021 新たな探索と気づき
帰りも問題なく池を渡り切り、途中誰もやって来ることはなかった。
そこそこ長い時間この辺りにいたけど、誰も現れなかったのは、運が良かったのかもしれない。
まあ他の人も何らかの理由で死亡していたり、部屋に閉じこもっている可能性もあるだろう。
あとは単純に、この謎の廃墟がとても広いのかもしれない。ゲームに出てくるダンジョンなどを、彷彿とさせるほどに。
その結果として、人との遭遇は実際のところは低かったりするのだろうか? 何だか僕は、頻繁に遭遇している気がするけど。
とりあえずまだ何とも言えないので、今後の遭遇率と照らし合わせて、考えることにしよう。
そうして靴などを履いて裾を戻すと、僕は次の方針について考え始める。
やっぱりこのデスゲームからの脱出は大前提として、そろそろ味方を探した方が良いかもしれないな。
幸い擬態クリーチャーの能力で、右腕もだいぶマシになった。あまり変わらなかった右手もそういう異能だと言えば、何とかなるかもしれない。
まともな精神の人にこの自動販売機の事を教えれば、友好的な関係を築ける可能性もあるだろう。
それにデスゲームが長引けば長引くほど、チームのメリットが上昇する。頭数が多いというのは、時間があるほど有利に働くはずだ。
人数が多ければ、それだけ役割分担が可能になる。それに付随して、生存率も上昇するだろう。
本来人間は集団行動をする生き物なので、それも当然だった。
また途中からチームに参加したり、味方を集めるのは難しくなっていくことだろう。
既にできたチームに入るのがどれだけ大変なのかは、学生なら大半が知っていることである。
それにその時点で単独ということは、何かしらの問題を抱えている可能性があった。
味方に引き入れるとしても、それはリスクが高いかもしれない。だからこそ、後からチームに入るのが困難な事にも繋がるのだ。
なので単独の方が正直楽だけど、行動するなら早い方が良いと判断した。
しかしそこで問題になるのは、あの二人の事があったせいで、少々僕が人間不信になっているかもしれないということだ。
けど単独が長い目で見ると不利であり、また危険ということは理解しているので、可能な限り味方を探したい。
加えてすぐに行動を共にするとは、限らないはずだ。敵対せずにある程度の協力関係を築けるだけでも、まずは構わない。
気をつけるべきことは、クリーチャーだと完全に判断されて、人間の敵だと思われないことだろう。
そう考えると、ますますあの光の矢を放ってきた少女の件が足を引っ張る。これだけは、どうしようもない。
どうにかして誤解を解きたいけど、難しいよなぁ。
新しい能力と道具の購入ができたことは、大きなプラスになった。けどこれについては、かなりのマイナスだ。最悪の場合、既に噂が出回っているかもしれない。
本当は嫌だけど、もしもの時は顔を変える必要があるだろう。
あとは未然の事故を防ぐためにも、ここで虫のクリーチャーたちは置いていく。実際あの二人と遭遇したとき、あんな事故が起きている。
なので僕は体に纏わりつかせている虫のクリーチャーたちを、一匹一匹取り外していった。
何かあれば、現地調達をすれば問題はないだろう。少し心細いけど、仕方がない。
人間の味方を作るには、これは必要な事だった。人を見つけてから取り外そうとしても、遅い場合がある。
獲物を見つければ、構わず虫のクリーチャーたちは、襲い掛かることだろう。
そうなれば、あのときの二の舞いである。一気に関係は悪化すると思われた。
故にここから先は、お別れだ。虫のクリーチャーたちよ。お元気で。
「さて、行くか」
気持ちを切り替えるために、そんなことを一人呟く。そして僕は、新たな通路へと足を進めるのだった。
◆
そうしてあの池のある場所を出た僕は、現在のところ、廃墟の通路を変わらずに突き進んでいる。
遭遇するのは、相変わらず虫のクリーチャーたちだけだ。
