第12話 死神 右殺義登場
♪アダージョ(現在)♪
「ひどいよ。僕の心を弄んで。子どもの頃から好きだったのに。君とキスすることが長年の願い。ついに叶うと思っていたのに⋯…」
ポ、ポエットくん? 様子が変だ。こんな本能剥き出しになる子じゃないのに。じりじりと近寄ってくる。
「ど、どうしたの? 急に」
「急にじゃないよっ! 君にようやく会えて、どれだけ嬉しかったか。幸せだったかわかる?」
執着の原液をぶつけられる。ぼ、僕、女の子になったばかりで、男の子の欲望を受け止める覚悟ないよ。どうしよう……。目つきが血走ってる。マジだ。
「これから君を僕のものにする。唇、奪わさせてもらうね」
顔がドアップでやってくる。美しくも可愛らしいご尊顔が。お鼻をもごもごさせている。このままじゃ、ファーストキス奪われちゃうよ。
「そ、そんなのだめぇぇぇぇ!」
慌てて、女声魔法で、亜空間から、水菜を取り出す。
「うさちゃんは、僕の唇の代わりにこれでも食べてなさいっ!」
ポエットくんは水菜の方に目線を移すと食いついた。しゃくしゃくと美味しそうに食べている。
よ、良かった。気がそれている。でも、もうすぐ食べ終わる。また襲われるかも。そうだ。なでなでしてやりすごそう。
なでなでをしてあげると、目を細めて鼻をふごふごさせている。どうやらうさぎの習性らしい。頭かゆいのかな。もっとなでちゃえ。
しばらくなでなでを続けていて、疲れたので手を離すと、しばらく目を細めたまま。まだ、なでてほしい、なでまちをしているようだ。
しばらくするときょろきょろするので、たまらなくなった僕は、再びなでなでする。そして、しばらくするとポエットくんの全身が光りだした。
そして、そのまま、霧のように消えてしまった。
「ポ、ポエットくん?」
「そいつは生霊だ」
低い声がしたので、ばっと振り返ると、黒いスーツを着た長耳の生き物が現れた。幻獣うさぎ! うさぎ族以上に全身がもふもふ。
「死人じゃなくても強い残留思念を発した者は、生きた霊をその場に残す。くっくっく。よほど、昨晩、キスをお預けされたときに強い感情が残ったようだぜ。お前さんにゾッコンってわけだ」
ポエットくん⋯⋯。僕に対してそんな思いを。悪いことしちゃったな。それはそうと。
「あなたは?」
「死神・右殺義とでも呼んでもらおうか」
死神。概念としては聞いたことがある。死を前にした人間の魂を奪いにくるという。
異世界地球の信仰が、この世界にあまねく粒子である響素と交わって実体化することがあるというが、まさか死神まで。
ってことは、まさか? あわわわ。
「も、もしかして、僕の余命が」
「お前じゃない。ポエットだ」
な、なんだって! 頭に稲妻が走ったような気分になる。
「ど、どういうこと? ポエットくんはこれから死ぬの?」
「ああ、そうだ。ここに居ると思ったんだが、どうやら、ただの生霊だったみたいだな。本体を探しにいくとしよう」
「ちょっと待って! ああっ!」
壁を突き抜けるようにして、死神は姿を消した。霊体ってやつなのかな。いや、感心している場合じゃない!
ポエットくんを助けに行かないと! で、でも、どこへ行ったんだ。手がかりがないと助けようがない!なにか、なにかヒントがないと。
ツインベッドの上に、ピンクのリボンが放り出されている。ポエットくんが耳につけていたものだ。大事なものだろうに忘れちゃって。
これが、唯一残された手がかり。こんなもので居場所がわかるはずがない。
僕は宿を飛び出した! 死神がどこに行ったかわからない。だが、走り出さずにはいられなかった。
もし、このリボンだけでポエットくんを探し出せる者がいればっ!




