第20話 素敵なおしゃれタイム
♪アダージョ(現在)♪
「デパート?」
街を歩いていると、僕は素っ頓狂な声をあげるとポエットくんは優しく微笑んだ。
「これから、王都のメディアセンターに向かわないといけないからね。僕たち全員、正装をしないと」
確かに、僕は囚人服だし、グロウルくんは、泥にまみれた作業着だ。公式の場に行くには心もとないかも。
反乱軍のポエットは偽物だって、全国に魔法ニュースで伝えないといけない。そのときに、権威を感じさせない服装だったら、国民を失望させてしまうことだろう。
「でもよ」とグロウルくんは喋りだす。
「魔法ニュースの響波見てると、王都側と反乱軍側が妨害合戦しているよな。お互いがお互いの言ってることを陰謀論扱いしている。多くのうさぎ国民はどちらを信じていいか様子見だ」
「だから、僕がキーマンになる。公の場で偽物だと告発すれば、反乱軍は大義を失う」
「だったら、反乱軍側のメディアを占拠すれば早いんじゃないか? お前らは偽物だーって」
「僕たち3人にそれができると思う? 時代の大河の中で僕は非力な存在に過ぎない」
「それはそうだが⋯⋯」とグロウルくんは言い淀む。
「なに? 言いたいことははっきり良いなよ」とポエットくん。
僕はあわあわしながら、見守ることしかできない。
「俺は金さえもらえれば何でも良いんだが、一つだけ忠告しておく。王都に行ったところで、お前の味方ばかりだとは限らないんだぞ。マサヒデとやらは、ひとまず、信頼できるらしい。だが、声楽派は、もともと、お前の命を狙っていたことを忘れるな。甘言で首都に呼び寄せた人間の命を奪う。そんな政治家は、たとえば、異世界のカンボジアにも、かつていたはずだ」
「僕は、国の平和のためなら死んでも良い」
「ご立派なことだな。まあ、俺の仕事は王都への護衛までだ。ちょっと、危ないと思ったら、女と一緒に逃げるからな」と僕を指差す。
「ぼ、私は、ポエット王子と運命を共にする!」
ああああ。なんか恥ずかしいことを勢いで言ってしまった。ポエットくん照れてるしどうしよう⋯⋯。
「好きにしろ。まあ、いずれにせよ、俺には関係のないことだ。仕事だけさせてもらうさ」
そう言うと、グロウルくんは、亜空間から小型のチューバ、いや、ユーフォニアムを取り出す。
軽やかにバラードっぽいメロディを奏でると、屋根の上から誰かが落下した。暗殺用ファゴットを持っている。
「きゃあっ!」と街の人は叫ぶ。
「こんな下手な暗殺者も気づかないようじゃ魑魅魍魎が命を狙ってくる王都とやらで生き延びるのは難しいと思うがな」
ポエットくんは少し振るえている。なんとかしてあげなきゃ。
「だ、大丈夫だよ。ポエット王子には民衆がついているから! ⋯⋯でも、怖いよね。」
「怖いけど、この国の王子としてやらないといけないことはある」
背中がかっこいいな。お耳のもふもふ感はかわいいけど。
そんなこんなでデパートについた。
デパートの入口には、魔法ディスプレイが2台、目に入る。片方は、王都側のアナウンサー、もう片方は、反乱軍側のアナウンサーがまくし立てている。
よほど、僕が不思議そうな顔をしていたのか、ポエットくんは説明をはじめる。
「ここは中立国運営のデパートだよ。どっちにも与さない。ここで、暴力を働くと、宣戦布告になるから、王都側も反乱軍側も手を出せないんだ。こうなってしまった時代には、逆に、ここの方が国営デパートより安全」
なるほど。世の中、面白いバランスで成り立っているらしい。うさぎ王国も決して強国とは言えないから、後々のことを考えるとそこまで無茶なことはできない。
ポエットくんが、ひらひらの紙を僕に渡す。
「これは?」
「このデパートの商品券だよ。マサヒデのやつ、僕が税金の無駄遣いを気にするからって、プリペイドのお金を渡してきたんだ。ご丁寧に使用期限が3日後のものを。まあ、甘えて使い切るしかないんじゃないか。色々見に行こう」
そんなわけで婦人服コーナーに僕はやってきた。
「お客様かわいいです。ほんわかした癒やしオーラと気品があるから、とてもお似合いですよ」
店員さんに導かれるまま、春の薄手のセーターに花柄スカートを履かされてしまう。
「花柄スカート!ぼ、僕がこんな可愛いもの履いてるなんて!ふひひはひい」
恥ずかしすぎて顔を手で覆ってしまう。表情見られたくない。
「そんな大袈裟な!よそ行きの服ではあるけど、普段着に限りなく近いものですよ。まるで、ウエディングドレス着たようなリアクション」
店員さんの言う通りかもしれない。一般的な女性にとってこれくらいは、大した服装ではないのかもしれない。
でも、今まで男として生きてきた僕にとってはパーティドレスみたいな非日常感だ。こんな可愛いもの着ていいのかな。悪いことしている気分になる。
「こんなもの⋯⋯」
「お嫌ですか?」
「⋯⋯ください」
店員さんはにっこりする。
「お買い上げありがとうございます!」
し、仕方なく。仕方なく買ったんだから。街歩きをするときに囚人服だとカッコ悪いから。やむを得ず。
僕は男だ。可愛くなれるからなんかじゃないんだから。




