032 光の矢
天橋は池を急いで渡ろうとしていたからか、ちょうど僕たち三名の間にいる。また僕のことにも、気がついたみたいだ。
「あ、あんたはあの時の化け物! 私の仲間をよくも! 絶対に許さないわ!」
すると思っていた通り、天橋が光の矢を生成する。
「そんなショボい矢で、僕を殺せると思うなよ!」
挑発するようにそう言うと、僕は走り出して池に入っていく。また同時に、さりげなく右腕で核を守った。
「くっ、舐めるんじゃないわよ! 以前の私とは、思わないことね!」
「なっ!?」
天橋が叫ぶのと同時に、光の矢が新たに二本、合計三本に増える。
不味いっ! 僕はともかく、指山さんと軽井沢さんに撃たれたら殺されてしまう!
しかしそう思った瞬間、三本の光の矢が僕へと全て放たれた。それぞれ頭部、右腕、腹部に命中する。
「やったわ!」
「ぐあっ!?」
そうして僕は、池の中へと仰向けに倒れてしまった。
「裏梨君!!」
「なっ! くそっ! 裏梨君の仇を取るッス!」
僕が池の中に倒れると、そんな指山さんと軽井沢さんの声が聞こえてくる。
「動かないで! もし動いたら、あの化け物みたいに光の矢で射るわよ!」
対して天橋が、威嚇するようにそう言い放っていた。
最初に出会ったときは、確か二射目を用意できなかったはずだ。ゲームでよくある、リキャストタイム的なものがあったはずである。
だとしたら今回一度に三本放てるようになったとしても、それが適用されている可能性は高い。
しかしそのことを、二人は当然知るはずもないだろう。天橋の言葉を真に受けて、動けなくなっているようだった。
そうした出来事を、僕は池の中からでも溺れることなく、確認ができている。また音についても、クリアに聞こえていた。
おそらくこれは、擬態クリーチャーの能力が関係しているのだろう。
それよりも、どうにかして早く動かなければいけない。けど射貫かれたところを修復している現状では、どうにも動けそうにはなかった。
思考は問題なくできているし、血も流れていない。それに苦しいと思ったのは勘違いで、息をしなくても問題なかった。
しかし擬態クリーチャーの能力を、100%使える訳でもないのかもしれない。少なくとも、修復関連はそんな感じだろう。
いくら意識を向けても、修復が早まることは無い。この状況では、それはかなり致命的だった。
「あなたたちは、そこでおとなしくしていなさい!」
「くっ」
「ちくしょう……」
天橋は二人にそう言い放つと、急いで自動販売機のある陸地を目指し始める。
また倒れた僕を警戒しているのか、ゆるやかな半円状に進んで、僕を回避していった。
これは僕にとっても、幸いなことである。近くで確認されたら、修復しつつあることを天橋に気づかれていたかもしれない。
そうして天橋は陸地に上がり、僕が倒した金城と科賀に駆け寄った音が聞こえてくる。既に視界からでは、天橋の状況は確認できない。
「二人とも大丈夫! 今助けるから!」
すると天橋がそう言って、なにかをし始めた。その状況に、指山さんと軽井沢さんが反応を示す。
「なんだあれは!?」
「ひ、光っているッス!」
光っている? いったい、何をしているんだ?
「うっ、助かった。クソっ、まさかあたいが負けるなんて!」
「た、助かりました。ごめんなさい、何もできなかったわ」
そして聞こえてきたのは、倒したはずの金城と科賀の声だった。
「確かあの二人は、裏梨君が倒したのではなかったのか?」
「くっ、たぶん回復されたッス! あの女、光の矢だけじゃなくて、回復魔法までも使えるみたいッス! チートッスよ!」
回復魔法!?
