第三話・学園
求めても与えられないのならば
ただひたすら時が来るのを待った。
【第三話】
気づけば、僕は十九歳になっていた。
祖父が最期に遺した“2つの黒の謎”。
その謎に近づきたくても、未成年だった僕には強力な
※縛り術が施されており、自力では為す術が無かった。だけど、一度熱を帯びた好奇心は今も胸の奥で燻り続けている。
※行動が制限される術。古の時代から存在する高度で強力な忍術のこと。
誰に尋ねても教えてくれない。
知ろうとすれば必ず遮られる。
だったら、その時が来るのを待つと決めた。
煉獄では十九歳が成人とされる。
未成年で義務教育の過程に叩き込まれるのは、
生きるための最低限。
その先の深き技能や知識を得る為には忍術を学ぶ学園へと進む必要があった。しかし、望めば受け入れてもらえるわけでは無い。
“才”を見込まれた者だけが選抜されるのだ。
学園と呼ばれてはいるが、実態は軍そのもの。
教室は訓練場、教師は教官。
卒業と同時に煉獄の防衛網へ組み込まれる。
逃げ道など最初から無い。
選ばれた瞬間に自由は消える。
そんな過酷な場所を僕は自ら強く望んでいた。
理由は言うまでも無く”2つの黒の謎”
それに続く鍵がそこにある気がしてならなかったからだ。
まるで、何かが僕をその場所へと誘うかのように。
手招きしているかのように___
”早く近づきたい”
と願う日々は続く。
だが、焦りはあっても不安は無かった。
選ばれる事は分かりきっていたから
ふと、水溜まりに自分の姿が写り込む。
僕はわざとその水溜まりを踏んづけた。
溜め込んできた焦りは喉の奥で鋭い棘のように疼く。
だが表情には出さない。
この飢えた好奇心を誰かに悟られてはならないと、本能が告げていた。
***
___数日後
薄暗い部屋で忍術書を読み漁っていたとき、
僕の影が、ふっと淡い光を帯びた。
“召集印”
限られた者だけに届く学園からの招待状。
詳細は伏せられており謎が多い。
ただ……
戻らない者もいる。
その噂だけが、妙に真実味を帯びていた。
不安は確かにあった。
だが、それ以上に待ち望んでいた展開に胸を震わせる。
(ついに来た__)
光が消えた瞬間、部屋の音がすべて消えた。
空気がわずかに歪む。
背後に微かな気配を感じ、振り返ると
そこに、ひとりの女性教官が立っていた。
褐色の赤毛が揺れ、金色の瞳が静かにこちらを見ている。
温かさと、底の見えない冷たさ。
そのどちらもが混ざり合った不思議な雰囲気。
彼女と視線が交わった瞬間、胸がざわりと揺れた。
女性教官「君を呼びに来たの」
世界が凪いだかのような声にハッとする。
僕は興奮を彼女に感じ取られないように息を静かに漏らした。
僕「……どこへ行けばいいんですか?」
問いかけると、彼女は静かに背を向けた。
女性教官「ついて来なさい」
その一言で心臓が跳ねる。
”2つの黒の謎”へと続く、最初の扉を開く人が現れたと予期していた。
確信は無い。
ただ、点と点が繋がって一つの線を繋ごうとするような感覚が確かにそう告げていた。
もう戻れないかもしれない。
…でも、それでいい。
渇望と不安が喉元で絡み合う中、その背中を追って道なき道へと足を踏み出す。
僕の足音だけが闇に吸い込まれていった。




