18 部屋
お久しぶりです!!
特に書きたいことは今ありません!何故なら深夜に打ち込んでますからね!
もう寝たいの!!あとがきは後で編集して書くから今は許して!!
待たせた割に出来はいつも通りです!!はい!!
城という普通名詞を聞いて、直ぐに思い浮かぶ姿は何だろう。
人によるだろうが、私の場合はこうだ。
四方を囲む広く深いお堀に、頑丈で高い石垣。
そして、白き壁から飛び出る無数の瓦の群れ。
そう、日本の城だ。こう考えてしまうのはこの国に生まれた運命なのかもしれない。
しかし、私の目の前に広がる世界はまた別のものだ。
文系科目が苦手な私でさえ、ああ、そっちか、と理解できる。
これは欧州の城だ。
だが、世界中の赤レンガを全部集めました、と言わんばかりのこの赤褐色の外装には、文字通り飛んできた時から設計者のセンスを疑っていた。
内装に至るまでその狂った流儀を推し進めたのか気になっていたが、目を覚ましたのかただ飽きたのか、煌びやかないかにもそうらしい装飾になっていた。
こうやって素直に落ち着いて観察できるのは、前方少し先を歩く姉たちのおかげだろう。
血と名を授けられたことによって、家族と認識し始めたのかもしれないが。
数10分前に無理やり中に連れてかれ、身ぐるみ剥がされ、着せ替え人形にされていた時にはそんなこと考える余裕など、雀の涙の1滴すらなかった。
ああ、変なこと思い出した…1発ぶん殴った後、罪悪感に襲われている隙に次々と服を変えられ、どさくさに紛れ胸を──
「ここよ、ベリー。」
「…あ、うん」
レット姉の微笑みが聖女に見えた。
彼女が指さした扉は、城内をひたすら歩き回ってここに至るまでに見た扉の群れとは違うことなど全くなく、ただの扉だ。
訂正しよう、ただのと簡単にまとめたが、アパート、一軒家に付いているような質素なものではなく、アニメーションや映画で、また有名絵画で見るような厳かで美しいものだ。
これじゃあ迷子になりそうね、と腕を組んで眉をひそめた私を見てレット姉──ヴェイレット・ヴァンピィは何を思ったのか、慌て始めた。
「普通の扉のままだけど、中は私たちの部屋と広さは同じよ!扉は後で付け直させるから!」
私は苦笑しつつ首を振った。
「いや、ただ迷子になりそうだなって…」
「あ…それは慣れだね、慣れ。」
リン姉──マンダリン・ヴァンピィも苦笑を返してきた。
慣れ、か。どこか不安だわ…そう思いつつ、私はドアノブを捻った。
開かない。
鍵でもかかっているのか。もしくは魔法??
しかしこれを自ら開けようとしたのに、この解錠方法を聞くのは気が引ける。ここは遠回しに…
「あ、あれ…開かない…壊れているのかしら、こんなに引いても開かないなん……て?」
不味い大根を披露しつつ、姉たちを振り向くが、そっぽを向いて肩を震わせていた。
何がおかしい…これは私を試して…あれ
まさか…これって…
「…あ、ひらい…た」
「ぶふっ…くくっ…ふふふふふっ」
そのまさかだった。押戸だったらしい。
遂に耐えきれなかったのか、リン姉が吹き出した。
私は咄嗟に部屋の中に駆け込むと、ばたんと音が鳴るほど、強く閉ざした。
色んな恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
押し引きを間違えたちっぽけなことと、そのちっぽけなことを笑われて腹を立てた自分がとても恥ずかしい。
「ベリー、謝るから出ておいで〜」
子猫を呼ぶような甘い声に釣られ、私は扉をそっと開き、おそるおそる顔を覗かせた。
「「っ…!?」」
姉たちは何故か表せぬ声をあげ、胸をおさえた。
「ね、ねぇ、ルベリー、もっと自覚した方がいいと姉様は思うわよ?」
その声は震えていた。
ああ、そうか。レット姉は怒っているんだ。
吸血姫という、ヴァンピィという名を持っているのだから、もっと健気に生きよ、と。
そういうことか。私はまだまだ甘い人間──吸血姫らしい。
