表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~  作者: 乃神レンガ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

028 夜の見張り


 その後天井の穴から差し込む光りが暗くなり、夜になっていく。


 僕たちは交代で見張りをしながら、眠りにつくことになった。スマートウォッチで時刻を確認しながら、三時間交代ということになったのである。


 また見張りの順番は軽井沢さん、指山さん、僕という感じだ。


 どう考えても真ん中が一番キツイので、当初は僕が受け持とうとした。けれども指山さんが、それを譲らなかった感じである。


 理由としてまず軽井沢さんの【複製】は僕らの命綱なので、大変な真ん中にしないというのは理解できた。


 続いて僕を真ん中にしないのは、この中で一番の戦力なので、休んで欲しかったとのこと。


 指山さんは片足がなく、異能の【物体強化】もただ発動すればいいだけなので、僕や軽井沢さんより貢献度が低いと思ったらしい。


 そんなことは決してないのだけど、こういう時に頑固な指山さんは、見張りの順番を譲らなかったのである。


 ただ一番高齢で片足の指山さんに無理をさせ続けるのも酷なので、明日以降は順番で変えていくことを話そうと思う。


 今話さないのは、暖簾(のれん)に腕押しのような気がしたからだった。実際に、そうなるだろう。


 そういう訳で複製されたタオルケットを体にかけて、先に眠りにつく。


 ただ横になったところ、どうにも僕は寝付けなかった。そもそも、あまり眠いとも感じなかったのである。


 今日一日で色々あり過ぎて、もしかして眠れないのだろうか?


 思えば一日で何度も死にかけたり、人やクリーチャーを殺したりと、散々だった。精神的に参って、眠れなくなっても仕方がない。


 しかしそう思ったのだけど、なんだか違う気がした。いや、実は薄々わかっている。


 どう考えてもこれは、【吸収融合】が関係しているよな?


 特に擬態クリーチャーを吸収したことによる影響が、とても大きいような気がしていた。


 実のところ、僕はあまり疲れてはいない。正確には、夕食までは疲れていたという感じだろうか。


 僕も動けば、その分だけ疲れることには変わりない。だけどその疲れは、体を休めたりこうして寝ることでは、あまり解消されないみたいだ。


 代わりに何かを食べることによって、一気に疲れが消える感じだった。


 それと実は夕食の分だけでは足りずに、苦肉の策で虫のクリーチャーの死骸をこっそり体に取り込んで、消化していたのである。


 理由はあまりにも、空腹感が強かったためだ。けど貴重な食料を勝手に食べるわけにもいかない。


 軽井沢さんの【複製】で増やせる数にも限界があるし、たとえ僕が用意した物であっても、それは変わらなかった。


 なのでいくらでも用意可能で、減ってもあまり気にならない虫のクリーチャーを選択するのは、ある意味必然だったのである。


 当然虫のクリーチャーの死骸を取り込んで消化することには、多少の抵抗感があった。けれどもそんなことは、もはや言っていられない状況になったのである。


 それは空腹感があまりにも強まったことで、二人を見てつい美味しそうだと思ってしまったことだった。


 これには思わず僕も、精神的にクルものがあったのである。以前右腕が暴走したときのように、二人に襲い掛かってしまう可能性があった。


 なのでとにかく空腹を満たせればそれでいいと、虫のクリーチャーの死骸を取り込んで消化したのである。


 その結果として途端に空腹感が薄れて、疲れも吹き飛んだのだ。


 また虫のクリーチャーの死骸はかなり余っていたので、多少消化しても問題はなかった。


 そんなことがあったので、僕にとって食事はとても重要なことなのだと、そのときに思い知ったのである。


 けどまさか、こうして眠ることすら難しくなるとは思わなかった。


 意識を半分ぼんやりとさせるまではできるけど、もう半分は完全に起きているような、そんな奇妙な状態である。


 (ゆえ)に時間だけはあるので、つい色々と考えてしまう。果たして自分はまだ、人間なのだろうかと。実は既にほとんどが擬態クリーチャーで、人間としての部分は外側だけではないのかと。


