人がお茶を運んできたら……。
断りましょう! かき乱されてはなりません。食べ終わるまでは鰻に全集中です!!
そして最後の一口。鰻とご飯を同時に口に放り込みます。これについては、蒲焼きオンリーとか、たれご飯オンリーとか、異論はあるでしょうが、私は『鰻重』を食べているので、最後は一緒に終わりたい派です。
そして、店の人がもってきた食後のお茶を再度断り、口の中に余韻を残したまま、会計を済ませて店を去るのです。
これが、私が年に一度行う、贅沢な鰻の食べ方です。
これを読んだ方は、鶴舞はさぞ贅沢な暮らしをしているんだな。そう考えたことでしょう。
本当にそうだったら良かったのですが、残念ながら、それほど贅沢な暮らしをしているわけではありません。
例えば、私の毎日の昼食代は500円です。この500円の弁当代から100円を削り、毎日400円の弁当を食っています。月の勤務日は20日ほどですから、1か月で2000円ほど積み立てができます。
これを3か月貯めれば6000円。高級な筏や二段重にだって手が届くと言う寸法です。
さらにコロナのおかげで飲み会がめっきり減りました。飲み会が減った分、家飲みをしていたのですが、安く付く分、酒量が増えて、肝臓の数値がおかしなことになってしまいました。
すると、あら不思議。酒代が丸々鰻代にまわせるではありませんか!w
このようにして、私は鰻を楽しんでいる。そういうわけです。
一つ言うのを忘れてました。
『ひつまぶし』を考えた人。私は「天才だ!」と尊敬しています。