19 食事
お久しぶりです、氷水悠斗です。
Twitterにて推しカプ妄想SS描いたり、二次創作の長編描いてたらいつの間にか3ヶ月ほどが過ぎました。
ほんと申し訳ない。
さて、今までノートに書いたものを打ち込みながら加筆修正する方法でやってましたが、今回のでノートに書いてるストックが消え失せました()
新たにノートに書くか、脳内で新たにポツポツ書くか…まぁ頑張ります。
食事とは娯楽である。
それは栄養摂取の一環に過ぎないと言う者も居るが、結局身体にとっては娯楽以外でもなんでもない。
私は人間時代大食いでは無かったが、食べることそのものが好きであった。様々な味で楽しめて、それと同時に腹を満たすことが出来る、最高。
アレルギーも嫌いな食べ物も存在しなかった私だが、苦手な形式はあった。
西欧形式、これだけは慣れない。
料理は嫌いではない。むしろ好きだ。
しかしテーブルマナー等は、どうしても駄目だった。
ナイフフォークのあげさげで何かと気を使ったり、金に目を光らすウエイターにも気をかけなければならない。楽しめる余裕はないのだ。
また、この値段ならあの拉麺の特盛頼めるんじゃ───まぁ食えないけど、などと貧乏脳の私は考えてしまう。
もしこのまま大人になっていたら、大衆酒場で好き勝手笑いながら料理と酒をちびちび楽しむような人間になっていたのだろう。
たらればを考えても仕方があるまい。
私は自ら吸血姫に身体を売り、吸血姫になったのだから。
ああ、だめだ、つらつらと考えているとますます腹が減ってくる。
そういえば、弁当食べずに飛んでいったわね…
あの実習生ののろまな講義中に手をつければよかったわ…その方が時間を有効に活用できたじゃない…
恥じらう元気すらない…本当にお腹空いた…
そんな私の様子に気づいたのか、ヴェイレット───レット姉が微笑んでくる。
「ベリー、お腹空いたでしょ?」
「っ…!?」
まだ私何も言って…
目を大きく開け、首を横に振るも、マンダリン───リン姉からもお見通しだったらしく、
「顔に出てるよ〜誤魔化しても無駄無駄〜」
などと笑ってきた。
事実であるから苦笑で返すしか方法はない。
そこまであからさまに感情が出るようになってしまったの…?
いや、反例として人間が爆死するのを見て涙出なかったし…でもそれは人間を辞めた影響で…
また思考の渦に沈もうと足を入れていたのだが、引っ張り出すかのように、レット姉は扉に向かって声をあげた。
「カリア、昼食の用意を。」
「かしこまりました。」
扉の向こうから足音が聞こえた。全然気が付かなかった…
あのメイド危なすぎじゃない?ストーカー?
有能なメイドなのかもしれないが、初対面の印象からどうにも良い感情が持てない。
こればかりは時間をかけて溶け込むしかないのかしら…
しばしの時間。部屋の内装はある程度把握したし、特にやることも見つからないので先程から否応なく視界に映り込んでいたダブルベッド、あの寝心地を確かめてみようと、ごろんと背中から身を預けた。
おお、なんということだ。硬い安物のベッドと全然違う。やわらかい。これは寝心地のいい柔らかさだ。
北欧家具屋で寝るだけ寝て絶対買わない、いや買えない気持ちのよさ。
人をだめにするベッドとはこのことを指していたのね…
調子に乗った私は意味もなくごろぅりごろごろ転がった。はしたないにも程がある姿なのだが、姉さまたちは何も言わない。
眠りにつくのがとても楽しみね、なんて考えつつ、興味本位で聞きたくなったことを口から零した。
「ねぇ、こっちには眷属―――鬼人以外にも人間っているの?」
「うん、いるよ~多種多様に様々に」
リン姉は得意げに言うが、それって頭痛が痛い理論と同じなのでは?
