17 悪魔
こーんにーちわー!!
年内最後の投稿になります!今回は前回と比べて短めになっております。
前回が長すぎただけなんですけどね…
モチベがここまで続くとは思いませんでした…
因果応報という言葉は誰しもが知るものだろう。
考えや行動の善し悪しに応じて必ず報いが来る。
神はいつも我々を見ているとでも言いたいのかもしれない。
神や仏を信じない私にとっては、笑いの火種でしかない。
で、何故いきなりその話から始まったのか。
それは自分の行いを肯定したいだけかもしれないが、原因としてはいま引き摺られているメイドにあると私は主張したい。
被告人カリアは私の足に抱擁し、太腿を跡がつくほどがっしり触り、終いには己の舌で私の腿を───。
忌々しい記憶を思い出し、腹癒せというか八つ当たりというか、メイドを蹴飛ばす。
その無駄に整った顔は何故か嬉しそうに顔を歪めていて───ねぇ、起きてるでしょ!!
そう厳しく接しているが、私の心の奥にはまだ罪悪感が残っている。
彼女に対し吸血姫の拳で何発も殴ってしまったからだ。
これは正当防衛だ。仕方の無いことだ。
───そう何度も割り切ろうとするが、平和な国で平和な生活を送ってきた元人間の私には、そう簡単には出来なかった。
そんなもやもやしたすっきりしない気持ちで来た道を引き返して居るのだが…ああ、姉たちだ。
私は少し安堵した。
見知らぬ城で、慣れぬ格好で、たった1人──と人間のような何か──で歩くのは心細すぎる。
姉達は私に気付くと、駆け寄ってきてくれた。
そして、傷だらけのメイドに目もくれず、私に声をかけてくれた。
「だだ、大丈夫!?ベリー!?何か変なことされなかった!?」
「止められなくて本当ごめん!!」
ああ…レット姉…リン姉…感情を取り戻したかのように、ボロボロと涙が溢れ出た。
「いきなり…ぬがされ…きせられ…なめられ…」
そこまで言うと、ヴェイレット──レット姉は黙って私を抱き締めてくれた。
その瞬間、私の中で何かが切れた。
「うああああああああああああぁぁぁ」
赤子のように感情が爆発した。メルトダウン級に制御不能な私を優しく、優しく撫でてくれる。
ただそれだけで、私の冷え切った心は幸せに包まれていく。
ああ、私は身も心も妹になってしまったようだ。
「大丈夫、大丈夫よ、ベリー」
何度も何度もそう囁かれ、心がやっと落ち着いてきた時、カリアが何か叫んでいる声が聞こえた。
「待ってください!それは流石にまずいです!!」
「あー、起きてたんだ、やっぱりー。でもいいじゃん、1発だけだしー」
「1発だけでも危ないんですよ!許してください!ちょっとは反省してま………いや、しっかりしてます!どうか!どうかぁ!!!」
ふと右を見ると、リン姉の手にはあの近代兵器をも屠った例の魔弾があった。
彼女の怒りの混じった目の先には、いつの間にか──やはりとも言えるが──目覚めているカリアの姿がある。
助けを求めようとチラチラ見てくるが、私は無視して額をすりすり姉に委ねた。
そんな私にレット姉は微笑む。
「あらあらベリー、もうこんな甘えんぼさんになっちゃったのかしら?」
「うっ…////」
そう言われ羞恥心を思い出し、飛ぶように後ろへと退く。
指先同士を絡んだり離したりしながらそっぽを向く。
顔が紅潮していると鏡を見なくても分かった。
「ベリー」
「んー?」
名を呼ばれ不意にレット姉へと向いてしまう。彼女は慈愛に満ちた笑みでこう言った。
「その服、似合っているわ!」
私はそれを聞いて心から輝く笑みを浮かべこう返していた。
「えへへ、ありがと」
───そう言った数秒後、私はくるりと後ろを向き顔を手で覆った。
流石に耐えられない。とても恥ずかしい。
何がえへへよぉ…私はそれ程女体化しちゃったのぉ…
脳内で叫ばれる声も女口調でもう本当に自分が嫌になった。開き直れる気がしない。猛烈に恥ずかしい。
ちらりとレット姉の様子を伺うが、何故か己の胸を押え、顔を朱に染めていた。
すりすりした所が痛いのだろうか…だとしたら申し訳ないわね…はぅ…まただぁ…つい意識してしまうぅ…
そうもやもやしている私と、何故か口をむにむにさせているレット姉の後ろでカリアの悲鳴が響くが、気に止めることは無かった。
自業自得、そう割り切れたのか、そんなこと考える余裕は無いのか。
吹っ切れて良かった。
爆発音で動じなくなった私は感覚が麻痺したのかもしれない。
「───誰」
「ふわぁっ!?!?」
いきなり背後から声をかけられ、変な声が出てしまう。
「あらドリー、こんなとこに居たのね、花園にいると思ってたわ」
レット姉がドリーと呼んだ黒髪に白い目──本当にそのままの意味よ──をした長身の男は、表情一つ変えず、左手に持っていた赤いジョウロを前に出した。無言。
「そう、水を入れに戻ったのね」
レット姉は沈黙が当たり前のように何事なく微笑んだ。
レット姉の言葉に頷きつつも、彼の細い目は私を捉えたままだ。
色も表情も抜け落ちた目を私に向けないで欲しい。
なんだが不気味ね…。
私が助けを求めるように、ちらりちらりとレット姉に視線を送ると、苦笑しつつ答えてくれた。
「その子はアドリー。こう見えて悪魔なの。」
…いやいやお姉様。どう見たって悪魔でしょうよ。
心の中でそうつっこみつつ、アドリー──ドリーを見る。
髪色と同じ黒い紳士服を身にまとっている。中のシャツまでもグレーでネクタイも漆黒。全身黒である。
それでも許されるのは、美しい顔立ちだからなのだろう。
やはりどんなアニメーションや映画でもあるように、悪魔は制服物を着ているのだな、と私は思った。
そして、たどたどしくも、スカートの端をつまみ、頭を下げる。
「初めまして、ルベリー・ヴァンピィと申します。どうかベリー、とお呼びください。」
よし、今度はスラスラと言えたわ!
