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反撃の糸口

 

「ルネ!こっちだ!!」


 聞き慣れた声に思わず振り向いた。


「応援を連れて来た!一緒に逃げよう!」

「へ??お、お父様!!??」


 目を丸くする。

 永久騎士の攻撃を避けながら出てきた雪原。

 昼に作った雪だるまが場違いに佇むそこから、同じように場違いに感じられる人が現れた。


 ふわふわと波打つ薄茶の髪、黄味の強い琥珀色の瞳、恰幅の良い……もとい、ふくふくと膨らんだ身体。

 間違いなく私の父だ。


 氷狼を操るクレマン様の手を引いた。


「ク、クレマン様、あ、あの、あそこに……」


 父が、と伝え終わるより先に、お父様へ向かって氷の塊が飛ばされた。

 屍の永久騎士ではなく、アダンさんの作り出した氷塊が。


「っ!!!!」


 血の気が引いたのも束の間、目にした光景に拍子抜けし、頭が疑問符でいっぱいになる。


 氷を投げつけられたお父様が…………霧のように消えてしまった。


「へ!?あ……えぇ????」

「幻影です。永久騎士には、希少魔法の使い手もいます、から……っ」


 また雪の下から土が盛り上がり、私達を呑み込もうとする。氷狼が飛んで避けた。


「埒があかないですよ〜!!ひとまず逃げましょう!!」


 ゼリさんの提案に、クレマン様が頷いた。


「アダン、ゼリ!四重の氷壁で囲んでくれ」


 すぐさま、二人が氷壁を構築し始める。

 球状に広がり塞がっていく氷壁の隙間に、私達とトマスさんが滑り込んだ。


「王都の騎士団詰所へ転移。トマス、王太子ラフィル殿下に協力を仰げ。ルネ嬢を頼む」


 転移魔法の光に包まれる中、クレマン様が矢継ぎ早に指示を出した。


 私を抱きかかえ、かと思ったら、宙空へ向かって放る。


「ふぇ?」


 投げ出された身体を、風が受け止めた。

 ふわりと、トマスさんの元へ下ろされた。


「クレマン様!?」


 戸惑うトマスさんをよそにクレマン様は転移魔法の光から離れ、氷壁と向かい合う。


 バキンッと氷の砕ける音が響いた。

 表面に作られていた氷壁が一枚、大剣を振るう永久騎士によって斬り開かれた。


「この惨状の中、邸の者達を置いては行けない。お前たちだけで逃げろ」



 バキンッバキンッと、氷の壁が砕かれる。



 ――逃げなきゃ。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ。


 本能が逃げろと言っている。

 いま逃げなきゃ、また命の危機に晒される。


 でも……でも……?

 本当にクレマン様を置いて行ってしまって良いの?


 クレマン様は……また、自分ひとりを犠牲にしようとしている?



 転移魔法の光がひときわ強くなる。

 まばゆい世界の中で、私のすぐ傍を何かが駆け抜けた。



 頭で考えるより速く、身体がそちらへ飛び移った。



 乾いた破裂音を後ろで聞く。

 うまく飛び移れなかった私は、氷狼の尻尾とお尻にしがみついた。


「なっ……!?」


 氷狼にまたがっていた人……アダンさんが驚きの声を上げ、私はしがみ付きながら、土混じりの雪に足を打ち付けた。


 バキンッと氷の砕ける音がする。


 全ての氷壁を破って現れた大剣の騎士さまが、クレマン様へ向かって剣を振り下ろした。


 クレマン様が剣で受け止めた、かと思ったら、大剣の力を逃し、地面へと滑り落とす。

 アダンさんがすかさず地面から男の腕までを凍り付かせた。


「乗ってください!!」


 アダンさんに手を引かれ、後ろへ乗せられる。

 当然だけれど、さっきまで乗っていた転移魔法使いさんの姿はなかった。


 クレマン様と並んで、もはや袋小路となった氷の球体から飛び出す。


「っ……!」


 私達を見たクレマン様が眉を寄せ、物言いたげな顔をしていた。

 けれど、ゆっくり話してる暇もない。


 襲い来る土を避けて避けて、避け続ける。

 避けるばかりで、反撃の糸口さえ見つからない。


 ……どうしよう。

 咄嗟について来たけれど、私は足手まといでしかない。


 何か、何か、できることは無いの??


 そういえば……炎熱魔法は、死霊術の天敵と言われていたっけ?

 いや、たしか天敵は他の魔法だった……けれど、相性が良くないのは確かだったはず。


 なら、私が炎熱魔法で助けられる事があるんじゃ?


 飛び跳ねる氷狼の上から、二人並んで浮いている永久騎士、おそらく土使いと風使いへ向かって手を伸ばした。


 ――火よ、灯れ!


 反応はない。いつもの事だ。

 そもそも、こんな長距離で魔法を放ったことなんて無い。


 でも、もしかしたら。


 ――火よ、灯れ!


 いつかのように、成功するかも知れない。


 ――火よ、灯れ!

 ――炎よ、巻き起これ!


 無茶でも何でも、やってみなきゃ分からない。

 やってみなきゃ、出来るものだってできない。


 ――炎よ、巻き起これ!


 ――炎よ、巻き起これ!


 ――彼の者を熱しあげろ!!


 力を込めて伸ばした手。

 その先に、紅い渦が生まれた。



 土使いと風使い、二人そろって紅い渦に呑み込まれる。



 私達へ襲いかかっていた土とが、ドサドサと力なく落ちた。

 追うように、紅に呑み込まれた二人も落ちて行く。


「っ……!」


 クレマン様が氷狼を走らせながら、地面へ手を伸ばした。

 鮮やかな紫が地を這い、二人へ到達する。



「蘇れ、息絶えし者」



 倒れている二人を紫が包み、そして内側へ入り込んで行く。

 やがて、むくりむくりと煤けた身体を起き上がらせた。


 その目は虚ろなまま。

 けれど、私達を見て攻撃してくる様子はない。


「…………え?」


 何が起きたの?

 炎……?が起きて、二人が落ちて。

 なぜかクレマン様が魔力を……え?


「あの……えっと、何が??」

「屍の身体が炎で損なわれ、ヒューゴ様の注いだ魔力が不足したのでしょう。死霊術が解けた隙にクレマン様が術をかけ直し、使役権を奪いました」


 答えてくれたアダンさんが、視線を起き上がった二人から私へ移す。


「先ほどの炎は、ルネ様が?」

「へ!?わ、私……で、しょう……か??」


 私、なのだろうか。

 確かに手を伸ばして炎を出そうとした。

 そして実際に炎が出た。


 けれど、本当に私が出したかと言われると……首を傾げてしまう。

 魔力が放出される感覚も無かったし、私の魔力の色、黄色い光も見えなかった。


 でも……この場に他の炎熱魔法使いもいないし……。


「たぶん、私、です??」


 半信半疑で答えた所で、また別の場所に炎が灯った。

 氷で地面に縫いとめられていた、大剣を構えた騎士さまだ。


「おい。あんた、恩を仇で返すつもりか」


 燃え盛る炎の傍らから、黒髪の青年が現れる。

 眼鏡の奥、照らされた瞳が常よりも(あか)く見えた。


「他人の手柄を、勝手に自分のものにするな」


 イノートル辺境伯領で、私の知る唯一の炎熱魔法使い。

 ヴィルモスさんがそこにいた。




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