3 末路
老教師は訓練されたかのような手際の良さで、
逃げ惑う生徒を非常階段へと導いていた。
そんな中俺は、赤紫の髪色の吸血姫に左、橙の吸血姫に右首筋を噛み付かれている男と親友の関係であったからか、
また、男の最期をこの眼で見届けたいのか、
もしくは、吸血姫という不可思議な存在に対する知的好奇心か、
やはり怖気付いたのか、
足が全く動かなかった。
クラス2分の1の生徒が脱出した頃に、彼女らはやっと噛むのをやめた。
支えが無くなった男の体は右に崩れ、床へと叩きつけられた。
彼はもがき苦しむ中、俺の名前を呼んでくる。
俺はのばしてきた震える彼の手をそっと握ってやる。
しかし、吸血姫は何故だか分からんが、無防備な俺の首筋に襲いかかることも無く、ただ静かに、苦しむ彼を眺めているだけだった。
彼の手が少しずつ、少しずつ冷たくなっていく中、違和感に気付いた。
人間の手の触感が消えてきている事だ。
すると、赤紫の吸血姫が落胆の感情を含む声で、やけに響く小さな声で呟いた。
「またハズレか。」
俺は彼女の表情を確認しようと試みたが、邪魔な長い前髪のせいで分からなかった。
突然、まだ残っていたのか、1人の女子生徒が尻もちをつき、恐怖が混じった震える声で言葉を零した。
「嘘…こんな…こんなことって…」
彼の方向に指を差している。
一体、何が起こった。
急に錆びた歯車のように動かなくなってしまった己の首をゆっくり、ゆっくりと動かし、苦しむ声や嘆きの声、挙句の果てに呼吸する息遣いもあげなくなった彼をもう一度見…
「ぬわあっっ」
俺は"彼"の手を離し、椅子から転げ落ちてしまった。
彼は、あの男は、
石化していた。体も服も全て。