吸血姫になって食物連鎖の階段を上ったのだから、自覚を持つべきだ。情けない。
私は親に叱られた子供のように、おそるおそる顔を見上げ、謝った。
「ごめんなさい、レット姉…私は自覚が足りな」
「ああもう分かってなあああい!!!」
レット姉は何故か私を抱きしめてきた。訳が分からずうろたえてしまう。
暖かい抱擁に思考がまとまらない。
「ふぇ、ええ」
「わざとやってるの、それ!無自覚なの!?」
「え、一体何の話を」
「も〜この妹は〜」
ひたすら頬擦りをされて心地よい気持ちにはなるが、疑問符は尽きなかった。
分からない…レット姉は何を伝えたかったのだろう。何が駄目だったのだろう。
「ま、いいわ、部屋に入りましょ?」
「え、は、はい。」
私は無理矢理回れ右をさせられた。この件は後々考えよう…
何より先に目に入ってきたのは、屋根付きのダブルベッドだ。
装飾も細かくきらびやかに施され、まるで自分が貴族の気分になった。もしくは、無理矢理ホテルに休憩として連れてかれ──
「ベリー、見てみて〜」
「え、あ、うん」
レット姉に手招きされて、入口とは別の扉を開くと、そこには雰囲気ぶち壊しの水洗トイレがあった。
手洗い用の蛇口も自動で、飲食店かとツッコミたくなった。
技術者はどの世界にも居るのね…
「凄いでしょ!水が手をかざすだけで出てくるのよ!」
そう手をセンサー範囲に入れたり出したり、インスタ用の撮影を邪魔する友人のように動かすレット姉が可愛らしく見えた。
しかし、私のあまりの無反応さに何か感じたのか、つまらなそうな顔をした。
「そっか、地球にもあったわね。」
「うん、普通に。」
「うーん…こっちじゃ貴重なのになぁ…」
頭をかくレット姉から目を逸らし、部屋を見渡す。
ダークオークの机と椅子、空の本棚。
長く使われていないようだが、埃ひとつついてない。
給仕の有能さが垣間見える。
「ベリー、来てきて〜」
「はーい」
今度はリン姉に手招きされ私は親に呼ばれた子供宜しく駆け寄った。
そこに広がっていたのは―――
「わぁ…」
一面の美しい花々の海原であった。
赤、黄、青、緑。様々な色に染められている。
視点を塀の先へ向けると、飛行時には無かったはずの赤レンガの街が見えた。
黙って隣に寄り添う姉に話しかける。
「ねぇ、レット姉。」
「どうしたの、ベリー?」
「あの街って…」
「私たちの領地でローザス、という町よ。」
「領地!?てか飛んでいる時には見えなかったけど…」
困惑気味に問う私に、ドヤッと効果音が聞こえる顔でレット姉は答えた。
「魔子を操作して作った結界のおかげよ!」
「結…界…」
現実味が湧かないが、驚きも湧かなかった。おそらく麻痺してきたのだろう。
しかし、比喩として度々用いられる、ドーム状の膜が全く見えなんだ。
化け物の言葉を聞いている気分になった。私もまさにその代表の1人なのだが…
やはり街なのだから人々もいるわけで、老若男女問わず歩いているのが見えた。
ああ、この視力にもなんだかんだ慣れてしまった。
あれ、全員紅い目…これは一体…
「あの子たちはね、全員私の、私たちの眷属なの。」
聞いてもないのにレット姉は答えてくれた。
「確か種族名は・・・」
鬼人
「あら、よく分かったわね!その通りよ!」「ま、安直すぎるけどね~」
そう当たり前のことをいうように、笑い合う姉たちの隣で私は理解に苦しんでいた。
情報量が多すぎる。だが理解したこともあった。
カリアについてだ。
私の打撃や、リン姉の魔弾を耐えられたのは鬼人であるからなのだろう。
…いや、あの変態を鬼人呼ばわりするのは他の人々に不遜な気がしてきた。
色々こもった溜息と共にがっくり視点を落とすと、花園のベンチに座る人物と目が合った。黒髪の彼だ。
「ドリー!おーい!」
リン姉も気付いたのか、大きく手を振っている。しかし彼は返すことなく視線をそらした。
終始無表情で感情が読めない。
「変なの。」
そう呟き、私はベランダを後にした。