またパネルのついた開錠費用がかかるドアも、いくつか見つけている。しかし自動販売機で金銭を多く使ったこともあって、そのドアはスルーしていた。
一応パネルの無いドアや、そもそもドアが存在しない部屋もあったので、そちらには入っている。
だけど開錠費用がかからない部屋は、やはり何も有用な物は見つからなかった。あるのは様々な残骸のゴミばかりである。
そういう感じで僕は、自動販売機の周辺エリアを散策していた。
何も見つからないし、誰もいないな。見つけたドアのパネルも、人が入っている色に変わっている様子はない。
ドアのパネルは、人が入っていると緑色に変わる。それはあの二人との出会いのときに、判明していたことだった。
元々この辺りには、人が少なかったのだろうか? あとは、この周辺に辿り着けない理由があるのかもしれない。
思えばここら辺では、虫のクリーチャーたちを多く見かける。それは僕が最初にいた部屋周辺よりも、断然多い。
だとすれば、虫のクリーチャーたちを避けるルートを自然と選んでしまい、結果的にこの辺りから遠ざかっている可能性がある。
擬態クリーチャーに取り込まれていた吉田さんについては、偶然あの池の近くの部屋で、目覚めただけかもしれない。
そうした理由があったからこそ、あの池周辺には他の人が現れなかったのだろう。
なのでもし人を見つけるなら、もう少し遠くへ行く必要があるかもしれない。けどその場合、道に迷って自動販売機の場所が分からなくなる可能性がある。
この廃墟は基本的に似たような構造だし、とても入り組んでいて迷いやすい。何か目印を置くべきかもしれないけど、その場合は他の人にもその目印を見られることになるだろう。
なので他に、方法を考える必要があるかもしれない。
するとそのとき、僕はふとあることを思い、自身の髪の毛を一本抜いてみた。それを床に置いて、少し離れてみる。
うん。何となくだけど、抜いた髪の毛の場所がわかるみたいだ。これなら、どこかに髪の毛を隠しておくだけで、どうにかなるかもしれない。
それにもし見つかっても、普通の人は単なる髪の毛に見えるだろう。
僕はそのように考えた……と同時に、あることに気がつく。
「んん? 白髪だったのかな?」
見れば抜いた髪の毛は、灰色っぽい色だった。一瞬若白髪かと思ったけど、何となく嫌な予感がして何本か抜いてみる。
「えぇ……」
思わず声に出してしまったのは、全て同じ灰色だったからだ。
もしかして僕の髪の毛って、全部灰色なのだろうか? だとしたら、灰色に染めているチャラいやつと思われてしまうかもしれない。
どうにか擬態能力で黒に戻せないかと思考錯誤してみたけど、なぜか右手のように変化がなく、これについてはどうにもならなかった。
つまり僕は今後、この灰色の髪の毛で生きるしかないようである。
はぁ……これはもう、諦めるしかなさそうだ。
そうしてため息を吐いていると、抜いた髪の毛たちに変化が現れる。まるでミミズのように動いて、僕の方へと戻ってきたのだ。
うわっ、な、なるほど。肉体から離れると、自動的に戻ってくるのか。
おそらく頭が吹き飛んだときに戻ってきたのと、同じ理由だろう。またこちらから意識を向けても止まることはなく、他に変化も無い。
う~ん。動かれると、目印としての意味がないんだよな。
そう思い落ちている石を乗せてみるも、髪の毛なのでスルリと隙間から抜け出してしまう。
これには困ったと思いつつも、所詮は髪の毛である。力は無いので、購入したガムテープに張り付けると、途端に動けなくなった。更にその上に石を乗せれば、完璧である。
ただこれだと、ガムテープが目立つんだよな。いや、待てよ。別に普通の目印のように、間隔を空けて数を設置する必要はないんじゃないか?
髪の毛は離れていても、意識すれば何となくその方向が分かる。つまり重要な場所に隠しておけば、その道中に設置する必要はないのかもしれない。
僕はそう考えて髪の毛とガムテープを回収すると、自動販売機の場所へと一先ず戻るのだった。




