035 主催者との邂逅 ①
気がつけば僕は、何もない真っ白な空間にいた。体はいたって普通であり、そこに【吸収融合】の影響は見られない。
そして僕の目の前には、一人の老人がいた。
白髪を七三に整えている老人であり、科学者のような白衣を着ている。それに加えて瞳はどこか、疲労が蓄積しているように感じた。
すると老人は僕を認識したのか、こちらを見ながらこのような言葉を口にする。
「……これには驚いた。まさか第四エリアの第一フェーズで最も貢献したのが、あのキメラフォックスだとは……」
「キメラフォックス?」
その言葉に、僕は思わず聞き返す。
「そうとも。キメラフォックスだ。君は私の生きていた時代では、そう呼ばれていた」
「え?」
意味深なその内容に、僕は戸惑いを隠せない。この場所もそうだけど、目の前の老人はいったい誰なのだろうか?
「ふむ。それよりもまずは、自己紹介をしよう。と言っても、諸事情で名乗ることはできないのだがね。それについては、後で語ることになるだろう。
とりあえずのところ、君たちにとってはデスゲームとなる、この一連のできごとの主催者の一人だと思ってくれて構わない」
「なっ!?」
やっぱりこれは、デスゲームだったのか。それに薄々思っていたけど、この老人はデスゲームの主催者だったらしい。
加えてその一人ということは、他にも主催者がいる可能性が高かった。
故に僕は目の前の老人から距離を取ろうとするけど、どうにも体が上手く動かない。
これはいったい、どういうことだ?
「そう焦らないでくれ。ここで危害を加えることは無い。私がこうして現れたのは、許された範囲で情報を開示するためだ。時間は限られている。ここでは、私の言葉を聞くことを推奨する」
僕の中で様々な思考が巡っていくけど、老人の言う通り、ここは話を聞くのが得策だと考えた。
このデスゲームについて、僕はあまりにも知らなすぎる。
「ふむ。よろしい。では話をしよう。まず前提として、いわゆる私は未来人だ。今からおよそ五十年後の未来から、こうして干渉している」
「五十年後の未来……」
もしそれが事実だとすれば、目的は歴史の改変だろうか? そもそもタイムパラドックス的な事象が起きそうだけど、その点は克服したのかもしれない。
ちなみにタイムパラドックスとは、過去を改変したことで生じる、矛盾のことである。何かの漫画で読んだ内容に、そう書かれていた気がした。
するとそれについては予想済みなのか、老人が続きを口にする。
「何を気にしているのか予想はできるが、その心配はない。矛盾が生じた上で、改変を可能としているのだ。また並行世界ということもない。私にとってこの世界は、正しく同じ世界の過去なのだ」
「!?」
老人の言葉には、全く嘘が感じられない。自信をもって、それが発せられていた。
「そしてそれについては、我々の異能をもって、実現している。だがそれは、簡単な事ではなかった。様々な条件や、代償を求められている。しかしそうだとしても、実行する必要があったのだ」
「……それはいったい」
五十年後から干渉できたのは、異能の力があったからのようだ。そして矛盾が生じた上で改変できたのは、様々な条件や代償があったからこそらしい。
だけどそこまでして、実行したかった理由とはなんだろうか? 巻き込まれた僕たちからしたら、たまったものではない。
すると老人はそこで、驚くべき事実を口にした。
「五十年後の未来では、クリーチャーによって人類は滅びの危機にある。僅かな人類のほとんどは、クリーチャーの食料や娯楽として、ただ生かされているだけだ」
「え? 滅びの危機?」
確かにあんなクリーチャーたちが現れれば、人類にとって脅威になるかもしれない。
けど同時に異能が使えるようになっているのであれば、そこまで追い詰められずに、抵抗できなかったのだろうか?
