第10話 王子としての誇り
♪ポエット(現在)♪
兄さんが女性関係でもめていたというのは確かに耳にしたことがあった。具体的なお相手の個人名は知らないし、深入りしようと思ったこともない。ただ、他国の王族の血を引く女性を選ぶか出自が高貴ではない人間を選ぶかで宮内は大荒れだという話だというレベルでは知っていた。
いつの間にかその話題は立ち消え、円満解決したと思っていた。だが、当時の恋人が殺されたとしたら。しかも、兄さんの手で……。
いや、兄さんはそんなことをする人じゃない。それは、僕はわかっていた。兄さんを信じたい。だが、目の前の女は兄さんの恋人の死体遺棄を手伝ったと言っている。状況からみて、彼女に嘘を白状するメリットはない。
うう。緊張でお耳がぴくぴくする。落ち着くんだ。
とにかく、願望と真実は分けないといけない。きっと、兄さんに何かがあったんだ。うさぎ王国は、長年に渡る官僚機構の腐敗に苦しんでいた。
忠臣のふりをして弱みを握ろうとし、隙あらば乗っ取ろうという者どもに先王も苦しんでいた。仮に兄さんが関与していたとしても、単独犯ではないように見えた。
考えても仕方がないことのように思えた。真実はどうあれ、今の自分はうさぎ王国の部外者だ。詮索しても意味がない。国の秩序が乱れるだけだ。
アダージョさんの方に視線を投げかけると、うるんだ瞳でこちらを見つめている。か、かわいい。とにかく、彼女を保護しないといけない。
一歩歩こうとしたとき、草むらから気配がした。
「誰だっ!」
ギターでけん制として軽めの風を巻き起こす。傷つけるほどではないが、かく乱効果はあるはずだ。
「わわっ! おやめください! 爺やでございます」
「マサヒデか」
「いかにも」
白いあごひげをはやしたうさ耳の老人が、異世界沖縄楽器の三線を杖のように構えながら、長唄を歌いながら、ゆったりと浮遊して姿を見せた。
「爺やは、声楽派。兄さんの味方だと聞いているが」
「ええ。いかにも私はソネット様の味方です。ソネット様の命令で、あなた様にプレゼントを」
そういって、魔法マネーカードを差し出す。金額は400万モフーだ。これだけあれば、逃走資金どころか、10年は良い暮らしができる金額。
「兄上が!? どうして?」
「ソネット様は血を分けた兄弟は憎むわけがないでしょう」
「……断る。事情はどうあれ、僕は国から追われる反政府組織の首領だ。血税を使うわけにはいかない。民衆が汗水たらして稼いだお金でいい暮らしをどんな顔ですればいいんだ。帰ってもらおうか」
「し、しかし、このままでは爺やもソネット様も気がすみません」
「王族の気持ちや権力争いなど民衆には関係ないことだ。兄さんの気持ちはうれしい。だが、申し訳ないけど、受け取るわけにはいかない」
そんなに高価ではないが、仕立て屋が真剣に作った服の襟を立たすと、すごすごとマサヒデは引き下がった。
ごめんね。爺や。僕は大金なんて持っちゃいけないんだ。持ったりしたらろくでもないやつらの資金源になる。
「アダージョさん!」
「は、はいっ!」
何度も夢に出てきた正夢の竜族の女性を呼び寄せる。
「僕はわけあって、故郷を追われている身だ。所詮は、社会の鼻つまみモノにすぎない。僕と一緒に行動することで君に身に危険が増えるだろう。
すると、さみしそうな顔をする。ごめんね。本当は僕も君のことが・・・・・・。君と苦楽をともに旅してみたい。それが夢だった。
僕は一息つくと続けた。
「だが、この森から最寄りの街に行く間は、単独行動した方が襲われるリスクが増える。その間、護衛させてもらえないか?」
アダージョさんは、照れくさそうな顔をして考え込んだ後に言った。
「こちらこそよろしくお願いします」