どんな人間が居るのかしら…他人事みたいになっているのも少し気になるけど
「私たちを神だと崇める人もいれば、討伐すべきだなんて言う人もいる。でもね、人間同士で争ってるだけで、今まで私たちにちょっかい出してきた人間は一人もいないのよ…」
何故つまらなそうに話すのレット姉…何も争いの無いことが1番なのに…
…何かフラグのようで寒気がしてきたわ
誤魔化すようにあえて傲慢に言ってみる。
「ふふ、私たちの力に怯えているのかしらねぇ…」
「「そうに違いないわ。」」
「認めちゃうの!?」
吸血姫というかこの血筋そういうものなのかな…
話が丁度よく区切れた時に、ゆっくりと扉が開かれた。
「準備が整いました。どうぞこちらへ。」
カリアに先導され長い廊下を呆然と歩く。
その背中はシャキッとしていて、頼り甲斐のあるものだった。メリハリがいいのか公私混同しないのか、今はありがたい。
そんな中、姉たちからはメーカ人の血はまずいだの、カランディア人の血は美味いだの血液ソムリエのように──血液ソムリエってなによ──色々な味を教えられた。
何故だろう、嫌な気持ちにならない。それどころか試してみたいと涎が湧く始末。
そう思う自分自身が何か嫌だ。
人間であるときに得たはずの常識が塗り替えられていく感覚。いや、あの時に塗り替えられたことに、今更実感しているだけなのだろう。
こればかりは仕方無いわね…
「マティーニ人のは──」
そう言いかけた頃には既に扉の前だった。
赤褐色の両扉が金色のドアノブが付いている。
「押すのか引くのか、どっちだと思…いったぁっ!!!」
からかう口調のレット姉の足は無慈悲に踏みつけ、どう開くか考えドアを観察する。
部屋の時に盛大に恥をかいた。ここではなんとか冷静に…やらかさないように…あら?
上部をよく見ると、灰色の長方形が黄緑の四角い光を放っているのが───いやまさか。
そうは思いつつ、手をすっと近付けさせると、そのまさかであり、光が赤に変わって扉がスムーズに左右に別れていった。
奇跡も魔法もへったくれもない。
カリアが持っていたディジタルカメラといい、部屋にあった水洗トイレといい、妙なところでハイテクノロジーな城ね、ロザリンド城…
「なぁんだ、あまり驚かないのねぇ、残念。」
「驚いてはいるわ。でも、あれで分かったし。」
今通り抜けた先にも見えた、例の直方体を指をさす。
やはり地球からの技術奪取が行われているのね…
いや、この城に超天才科学者でもいるのかも…いずれにしても恐ろしい…
残念そうに肩を落とすレット姉、彼女の向かい側へと一給仕に誘導された。
ツインテールに分けられた黒髪、うなじが露わになっているが、そこには首元には二つの噛み痕がついている。かさぶたにはなっているため、数日前のものなのだろうか。
そう考えていると、先導する彼女が止まり、回れ右の号令が聞こえたのか知らぬが、くるぅり滑らかにかつ俊敏に、私に綺麗な紅い目を見せた。
さっと椅子を引き、手のひらをさぁ座ってくださいと言わんばかりに提示する。
私が席に着くまで彼女は一言も発さなかった。表情も変えなかった。営業スマイルと呼ばれるものを掲げるのみ。
「ありがとう…えと、名前は?」
元日本人の性か、素直に感謝を伝えてしまった。その瞬間、食堂全体が静寂に包まれた。
ただ振り子時計が刻む音がかつかつと響くのみ。
彼女は目を丸くし、口の開け閉めを繰り返している。
あれ…何かおかしいことを聞いたかしら…、そう今更焦りが生じてきた時、レット姉がくすりと笑ってきた。
「ベリー、その子には名前がないのよ。事情があってね。」
「じ、事情?…まさか、鬼人の中の孤児を拾ってきたとでも言うのかしら?」
「な…なんで…知って…」
適当に予想したことをあっけらかんと話してしまった。どうやら的を射ていたらしい。
動揺する声色は、凛々しき見た目より高く、人形のようにかわいらしく思えた。
「えと、ごめんなさい、無神経に過去のことを…」
「あ、あ、る、ルベリー様が謝る必要など微塵も、微塵の欠片もございませんっ!!」
瞬時に反応し、あたふたする姿もまた愛おしく、私は彼女に好意を抱いた。
「お詫びといっては、なんだけど、あなたに名をあげたいのだけど、いいかしら…」
「いいね、折角じゃん!名前どうしようかってずっと思ってたの!」
