2人の日常【1ー僕(2)】
洗濯物を取り出し、少なくはない2人分の衣服やタオルなどを抱えてリビングに向かうと先輩さんが偉そうに立っていた。
「先輩?どうしたんですか?」
言うと先輩は態度をさらに偉そうにしてふっふっふと笑って言った。
「後輩くん!今日は1人で出来たかね?」
「先輩。それは今更すぎませんか?これまでだって僕はちきんとやってきましたよ」
呆れたように返す。というか、洗濯物を早く運びたいのだが。
先輩はそんな僕の気持ちに気づいてか僕の進みたい方をより確実に塞いた。
「いやいや、後輩くん。君はまだまだだったよ。ようやく最近後輩くんの家事スキルが1上がったんだよ?目標はSSだよ。まだまだ慢心の時期じゃないよー?」
先輩はそう言って得意げな顔をした。何が言いたいのかさっぱり分からないが、それでもなんとなく先輩が痛いことを言っているのだということだけは理解出来た。
「先輩さん?僕はそれよりも先輩さんがもう少し気遣いできるスキルを身につけた方がいいと思いますよ」
言うと先輩はすこしムッとしたような顔をして次に若干頬を赤らめた。それと同時に顔を逸らしたと思ったらすぐにこちらに向き直り、すこし震えた声で言った。
「う、うるさいよ!わかってるよそれぐらい!あー、私の心が傷ついたー。そんなことを言う後輩くんも私に対して気遣ってくれてもいいんじゃないの?」
と言いながらしかし道を開けてくれた。まったく素直じゃない。素直に僕に言い負かされたことにしてくれたらすこし僕も気分がよかったのに。でも、そんな先輩が少し可愛かったりするから困る。
僕は洗濯干しの棒の真下にあるカゴに洗濯物をドサッと入れる。溢れんばかりに詰め込んだ洗濯物でカゴはすこし無理しているように見えた。
僕はそのカゴから洗濯物を1つ1つ取り出しハンガーに掛けながら言った。
「ところで先輩さん。ご飯は出来ましたか?」
となりで僕の仕事ぶりをどこかの監督ばりに腕を組んでいる先輩に向きながら話す。ちなみに僕はこの先輩の格好が苦手である。大きな胸が強調されるから。しかし、それを言うと先輩がまた調子に乗るので言わない。
そんな先輩は僕の質問に対し、口から気の抜けた空気のような声を出したかと思うと数秒かたまり、
「あー」
と声を出したかと思うと申し訳なさそうに告げた。
「ごめん。忘れてたー」
「…………先輩さん?」
「いや、違うんだよ。ちゃんと覚えてたよ?でもね?あれ、その、なに?テレビを見てたらなんか面白そうな番組が始まっちゃってさー?そりゃ見るしかないなって思ってたらすっかり」
「忘れてたんですね?」
僕が念押しすると先輩は大人しくなる。
「忘れてましたー」
ため息が出る。なんで僕よりも色々できるのにこういう所は出来ないのだろう。時々先輩が先輩に見えなくなる時があるのはこういう所に起因している気がする。
「じゃあ、先輩さん。冷蔵庫見てきてください。そして冷凍食品とかそういうのを僕が洗濯を干している間に作っておいてください。そしたらお昼にしましょう」
先輩は「わかった」と言うとすぐにキッチンの冷蔵庫に向かい、扉を開いた。
僕は目線を洗濯物に戻し、会話の間に干した洗濯物を整え、最後に残った先輩の下着を干す。
そう言えば先輩の下着を盗んでいた下着泥棒がいた話があったが、一体この下着のどこに興奮するのか皆目見当がつかない。正直言ってただの布だ。しかもすこし汚いぐらいだろう。パンツなんか排泄する箇所に接触するのだから。僕は潔癖の一面があるらしく、先輩に下着泥棒の話を聞かされた時素直に理解できないと言い、以上の理由を告げた。すると先輩は「たしかにそうだね」と笑ってみせた。しかし、その笑顔は少し歪んているように見えたのを覚えている。
「後輩くん!」
先輩の呼ぶ声で我に返る。
「どうしたんですか?何かありましたか?」
僕は先輩のいる冷蔵庫の方を向いて言った。
すると先輩は青い顔をして言った。
「何も無かった」
「え?」
「冷蔵庫の中、何も無かったのー!」
何故そんなことになっているのか、僕には分からないが、しかし僕が先輩のその言葉を聞き、先輩と同じく冷蔵庫の中を覗いたが、本当に何も無かった。
冷凍食品の空の袋しか。
「………………あ」
思い出した。今朝に全て使い切ったことを。
「先輩さん」
「なんでしょう」
「買い物に行きましょう」
「はい」
僕らの中で買い物に行くことは決定事項であった。生きるために食事は欠かせない物なのだから。
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