そう嬉しさと恥ずかしさが混じった私にドリーはただ頷くのみ。視線は変わらず私の顔。
どう足掻いても目と目が合う。
非常にミステリアスでクールな男だ
…いや待て、カリアの件を忘れるな。
人は見た目には寄らない、きっと彼にもなにか…
そう疑い始める私に気付かず、レット姉はサラリと言う。
「この娘、元人間なのよ。成功したの。」
その言葉を聞いた途端、彼は目を皿にした。
その顔が面白く思えて、笑いそうになる。
成功という単語を聞く度、頭に疑問が湧いてくる。
どういう意味なの…珍しい生まれ方なのだろうか…自然と女言葉になるのが本当に嫌だ。
彼は目を離さない。
整った顔…世間一般では希少な存在、これがイケメンというものなのだろう。不気味だと思った白い目も、改めて見ると水晶のように吸い込まれるような美しさで…
…あの、いつまで見てるのかしら…困惑という感情が更に強くなる。居心地が悪い。気まずい。
「私の顔に何かついてますか?」
その問いに我に返ったように目を見開き、彼はふっと微笑んだ。魔性の笑みである。
元男のプライドがへし折れていたら、間違いなく堕ちていただろう。無自覚のかっこよさに妬む気持ちは起きなかった。
「失礼。」
そうとだけ言って、彼は城内へと堂々と歩いていった。足音が聞こえない。やっぱり不気味だわ。
なんだったんだろう、私はそうとしか思えない。
そんな私を今度は姉たちが驚いた顔をして見てくる。
「な、なによ」
「ねぇ、ベリー、貴女どんな魔法を使ったの?」
リン姉が動かぬカリアを踏みつけつつ聞いてく──
「り、リン姉、ガン見されてるわ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
ヒラヒラとしたゴスロリを下から堪能していた変態メイドを、リン姉は言葉では言い表せない叫び声で蹴り飛ばした。
…タフだ…本当に人間なのか不安になってくる。
いやそもそも人間なのか?判断がまだ付けられないわね…
そんな旧軍機を屠る魔弾すら耐え抜いたメイドをレット姉はゴミを見るような目を向けて冷たくこう言った。
「仕事に戻ったら?メイド長。」
「…はい」
名残惜しそうな顔をして、よろよろと立ち上がり、城内へと走っていき───あ、転んだ。
「で、どうなの」
「どう…と言われても」
転んだ馬鹿に気づかず、リン姉は聞いてくるが私は戸惑ってしまう。
私は魔法は使えない。強いて言えば、あの魔弾程度だ。
「あの子、滅多に表情も変えないし、口も開かないのよ…」
「…なるほど」
レット姉に言われてリン姉の言いたいことは理解した。いや、元々理解していた。
だとしても答えは見つからない。私は正直に答えた。
「私にもよく分からないわよ…心当たりはないし…」
「本当に?」
「本当よ」
リン姉は納得いって無いのか、じとっとした目で私を見てくる。私に罪はない。断じて。
そんなリン姉の肩に手を置き、レット姉は言う。
「そもそもそんな魔法は無いでしょ、リン。それに私たちはまだ魔力弾しか教えてないじゃない」
「あー」
リン姉はポンと手を打った。てか魔力弾と安直な名前なのね、あれ。
「さて、」
レット姉はスッキリしたような晴れ晴れとした顔を向けてこう宣言した。
「今から貴女を案内するわ!私たちの家、"ロザリンド城"を!!」
「ロザリンド…城…」
呆然とする私を置いてレット姉達は先を歩いていく。
アパート暮らしから城暮らしか、私は苦笑を浮かべつつ、後を追った。
『ルベリー…か。ヴェイレットらしいな。』
余談ですが、ルベリーちゃん、人間時代地方から学校通うのもあれということで、近くのアパートに一人暮らしをしていました。
学校に隠れてバイトもしつつね。
結構離れたコンビニでバイトです。
いやすぐバレるやろ…命懸けにも程がある。
業務連絡ですが、年明けたら投稿頻度も少なくなるでしょう…
いつも通りなんて言わないで…頑張るから…