「えと、あ」
「ルベリーから、貰えるなんてあなたは本当に幸せ者ね」
「え、あ、えと…はい」
「ちょっと姉さま?脅さないでくれますか?」
「「ごめんなさい。」」
お腹がすいてるのか、名もなき少女に圧をかける少女たち。まったく、オーラの操作を覚えておいて正解だったわ。
私はまっすぐ、彼女を見据えて、優しく問うた。
「ねぇ、どうかな、名前欲しい?恥ずかしいことじゃないわ、正直でいいから。」
「…しぃ、ほしい…です…」
「…分かった。」
かくりと跪いた彼女の頭に手を乗せる。私の場合はただ世間話のように命名されたが、私はこういう雰囲気の方が好きだ。この名前が似合うだろうなと、出会った瞬間から思っていたのだ。
「あなたは、コニー。コニー・ブライトを名乗りなさい。」
「お、おお、仰せのままに。あ、あ有難く頂戴致します!!」
たどたどしい言葉だったが、彼女なりに精一杯感謝を述べたのだろう。
「これから、よろしくね。」
「はいっ」
そうできるだけ優しく声をかけた私は、やっと席へとついた。
それを見たレット姉は二拍、手を叩き、合図を送った。
なんてこった…雰囲気で薄々気付いてはいたが、ああ、まさか、本当に…
今私の目の前には、ナイフとフォークが並んでいる。そして明らかに真ん中に丸皿が置ける猶予が…
テーブルクロスも真っ白で、もしかするとと思っていたが、もうこれは言い逃れできない。
ああ、頭を抱えたくなる…コース式のあれに違いない…
前菜は何なのだろうか、そう思考する私の前に置かれたものはステーキだった。何肉かは分からないけど、この感じはステーキだ。
いきなり主菜!?いきなりステ…いやいや、カレーは飲み物だと言う人間が日出ずる国でも居たのだから、ありえないことはありえないだろう。
そんな動揺の深海に溺れかける私に気付かず、レット姉はいただきますの号令を発した。
さぁどうする…とりあえず、とりあえずだ、ナイフとフォークを用いてステーキを食べてから考え―――
「美味しい」
思考停止。
言葉が漏れるほど、満足する一口であった。中までしっかり火が通っていて、歯ごたえがいい。
冷凍ハンバーグを解凍させて誤魔化していた肉への欲望が刺激される。なにこれ、うまい。
さて。姉様たちはどう出…る…かぁ?
「おいしー」
と無邪気にリン姉は笑みを浮かべるが、右手のフォークで堂々と獲物を突き刺し、豪快にがぶりと喰らっていた。皿を見ると4つの穴、フォークの跡らしきものがあった。理解が追い付かない。
レット姉、そうだ、レッド姉は一縷の望みを込めて、何故か期待しつつ見ると、それはそれは想像通りで乱れた心が落ち着いた。
一言でいえばそれは優雅だ。所作の一つ一つが美しい。音も立てずにナイフとフォークを器用に扱う。それにつられて、私のぎこちなさも自然と消えて、更に集中して味を楽しめるようになった。
「あら、ベリーも分かっているわね、ヴァンピィ家はこれでなくっちゃ。」
そうにやりと笑ってこちらに顔を見せるが、それを見てステーキをのどに詰まらせてしまった。
「ぇほ…けほ…」
「べ、ベリー!?」
「…ぁ…だ…大丈夫…ぇほ」
心配そうに私を想う彼女の口の周りにはソースがびっしりとこびりついていた。
私も大丈夫かとナプキンで口を拭うが、少しは付いていたが姉たち程ではなかった。
心配して損したわ…あぁ、良かったぁ…ため息とともに肉を口に運ぶ。
何度食べても飽きないなぁ、この味。
くどくもなく薄くもない。たまらない。
自然と手を伸ばしたワイングラスに入った飲み物も美味しい。ぶどうのような酸味は少し強いが、炭酸は全く感じない。
ぶどうジュースもどきとでも定義付けておこうと、貧乏舌は思った。
気が付くとすべてたいらげていた。
前を見ると、マナーに縛られず、自由に楽しそうに食べる姉たちを見て、私はほっとしていた。
ここでの食事も、娯楽として楽しめそうね
そう思いつつ、私は先程からずっと背後に控えるコニーへとおかわりをお願いした。
コニーちゃんすこ。似た見た目の子がラ!に居ますが全く関係ありません。
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平日の方が浮上率高いってことだけ言っときます。
ほんじゃ!メリークリスマス!