4 生贄
文字数と投稿頻度は気まぐれです。
ーーー人間の形をした石像が動き出す恐怖よりも、先程まで生きていた人間が、目の前で石化する恐怖のほうが大きいーーー
別に知りたくもないそのことを、身をもって学ぶことができた俺は、現実感の無さに、逆に冷静になっていた。
数秒前までは、彼と呼べていた石像をおそるおそる触れてみる。
しかし、そこには人間の感触はなく、ただ冷たい滑らかな石の感触だけがあった。
"彼"の顔を改めて見ると、涙さえ石化しているのが分かった。
まぁ、我が校のブレザー型の制服すら石化しているのだから、そうだろう。
俺は静かに己の行く末を確信し、立ち上がった。吹っ切れてしまって、もう恐怖は感じない。
ふと辺りを見渡すと、
教室前方に吸血姫たちと俺、
後方に尻もちをついたままの女子生徒とーーまだ残っていたのかーー老教師しか居ないことに気付いた。
教師は女生徒と俺を交互に見ており、葛藤しているのが見ただけで分かった。
俺は老教師を真っ直ぐに見た。目が合った瞬間、俺は大きく頷いてみせた。
それを見て彼女は、目を見開き辛そうな泣きそうな顔をして、何度も何度も頭を下げてきた。
そして、座り込む女子生徒の手を取った。
俺はそれを見ると、前を向き、椅子に座り、ボタンを外し、首筋を晒した。
後ろから俺の名を呼ぶ幼なじみの声が聞こえてくる。
顔から何リットルもの水を垂れ流す老教師が彼女を無理やり引っ張り出し、彼女の哀しい声が遠のいて行っても、2人の吸血姫は何故か追おうともしなかった。
俺は謎に思い、答えを期待せず質問した。
「あー、こんな事を聞くのもあれですが、追わなくて、いいのですか?」
それを聞き彼女らは微笑んだ。赤紫の髪色の吸血姫が言う。
「私たちの姿を見ても逃げようとせず、挙句の果てに自ら首を差しだす貴方の度胸に免じて許してあげるわ。」
「ははは、そうですか。それは良かった。」
何が"良かった"だ。囮になる悲哀に満ちた正義のヒーロー面か俺は。赤紫は続ける。
「特別に、最期に言いたいことがあれば言わせてあげるわ。」
「貴女方のような希少な存在に会えてとても嬉しかった。それだけです。」
俺は目を閉じ即答した。彼女らはころころとした年相応な笑い声をあげて、小さく「そう。」と言った。
"吸血姫"という希少な存在。この世に存在しないと割り切っていた存在。それをこの眼で見て、話すことができた。アニメーションや漫画などでしか見れぬと信じていた存在をだ。その事実に俺は幸福で満たされていた。
そんな俺を吸血姫たちは、"彼"と同じ位置に噛み付いた。
そうして、俺という人間は終わりを告げた。
そう、人間はーー
毎回毎回題名に困ります。中身がないという訳では無いと信じてます。