 そんな不安になることを、僕は思わず考えてしまった。


 これがよくないことだとは理解しつつも、こういう想像はかってに湧き出てくる。


 なので僕は逆に楽しいことを考えたりしながら、気を紛らわせるしかなかった。


 そうして気がつけば眠れぬ夜が過ぎ、僕の番が回ってくる。


「起きてくれ。そろそろ時間だ」

「わかりました。ありがとうございます。今交代しますね」

「おう。頼んだ。俺が見張っている間は何も起きなかったが、気をつけてくれ」


 そんな会話を指山さんと交わして、僕は拠点のドアから出た。


 ふぅ。やっと交代できたな。まさか睡眠関係で、ここまで悩むことになるとは……。


 体は全く疲れていないけど、精神的にはとても疲労感がのしかかってくる。


 これは余計に、体よりも精神状態に気をかけた方がいいよな……。


 そう思いながら、僕は周囲を見渡す。当然だけど、この拠点のある陸地はとても暗い。むしろ拠点の中には自動販売機があるので、その明かりで逆にまぶしいくらいだった。


 なので自動販売機には複製した薄い板を繋ぎ合わせて、何とか蓋をしている感じである。


 しかしそれでも光が()れるので、拠点内は意外と明るい。加えて拠点の隙間からも、わずかに光が漏れている。


 これほどまでに暗ければ、そんな明かりも強く感じた。周囲からはたぶん目立つので、明日以降は何か対策を考えることになるだろう。


 そうして軽井沢さんが直した元壊れかけの椅子に腰かけると、僕は見張りを始める。


 そんなときふと、空を見上げた。天井の大穴からは、星々の光がほのかに差し込んでいる。


 僕はそれに昔キャンプで見た、幻想的な夜空を思い出す。都会では味わえない、そんな優しい光だった。


 すると次第に目が慣れてきたのか、意外と周囲の光景もうっすらと見えてくる。


 目に関しては、別に以前と性能は変わらない。これは擬態クリーチャーに、目が無かったからだろう。


 なのでこれまで通り、変わらずどこか笑みを浮かべていると勘違いされそうな、そんな糸目だった。


 ちなみに髪の毛に関してはやはり、灰色になっているらしい。軽井沢さんからはその色を、絶賛された感じだ。


 しかし逆に指山さんからは、少々不評だった。染めるにしても灰色というのは、とても派手に見えるようである。


 僕自身も派手だと思っていたので、いつかは黒に戻したいところだ。とりあえずは元々染めていたことにして、その場は乗り切った。


 また髪の色が変わっているのであれば、瞳の色も変わっていないかと心配になってくる。


 けど僕は糸目なので瞳の色については、二人からは何も指摘されることはなかった。


 けど僕だって驚いたり、目に力を入れれば少しは目を開くことができる。


 なのでもしかしたらいずれ、僕の瞳の色を見られる可能性があった。そのときに灰色だったら、とても言い訳しづらい。


 カラーコンタクトと言えるかもしれないけど、まさか同じ物をずっとつけていたのかと思われてしまう。それは流石に、無理があるだろう。


 そうした理由があり昼間に頑張って目を見開き、水面に映る瞳の色を確認してみた。


 若干分かりづらかったけど、結果として以前の黒色ではなく、灰色っぽいことが確認できたのである。嫌な予感が、的中してしまった瞬間だった。


 そういう訳で瞳の色に関しても、今後の個人的な問題の一つになったのである。


 僕はそんなことを思い出しながら、見張りを続けた。


 またこの場所は星の光があっても、やはり薄暗い。けどここから離れた通路付近に関しては、意外にも明るかった。


 理由は通路にある蛍光灯が、なぜか点灯しているからである。


 これは最初の部屋からそうであり、このデスゲームでの不自然な点の一つだった。


 こんな廃墟にいったいどこから電力が供給されているのかと、それが不思議で仕方がない。


 けどそのおかげで通路から何かが現れれば、確認することができるのである。


 ちなみに大穴の関係で、拠点の周囲には蛍光灯が無い。大穴近くの天井にも、なぜか無かった。


 なので光源は自動販売機と、星々の光だけなのである。一応焚火(たきび)をする案もあったけど、今回は見送っていた。


 理由は当然、とても目立つからである。どうしても必要だったら、明日以降検討することになるだろう。


 正直僕としては、無くても全然問題ない。おそらくそれは、二人もそうだろう。


 現状虫のクリーチャーが池を渡ってくることは無いし、もしも渡ってきたら焚火をしていても、二人だと不意を突かれると思われる。


 意外と虫のクリーチャーは、獲物の不意を突くことを本能的に理解している気がした。加えて、タイミングも計れる節がある。


 毒島(ぶすじま)の時や、太山さんの時、また(はじめ)という男がいた部屋への突入など、思い出せば切りがない。


 簡単に倒せるからといって、油断したら痛い目を見ることになるだろう。僕は改めて、そのように理解する。


 そうして見張りを続けていたけれど、何事もなく三時間経過した。うっすらと、外が明るくなってきたようである。


「もう、朝か」


 さて、二日目も、生き残れるように頑張ろう。


 夜が明けたことで、デスゲームの二日目がいよいよ始まる。それに対して僕は、心の中でそのように気合を入れるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