いや、実際そうなっているのであれば、何か理由があるのだろう。
僕がそう思うと、老人が続きを話す。
「有象無象のクリーチャーは問題ではない。我々が滅びの危機にあるのは、知恵のある等級Sのクリーチャーが、無数に出現したからに他ならない。
やつらは現状、同じ等級Sの異能者でも、討伐は困難を極める。その結果として、我々は敗北したのだ」
知恵のある、等級Sのクリーチャー? そもそも、等級なんてあったのか。それはどうやら、異能にもあるらしい。
だとしたらそれは、僕が倒したボスクリーチャーなんて、足元にも及ばないほどに強大な力を持っているのだろう。
するとそんなことを思っていた時だった。老人が、僕に驚くべきことを言い放った。
「そしてその中の一体が、裏梨希望。君だ。そう、君こそが等級Sのクリーチャーの一体。キメラフォックスなのだ」
「!? ぼ、僕が等級Sのクリーチャー!?」
衝撃の事実だった。キメラフォックスとは何かと思っていたら、クリーチャーとしての名称だったらしい。
「そうとも。君は人間でありながら、クリーチャーになり果てた人類全体の裏切者だ!」
「――ッ」
裏切者。それは僕にとって、最も心に突き刺さる言葉だった。昔から裏切りそうと言われ続けてきたことで、コンプレックスの一つになっている。
「初期の頃は人類の味方だった。だがある日君は心までクリーチャーに変貌し、我々に牙を剥いたのだ。
しかし幸いなことに多くの者が君の異能とその狐顔から、いつか裏切るかもしれないと思っていたことで、最悪は免れた」
「ぐぅ!?」
まさかのここにきて、狐顔が取り上げられるとは……。
それとキメラフォックスって、異能【吸収融合】でクリーチャーと融合することと、この狐顔がきっかけだったのだろう。
「だが裏切った理由を私を含めて真剣に考えた者たちの見解では、君が知恵のある等級Sのクリーチャーと融合したことにあると判断した。
君の異能は強力だが、多くのデメリットがある。そのうちの一つが出てしまったのだろう」
未来の僕は、等級Sのクリーチャーとも融合を果たしたらしい。けど薄々わかっていたけど、【吸収融合】にはデメリットがあるみたいだ。
それによって未来の僕は、精神がおかしくなってしまったらしい。
「幸いなことに君の意思は僅かに残っており、我々を殺しきる前に、どこかへと消えてしまった。そうして、二度と現れることはなかったのだ。
数少ない等級Sの討伐に加えて、その力を得ていた君は、当時一部の者の間ではこれまで無いほどの、希望だった」
「……けど、そこまでしても、裏切ると皆思っていたんでしょ?」
僕は思わず、そう訊き返してしまった。
「……想像できないかもしれないが、未来の君は見るもおぞましい怪物だったのだ。様々なクリーチャーを継ぎ合わせた、巨大な異形。唯一残っていたのは、その狐顔くらいだった。
人々は頭では分かっていようとも、本能で君を恐れていたのだ。だからこそ、君を滅ぼしたり追い出す理由を求めている者が多かった。その一つが、君の裏切りそうな狐顔と名前だったのだよ」
「……」
そんなのって、あんまりじゃないか。僕の行きつく先は、化け物になり、人々に裏切り者とされる絶望だけ。
強くなるためには、クリーチャーに【吸収融合】をする必要がある。けどその結果、心も体も変貌していくのだとしたら、僕はいったいどうすればいい?
あまりの事実に、僕は深く絶望した。
けどそんなとき、一筋の希望が現れる。それは、老人の口から発せられた。
「だがそれは、未来の君だ。現状の君なら、まだ間に合う。最初君がここにやってきたのには驚いたが、今思えば僥倖だ。適切な異能の使い方を知っていれば、その未来を回避できる可能性がある」
「!?」
老人の言葉に、僕は顔を上げる。デスゲームのことについてまだ知らないことが多いけど、僕はその回避する方法が気になって仕方がない。
そうして僕はこれまで何もしらなかった異能について、知ることになるのだった。




