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無垢




 飼い猫が猫が雀の仔を捕って来た。

 彼は私に得意そうにその獲物を見せた後、楽しくて仕方ないと云った風になぶって遊んでいた。

 雀の仔は助けを求めて力の限り鳴く。その声を聞き付けた親鳥だろうか? 家の外で雀が尋常ではなくさえずる。


 食事は充分に与えている。猫の習性なのだと云えばそれまでだが、これをやられる度に気が滅入る。

 元来私は動物好きだ。だから猫と暮らしている訳で、しかし猫と云うものは肉食獣である。猫を育てる為に他の生き物の肉を与えなければならない。

 普段、猫に与えているキャットフードなどは勿論、店から買い求めて来たものだが、原料は魚だの牛だの“生き物”だ。

 しかし、それらのものは生前の面影をすっかり無くし、丸や花型の可愛らしい粒になっている。

 たまに、魚を刺し身や焼き魚で与える時もある。しかし、それだって元々“死んで”いるものをスーパーや魚屋から買ってくるのだ。

 もし、蓄肉や鮮魚が食べ物として流通していなかったら、私は猫を飼う事が出来ないだろう。

 生きている野生動物を捕まえ、殺す、等と云う事はとてもではないが私には出来ない。

 可哀想だからだ。誰か知らない人が予め殺して置いてくれた物なら平気だが、自ら生き物の命を経つと云う事がどうしても出来ない。

 つぶらで無垢で何の曇りもない目で見られると自分がとんでもない大罪を犯しているような気になって発狂しそうになるのだ。


「トラ、気は済んだか?」  

 猫はもうすっかり動かなくなった雀の仔に飽きたのか、窓辺で毛繕いなどしている。 

 残酷で、獰猛で、そのくせ飽きっぽいこの動物の、私は召し使いなのだ。御主人様のお遊びの後始末をしなければ。

 そう思って庭に雀の仔を埋める穴を掘っていると隣人が来た。

「鮭川さん、いいかげんにねえ、あの猫()()して貰えませんかね? ウチ、みんな猫アレルギーなんですよ。全く、猫なんか飼ってる人の気が知れない」


 私は隣人の目を見た。

 様々な欲で曇っている濁った隣人の目を。 

 私が唯一、殺しても良心の呵責に悩まなくてもいい生き物が目の前に居る。 

 穴を掘る為に使ったスコップを見ながら、未だ悪態を吐き続ける隣人の、恐怖と痛みにひしゃげる顔を想像して、楽しくて身震いした。





〈了〉



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