第19話 反乱軍と脱獄囚
♪モデュラート(現在)♪
もう少し反乱を起こすまで、じっくり時間をかけて計画するつもりだったが、うまくいかないものだ。
部下の一人がヘマしたせいで、王宮警察にたくらみがバレてしまった。そこで、急遽、ポエットになりすます術を見つけ、王位の正統性を主張することにした。さすがに、ただの圧政に反乱する革命軍というシナリオでは民はついてこないしな。
だが、作戦上、本物のポエットを殺しそこねたのは、失敗だった。やつが、真実を話したところで、反乱は終わる。俺の夢も塵と消える。
絶対に、ポエットを王国の連中に接触させてはならない。
王宮に全兵力を突撃させ、短期間で陥落させるつもりだった。だが、正統性を失った反乱軍は、短期間で鎮圧されるのが歴史の常だ。その後、君臨するのが旧政府の残党か完全な新政府かはわからない。いずれにせよ、そのときの我々は命がない。
そこで、王宮に向けるはずの兵力をポエットが、今後、立ち寄りそうな街の占領に向けることにした。いずれも、経済的には意味があっても、軍事的、地政学上は、意味のない土地ばかりで、王国兵の警備は手薄だ。たとえ、兵の主力を差し向けなくても、陥落させるのは容易い。
だが、そのせいで、少しあるべき兵力が減ったのも事実だ。戦力を補填しなければならない。
今日は、敵兵を蹴散らす切り込み隊長をスカウトすべく、酒場に遠征してきていた。おたずね者だから、探すのに苦労した。作戦の鍵だから、俺、自ら説得をする。
酒場のカウンターでぼんやりと座っている男がいる。
「マスター。こいつに一杯、とびきり上等のウィスキーを。45年産のやつだ」
その声に男は振り向く。よれよれのアロハシャツで来たとはいえど、警戒はしているようだ。
「あんたは?」
「モデュラートです。あなたが、噂のアレグロですね?」
名前を呼ばれたその男はギラリと鋭い視線をこちらに向ける。それはそうだ。何せ、この男はお尋ね者なのだから。
「おっと。貴方を捕まえに来たわけじゃない。落ち着いて」
それでも、男はシャウト呪文を唱えようと腹を力んでいたが、我が周囲を護衛している反乱兵の姿を見て脱力する。
「魔法警察ってわけじゃなさそうだな。かといって、うさぎ王国の正規兵でもないらしい」
あまりの緊張感に周囲の兵士はひげをひくひくさせている。
「あんたは昔の殺人事件の真相を探っている。違うか?」
「セレナーデを殺した犯人を知っているのか!?」
気だるそうな態度を改め、身を乗り出す。
「真相を知っているわけじゃないが……直接、セルパン氏を尋問、あるいは拷問できる権利を得られるとしたらどうかね?」
男のギロリと目が光る。瞬きをせずに瞳孔が縦に伸びていくのがサバンナの肉食獣みたいだ。
「なるほど⋯⋯。反乱軍か。うさぎ政府の転覆を狙っている⋯⋯。噂には聞いている」
「知っているのなら話は早い。握手を⋯⋯」
手を伸ばしたが、払い除けられる。そっぽを向き壁を見つめる。
「俺を貴様らと一緒にするな」
「目的は一緒だろ? 復讐だよ。今までお前を馬鹿にした連中に鉄槌を下すのだ」
「違うね。俺は無実の罪を着せられて刑務所にぶちこまれたことへの復讐の旅に出ている。それはあくまで私的な名誉を回復させるためのものだ。聞くところによると、貴様ら反乱軍は、ルサンチマンとコンプレックスの塊、楽器魔法使いが社会で認められなかったことに対して見返そうとしているにすぎない」
「同じだよ」
「違うな」
説得は難しいか。だが、ここで折れるわけにはいかない。こちらも信念でやっている。
「いいか。貴様が刑務所にぶち込まれたのは、楽器魔法使いに対する憎しみだ。従来の常識を変えようとする新世代、自分たちの立場を脅かす若手に対する既得権益の保身にすぎない。自分たちの目先の利益のために未来を切り捨ててきた年長者のエゴだ。貴様が刑務所にぶち込まれている間、俺達がどんな苦難の道を歩んできたか」
睨んでくるのでこちらも睨み返して続けることにする。
「楽器魔法の使い手は、長年、冷遇されてきた。官吏にもなかなかなれないし、各種ギルドにも所属するまでに高い壁があった。差別されてきた。だが、俺は、自分なりに新規事業を開拓し、行き場のないやつらの受け皿を作った。うさぎ族としての誇りを回復させてやった。おかげで、社会から少しずつ認められつつある」
「ならば、そいつらのために、晩節を汚すのはやめることだ。いいか。貴様に今までついてきたやつらは、何を考えていると思う? 真面目に働いて、社会に貢献して、社会の一員として自身の名誉を回復させたい。そう考えている。反乱軍として社会を転覆させて親兄弟を心配させるためではない。貴様のやっていることは、自分で育てて、自分についてきてくれたうさぎたちを捨て駒に使っているだけだ。俺は私的な復讐はしているが、他人の人生を巻き込む気はない。俺は俺流でやらさせてもらう」
ウイスキーをスライドしてこちらに投げ戻してくる。そして、金貨を置いて、酒場を出ていった。
「決裂交渉ですか?」と、部下がぼそっとつぶやく。
「そのうち、こちらの言うことを理解するさ。むしろ、あれくらい骨のあるやつでないと、逆にこの大仕事は任せられない。金欲や名誉欲だけの人間より、ああいうやつの方がよほど信用ができる」






