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花の檻




 つくづく、自分は生き物を育てるのに向いてないと思う。なのに何故、花だの虫だの魚だの、買い求めては育てているのか。

 自分の側に“生あるもの”をはべらせておきたいのか。

 物云わぬ生あるものを。


 南国の花の株は冬越しを失敗して枯れてしまったようだ。もう初夏だと云うのに芽吹く気配すらない。

 大丈夫だろうと油断して鉢に移して屋内に置くその手間を省いてしまった自分の愚かさと云うかものぐさな性分を心底悔やんだが後の祭りだ。熱帯産まれのあの花はこの国の冬の寒さに耐えられなかったのだ。

 今年はあの太陽の芯のような深紅の花が見られぬのかと寂しくなり、あんなに待ち焦がれていた夏が急に詰まらなく思えて来た。

 何の彩りも無い暑いだけの夏。それは凍てつく冬を凍えて過ごすよりも遥かに辛いものかもしれない。


「貴方はね、自分の側にあるものがいつまでも変わらないと思い込んでいるのよ」 

 誰の言葉だったろう。確かにその通りだ。そのくせ変わってしまうと言い様の無い不安に襲われる。

 花は死んでしまったのではなく、自分を見捨てたのだとさえ思えて来る。花ばかりではなく、今まで育てて来た虫や魚や鳥や獣も。 

 こんなどうしようもない自分に飽いて自ら身体を棄てる事で逃れる事を選んだのだと。


 それでも未練たらしく、代わりに何か植えようと、枯れた花の木の株を掘り起こす。

 去年張り巡らせたのであろう根は長く伸びてはいるものの、一切の水分を無くしていて直ぐに千切れそうだった。

 しかし、株は引き抜こうとしてもなかなか抜けない。

 こんなに根が脆くなっているのに変だと思い、取り敢えず株の回りをスコップで掘り下げ、再度抜いてみた。

 重いが、ずるずると抜ける手応えがあったが、残った根がいつまでも地中から出て来る。

 しかもそれは大量の土で覆われていて、まるで株を引き抜かれまいと大地が必死に掴んでいる様だった。

 先ずはこの土塊を取り去らねばと思い、株を掴んでいた手を離し、よく見てみると……

 

 ああ、そうか。

 あれは誰の言葉だったのか思い出した。

 そうだ、私は変貌する“それ”に不安を感じ、此処に埋め、隠すようにあの赤い花の木を植えたのだった。

 朽ちたそれはもう昔の面影を留めていない。木の根のような骨を晒している。

 それでも、少しだけ寂しさは薄らいだ。

 “彼女”はいつも此処に居るのだ。


 もう、逃げ出す事は出来ないのだ。

 








〈了〉





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