魔王となった一般人
初投稿です。
不定期更新かもしれませんが、温かい目で見守ってください。
「おはようございます、魔王様」
「おう、おはよう。………はっ?」
目が覚めたら目の前にはとてつもない美人がいて、訳のわからない挨拶をされた。
おい、なんで一人暮らしの寂しい大学生の家にこんな美人がいるんだ。
美人お持ち帰りイベントなんて俺の辞書には存在しないはずだぞ?
寂しすぎてついに俺の頭がイカれちまったのか……
そんな悲しい現実を認めたくないので、俺は昨日までの行動を思い返した。
俺の名前は、剣 恭輔
どこにでもいる普通の見た目をし、なにかが秀でていることもない、平和を愛する大学2年生だ。
ただ、人とちょっと変わってる点があるとすれば食に対してのこだわりだろうか?
俺は食を探求することが大好きで、食べ歩きなら某グルメリポーターよりも店をまわっている自信がある。
なにせ家賃や生活費以外の全てのバイト代を飯に費やすぐらいだ。
さらに、未知なる味を求め 自身で料理(もとい実験)を考案している。
いや〜、シュールストレミングスに唐辛子を混ぜたら匂いがマシになるんじゃねぇかと思ったのが失敗だったな。
激臭と辛味で悶え苦しみ、異臭に気づいた隣人が警察と消防車を呼んで、しこたま怒られたのはまだ新しい思い出だよ。
おっと、話が逸れたな。
確か俺は前日に見たテレビ番組でやっていた 生卵の天ぷらを作ろうとしていたんだ。
そのためにスーパーに行き、卵を5パック買った。
我ながら卵買い過ぎだろと思ったが、妥当な数だと思う。備えあれば憂いなしと何処かのお偉いさんが言っていた気がするし。
そして俺はウキウキしながら家に帰った。
準備を整え、いざ調理開始!
卵を油の中に投入したが俺は失念していた。
温度が高すぎる油の中に卵を投入すると爆発するということを……
案の定……………ボンッ!!!!
「あああああああああああああああああぁ!!」
卵が爆発し、飛び散った卵や油が俺の顔面を強襲!!
あまりの熱さでのたうち回る俺!!
さらに足が滑り、追い討ちをかけるようにテーブルの角に頭を激突!!
俺はそのまま意識を失った……
そして目が覚めたら目の前にはさらっとした黒髪に赤色の宝石のような綺麗な目をした、身長170センチほどのモデル体型の女性がいた。
………………………どゆこと??
俺が思考を巡らせている途中、女が再び口を開いた。
「魔王様 ご就任おめでとうございます。」
「さっきから何を言ってるんだ? 魔王? 俺が??」
「はい」
女は頷いた。
………………もう一度情報を整理しよう
目を覚ますと目の前には綺麗な女性。
そして今まで気づかなかったがここは俺の家の中じゃない。どこかの城?の中にいるみたいだ。
部屋は松明で明かりが灯されており、それなりに明るく、紫がかった石造りの壁に赤色の綺麗な絨毯。
そして現在俺が座っているであろう金色の玉座。
例えるならドラ○エのゾ○マ城のような雰囲気だな。
辺りの風景を眺めながら、俺の中である一つの結論にたどり着く。
うん、これはもう魔王確定だ。
さっきから目の前の女が俺のことを魔王様と呼ぶということは、何故か俺が魔王になってしまったのだろう。
逆にこの景色とこのイスに座ってながら魔王じゃなかったら、俺は一体誰なんだ。
順応するのが早いなと思うが、あいにく俺の昔からの性分だ。料理の失敗を割り切り過ぎて、なんでも納得してしまうようになった。
色々と感慨にふけりながら目の前の女性に視線を戻す。
それにしても本当に綺麗な女性だなぁ。
黒髪赤目も綺麗だが、胸元や肩が大きく開いた黒を基調としたドレスを着ており、補うようにショールを纏っている。しかしそれが逆に妖艶さを醸し出しており、思わず顔が赤くなってしまう。
「どうかいたしましたか?」
「いや、本当に綺麗だなと。」
「きれっ……!!」
しまった! 急に話しかけられたからポロっと本音が出てしまった!気持ち悪がられてないか!!
こんな美人から「うわっ、キモ…」なんて言われた日には、俺は自ら命を絶つ自信があるぞ……
「綺麗などと……ありがとうございます。
魔王様も……かっ…カッコいいですよ?」
「あっ…いや、こちらこそ急にすまない」
良かった……気持ち悪がられてはなかった…
それと、俺がカッコいい?