それは、漫画やゲームなどではよく出てくるものだ。光という単語と、倒したはずの二人が瞬時に意識を戻した理由は、そこにあったらしい。
初めて会ったときは、回復魔法なんて使わなかったはず。いや、使う機会がなかっただけなのかもしれない。
それと僕は天橋の異能は【光の矢】だと思っていたけど、実際には違ったみたいだ。それはもっと、強力な異能だったようである。
結果的に敵を回復されたことで、状況は振り出しに戻ってしまう。
でも二人を縛る異能の効果が消えたのは、大きい。それに相手は、僕を倒したと油断しているはずだ。そこが、次のチャンスに繋がる。
「天橋さん、次はどうしますか?」
「そうね。あの化け物は私が倒したから、金城にもう一度あの二人を支配してもらうわ」
「わかった。あたいにまかせな! 速攻でぶっ倒してやるよ!」
すると天橋たちは、もう一度指山さんと軽井沢さんを支配下に置くことを決めたようだった。
「軽井沢君、逃げるぞ! まずはこっちに来るんだ!」
「え? で、でも裏梨君が!」
「裏梨君はもうダメだ。彼の犠牲を無駄にしたらいけない!」
「くっ、わ、わかったッス!」
どうやら二人は、逃げることを選択したようだ。それでいい。僕のことは気にしないでくれ。
幸い軽井沢さんは、天橋を倒すために池に入っていた。指山さんも軽井沢さんの方へ向かったことで、二人は合流する。
また天橋もその時点では、仲間二人に意識を向けていた。しかし途中で、その異変に気がついてしまう。
「あっ! 逃げるんじゃないわよ!」
「ここは私にお任せください。忍法水手裏剣!」
「ひぃっ!? 何か飛んできたッス!」
続いて天橋が声を上げると、科賀が忍法などと口にして、なにかを飛ばしたようだ。
僕の真上を、青い手裏剣のようなものが無数に飛んでいく。
手裏剣? やはり科賀の異能は、忍者と関係があるのかもしれない。先ほども火を吹いていたし、間違いないだろう。しかし今はそれよりも、二人が危ない。
僕の体の修復は、まだ終わってはいなかった。けどその直後、なにかが弾けるような音が聞こえてくる。
「おちつけ、動きはそこまで早くはない! それに鉄の棒でも、こうして叩けば撃ち落とせるぞ! 軽井沢君は元野球少年だったのだろう? 【物体強化】してあれば、君もできるはずだ! 俺も同様に【物体強化】している。足一本でも、歩くのはどうとでもなる!」
どうやら指山さんが、水手裏剣を撃ち落としたようだった。加えて二本持っていた鉄の棒の一本を、軽井沢さんに渡したようである。
「わ、わかったッス! 一応これでも、打率は悪くなかったはずッス! あんな水手裏剣、俺が打ち返してやるッスよ!」
若干声は震えているような気がしたけど、軽井沢さんもやる気のようだ。
もちろん二人はそう言いつつも、逃走を計っている。少しずつ、三人から距離を離していた。
「だ、ダメじゃない!」
「くっ、申し訳ありません……」
「追いつけば問題ねえ! あたいはもう行くぞ! タイマンを発動するには、もっと近づく必要があるからな!」
そう言って金城が池に飛び込むようにして入り、二人を追い始める。水面が揺れ、飛び込む音が聞こえてきた。
不味い。金城に追いつかれたら、流石に二人がやられてしまう。
「ヤバイッス! あのヤンキーが追いかけてきてるッス!」
「軽井沢君、急いで逃げるぞ!」
「逃がしません! 忍法水手裏剣!」
二人も金城から逃げようとするけど、それを阻止するために科賀が水手裏剣を放ち続ける。
「くっ、これでは逃げきれないな。仕方がない。軽井沢君、ここは俺に任せて先に行くんだ!」
「なっ!? 指山さん、何でその名言を知っているっすか!? それ死ぬ人の言葉ッスよ!!」
偶然なのか、指山さんはそんな名言を放つ。
「名言? そんなものは知らない。それよりも早く逃げるんだ。時間は稼ぐ。別に、アレを倒してしまっても構わないのだろう? 今度は勝ってみせる!」
「!!? やっぱり名言知ってるッスよね! それも死ぬ人の言葉っすよ! 絶対やられて戻ってこないッス!」
すると二回連続で、指山さんがそんな名言を口にした。果たして偶然なのだろうか。
「名言? そんなものは知らないと言っているだろう。いいから行きなさい!」
「くっ、やっぱり見捨てられないッス! それに、できることは他にもあるッス!」
そう言って軽井沢さんは指山さんを見捨てずに、池の中から手ごろな石を拾って投擲を始める。
【物体強化】によって体が強化されているからか、猛スピードでそれは金城に飛んでいく。
「ぐえっ!? クソが! なんて物を投げやがる! ぶっ殺してやる!」
「ひぃっ! で、でも効いているッすよ! 俺があのヤンキーを食い止めるから、指山さんは水手裏剣を撃ち落としてほしいッス、あとこの鉄の棒は返すッスね」
「お、おお、わかった」
虫のクリーチャーには致命傷になった投擲も、異能によって体が強化されている金城には、そこまでの効果は無い。
しかし十分に足を止める理由にはなっているようで、動きは鈍くなっている。
最初は不味いと思っていたけど、僕が考えていた以上に、二人は健闘していた。
「な、なんなのよ! 雑魚の分際で! 諦めなさいよ! それ以上抵抗するなら、支配しても奴隷に落すからね! それでもいいのかしら!」
天橋はそう叫ぶけど、当然二人はそれに応じることはない。むしろ天橋が何もしないことに、二人は気がついたようだ。
「あの女、光の矢を放ってこないぞ?」
「もしかしたら、すぐには放てないのかもしれないッスね! さっきのはハッタリだったんスよ! でも時間をかけたら、また放ってくるかもしれないッス!」
「なるほど。それじゃあ急ぐか」
「ッス!」
そして慣れてきたからか、二人はそう言ってペースを上げていく。
「クソが! 痛ぇし、このままだと逃げられるぞ!」
「ダメです、水手裏剣を全て撃ち落とされてしまいます」
「ぐぬぬ。で、でもあの化け物を倒せたんだから、実質私たちの勝利よ! あの二人は、また見つけ次第自分たちの愚かさを思い知らせてやればいいわ!」
するとここに来て天橋は、負け惜しみのようにそう強がってみせる。
しかしその勝利と言い張る僕についてだけど、当然倒されてはいない。それにもう少しで、体の修復も完了しそうだった。




