side バルカン
遅れました!
アタシは自分がスゲー奴だと思っていた。
現炎竜王の娘として生まれ、戦闘能力も親父のお墨付きだった。だからこそアタシは偉い奴なんだと勘違いしていた。
そんな時にアタシ達の村に魔王と名乗る男がやって来た。
偉そうに上から物を言ってきて しまいには俺の元で働けだと?こいつは何様のつもりなんだ。
そのあと親父と口論になり、クソ野郎が変な道具を使ったと思ったら親父が倒れてしまった。
クソ野郎曰く、素直に言うことを聞いたら親父は助かるらしい。このままボコボコに殴ってやるのは簡単だが、もしコイツしか親父の治し方を知らなかった場合助からなくなる。
この時ほど自分の無力さを呪ったことはない。
だからこそ血が滲むぐらい悔しいが我慢して竜王の娘らしくアタシ一人だけで勘弁してもらうよう頭を下げた。
あの時のニヤケ顔をアタシは一生忘れないだろう。
そこからは ただひたすら働いた。やれ魔界の領土を広めるなど、やれ歯向かう魔物を倒してこいなど毎日こき使われてばかりだ。いつかぶっ殺してやろうと思う。
まぁ…アタシと同じようなことを考えている奴は何人かいたけどな。そいつらと一緒にアタシは四魔天と呼ばれたっけ?生意気だったがな。
月日が経ったある日………全然親父を治してくれる気配がねーから問い詰めたところ……
あのクソ野郎、治せないって言いやがった!!
なんでも治すにはかかった呪いに物理的に勝たなきゃならねぇらしい。アタシは今までの鬱憤を晴らすためにボコボコにしてから実家に帰った。
力には自信があったから治せると確信していたんだが、ここでまた惨めな思いをすることになった。
そう、呪いが倒せない。それどころか掠りすらしねぇ…!なんだよ!?呪いってここまで強いのかよ!?
何度も挑んだが勝てるビジョンが浮かばなかった。それどころか逆に親父の体力を擦り減らす結果になっちまった。
本気で心が折れかけた。何がアタシは偉いだ!!何がアタシは強いだ!!親父一人助けられねーじゃねーかよ!!
だからこそアタシは修行に明け暮れた。自分が強くなりつつ、あわよくば勝ってくれそうな人を探す。この目的に尽力していた。
クソ野郎じゃダメだ。アイツはアタシにさえ負ける。四魔天でもダメだ。アタシの方が強い。
フローリアなら……。いや、遠距離ではめっちゃ強いが近づかれたら終わりだ。接近戦からっきしだから。
だから失念していた。普段あんまり使わない頭を使っていたせいで足元の穴に気づかなかった。
そのまま真っ逆さまに落ちたが、この出来事がアタシの運命を変えるなんてこの時は思いもしなかった。
最初はめちゃくちゃ焦ったよ。足腰を鍛えるために走り回っていたせいで、翼の扱いが全然出来ないんだからな。飛ぼうと思ったが上まで飛べない。
考えても仕方ないので落ちた先にあった温泉にでも浸かってゆっくり考えようとする。
考えている途中にそいつは現れた。
壁が破壊されたかと思ったら、誰かがはしゃぐ声が聞こえる。声がする方に近づいてみると一人の男が温泉に浸かっていた。
そいつはアタシの体を見たあと、真っ赤な顔をして背けた。ウブな奴だな。今だったら逆の結果になりそうだが/////
そいつはゼノンという変わった奴だった。
だがそんなウブな奴でも強いのではないかと思い、勝負を挑んだがアタシは軽くあしらわれた。こんな強い奴に会うのは久々だ。こいつならもしかしたら勝てるかもしれない!
そう思って一緒に行動してからアタシは初めての気持ちの連続だった。この野郎アタシを女の子扱いしてくるし、よくわからんことを言ってくるし、終始照れまくりだったと思う。お姫様抱っこなんて初めての経験だったよ/////
そして戦う前に泣きそうになっているアタシに「大丈夫だ」と声をかけてくれた。他人に心配されるなんて久しぶりだし、ちょっとカッコよ…………いや、なんでもない/////
さらに強さにも驚かされた。アタシが手も足も出なかった呪いを圧倒しているではないか。だからこそゼノンが呪いを吹き飛ばした時とても嬉しかったし、この時からゼノンを意識し始めたと思う。
だからこそ腕を切られ、胸を貫かれた時は心臓が止まりそうになった。
そのあと呪いがこちらに殺気を放って来た時、動くことすらできなかった。ゼノンはこんな奴と戦ってたのかと………
さらにゼノンが死んでしまったんじゃないかという焦燥感で目の前がクラクラした。
しかしゼノンはさらに強くなって帰ってきた。
生きていたことに心底ホッとしたし、とても嬉しかった。いや/////生きてたことが嬉しかっただけだ/////
そこからは圧倒的だった。黒い斬撃を飛ばしたり、すごい速さで動いて蹴り飛ばしたり。呪いは腕が伸びたり口が出現したりして気持ち悪くなったけど、それでもなお圧倒し続けた。
そして………とんでもないエネルギーとともに呪いを両断し、呪いは消えていった。
本当に勝ってくれた……!
アタシ達を助けてくれた……!
気づけばアタシとお袋は泣いていた。
親父を纏っていた呪いも綺麗に無くなっていた。
するとお袋がとんでもないことを言い出した。
「もうすぐ初孫が見れそうね」
何言ってんだよ/////!?
別に……そんなんじゃねーし…/////
しかし、アタシより強くて とても魅力的で あんな呪いに勝っちまうなんて、ゼノンって何者なんだろ?
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