俺のルックスは平凡だったはずだが…
ふと右目の端にキラッと光るものが見えたので振り向くと、狙いを済ましたかのように鏡が置いてあった。
その中には サラッと靡いた黒髪が印象的で、真っ黒なマントといかにも魔王という服装をした、体格も引き締まった身長180センチほどのイケメンが座っていた。
えっ⁉︎これが俺⁉︎美化されすぎだろう…
どこにでもいるモブフェイスが一気に読者モデルフェイスに…
これが異世界転生って奴かな……
すげーな……
しかし俺の劇的変化に驚いている場合ではない。
今はまずこの状況を把握しないと。
もしかしたら人を勝手に拉致って、魔王として崇めたてる怪しい宗教かも知れないし……
とりあえず目の前の女に今の現状を聞いてみることにした。
「ところで、ここはどこで君は誰なんだ?」
「はっ! 申し訳ございません!!名前を名乗っていないなどと!!私は魔王様の側近であり、魔王城統括のパンドラと申します。ここは魔王城中心部 玉座の間でございます。」
彼女もといパンドラは笑顔でそう言った。
「魔王城、ねぇ…」
ここが魔王城だということはいいとして、どうして俺が魔王になってしまったのだろうか?
魔王というのは魔族の中から選ばれるんじゃないのか?ご都合主義というやつか?
未だに納得がいかないので聞いてみる。
「魔王というのは、魔族の中から選ばれるんじゃないのか?」
「はい。本来ならそうなる予定でした。しかし、今の魔族の中から魔王となり得る器を持つものがいませんでした。」
「魔王になるのも大変なんだな。その場合はどうなるんだ?」
「魔王国には独自のルールがあり、前魔王様の死後から100年もの間に新たな魔王様がご誕生にならなかった場合にのみ…」
少し溜めてから言葉を紡ぎ出した。
「この世界以外の世界から 新鮮な魂を呼び寄せ新たな魔王様として生き返らせることができるよう古来から伝わっているのです。」
俺は頭をトンカチで殴られたような衝撃を受けた。
……………はっ?
ちょっと待ってくれ!!今とてつもなく不穏な単語が聞こえたぞ!!
「ちょっと質問したいのだが……」
「はい、何でしょう?」
「さっき言ってた …… 新鮮な魂って………何?」
「死にたてホカホカの魂のことでございます」
とてもいい笑顔で軽やかに答えた。
………ええええええええええええええぇっ!!
やっぱり俺死んでたよ!!!!!
嘘だろ!!!卵が爆発して頭打って死んだとか、地球誕生以来 類を見ない間抜けな死に方だろ!!!
家族になんて説明されるんだ!おたくの息子さんは卵にびっくりして死にましたってか!!!
泣きたくても笑いが勝って泣けねーよ!!!
「あの………どうかなさいましたか?」
気づけば頭を抱えている俺の様子を伺うように下から覗いていた。
「ああ……すまない……少し現実逃避していただけだ……ちなみに聞くが、元の世界に戻るという選択肢はないよな?」
「申し訳ございませんが……魂を呼び寄せましたので……」
グハッ!
痛恨の一撃。俺は30000のダメージをくらった
結構心にくるな……死んだと認識したいが、死に方が死に方だからなぁ……
ん?待てよ?
しかしここで素晴らしい逆転の発想を思い浮かんだ。
確か此処は地球とは違う世界なんだよな?
なら、地球では食べることが出来ない食材や見たこともない食材の宝庫じゃないか!!!
今まで沈んでいた気持ちが一気に回復してきたぞ!
未練がないかと言われれば嘘になるが、それよりも味への好奇心が抑えられない!!
そうと決まってからの俺の行動は早かった。
「魔王、やります!!」
「やって頂けますか!!!よかった……断られたらどうしようかと……」
「ちなみに、断ってたらどうなってたんだ?」
「魂が完全消滅し、輪廻の渦にすら帰ることが出来ず、宇宙の塵となります」
またしても恐ろしいことをさらっと言いのけた。
よかった………魔王になる決心をして…
俺…永遠に死ぬとこだったよ……
まぁ……幸先はとてつもなく不安だが、せっかくの第2の人生だし未知なる食材が俺を待ってるんだ。
そしてここは異世界。もしかしたら異世界主人公特有のスキルとかもあるんじゃないか?
そう思ったらなんか年甲斐もなくワクワクしてきたぞ!?まだ20歳だけど。
こうして俺は強制的ではあったが、魔王として第2の人生を歩んでいくことを決心した。
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