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キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~  作者: 乃神レンガ


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017 擬態クリーチャーの能力 ①


 結果として目の前に残されたのは、(はじめ)という男のミイラと、厚美という女性の乾燥した残骸だった。


 自分の意志で行ったことだけど、本当に罪悪感とかはほとんどない。


 おそらく本来なら死ぬような経験をしたことが、影響を及ぼしているのだろう。


 それか擬態クリーチャーと融合したことで、精神にも異常をきたしている可能性もあった。


 またなによりこの一という男が、人として唾棄(だき)すべき存在だったことが大きい。


 たぶん相手が善人だったら、僕も手を下せなかっただろう。一という男くらい悪い方向へと振り切っていれば、今回のように躊躇(ためら)うことはないはずだ。


 どちらにしても、既に終わったことである。擬態クリーチャーと融合しなければ死んでいたので、現状はこれを受け入れることにした。


 そうして僕は落ちているスマートウォッチを二つ拾うと、内容を確かめてみる。

 


 名前:鉄尾一(てつおはじめ)

 年齢:26

 性別:男


 異能:鉄化



 名前:馬場厚美(ばばあつみ)

 年齢:46

 性別:女

 

 異能:体臭使い



 あの男は本名を、鉄尾一(てつおはじめ)というらしい。異能は【鉄化】であり、見た通りの異能だったのだろう。


 体やその一部を鉄化して、おそろしい破壊力と頑丈さを生み出していた。たぶん近接戦闘では、すごく強い部類だと思う。


 正直不意打ち気味に倒せたから良かったものの、真剣勝負だったら普通に負けていたかもしれない。


 一応擬態クリーチャーと融合したけど、まだ使い熟せるはずもなく、そもそも何ができるかも把握していなかった。


 なのであの不意打ちで仕留められたことは、かなり運が良かったと思う。


 次に馬場厚美(ばばあつみ)という女性だけど、実年齢は46歳のようだ。ぱっと見では三十代前半だと思っていたので、驚きである。


 まあ、それについては別にどうでもいいとして、異能は【体臭使い】という、一風変わったものだった。


 どう見ても、戦闘系には見えない。もしかして僕のことを追いかけてこれたのは、この異能が関係しているのだろうか?


 相手の体臭を記憶して、その者が移動したルートを、追いかけることができるのかもしれない。だとすれば、それなりに使える異能だろう。


 一という男に殺されたものの、異能の相性は良さそうだった。獲物の居場所を特定する係と、戦う係で分けることができる。


 だけど不思議なのは、僕が部屋に入るまで気がつかなかったことだ。もしかしたら自動的に判別できるものでは、無かったりするのかもしれない。


 あとは自身の体臭を、操れる可能性がある。悪臭だったら、ある意味武器になりそうだ。けどあの厚美という女性は、何となく香水とかを使っていそうなイメージがあった。ただ香水をつければ体臭扱いになるかは、不明である。


 とりあえずこれで二人の異能については、知ることができた。


 続いてエンの移動も済ませておく。一という男は50エンで、美紀という女性は90エン持っていた。


 そしてスマートウォッチを腰のビニール袋に入れたけど、流石にいっぱいになってきた。


 現状ペットボトル×2、バー状のクッキー×2、スマートウォッチ×5である。流石にスマートウォッチの数が多い。


 スマートウォッチは貴重品だし、何となく捨てるのはもったいなく感じていた。それにもしかしたら、後々何かに使えるかもしれない。


 とりあえず、現状は持っておくことにする。どうしても捨てなければいけない状況になったら、その時に改めて考えようと思う。


 そうして次は、【吸収融合】で融合した擬態クリーチャーについて考えることにした。


 まず現状分かっていることは、頭が吹き飛んでもその破片が戻ってきて、元通りに修復されることである。


 ただそれを行うと、非常にエネルギー的な何かを消費するので、過信はできない。


 何度も短時間で行えば、おそらく餓死することになるだろう。本能的にそれが理解できた。


 あとは現状だと不明なので、あの擬態クリーチャーの能力を思い出してみる。


 まずは特徴として、人に擬態することが可能だった。本来はたぶん灰色のスライムのような感じであり、どういう訳かスキンヘッドの中年男性の姿で、池からぬるりと現れたのである。


 つまりは、肉体を変化させる事ができるのだろうか? だとすれば、僕の右腕も人の手に戻せるかもしれない。


 そう思い虫のクリーチャーと化した右腕に、意識を向けてみる。


 んん? 何か変な感じがするな。少しムズムズしてきた。


 するとそのとき、右手首あたりから生えていたアゴが、手首の中に収納されるかのようにして消えていく。


「おおっ!」


 少し違和感があるけど、特に痛みなどはない。それよりもなんか、大きさ的に物理法則を無視している気がするけど、大丈夫だろうか?


 そう思いつつ経過を見守ると、次にピンク色でイモムシのようだった腕が、人のそれに変わっていく。


「よし!」


 この部分はとても気持ち悪かったので、僕は思わず歓喜の声を出してしまった。けれどもそんな喜びも束の間、変化はここで終わってしまう。


 マジか。この右手は、このままなのか……。


 黒っぽい硬質な外骨格のような手と、その中央にある虫のクリーチャーの口が残された。


 う~ん。口は閉じさせれば目立たないとしても、この指先が(とが)った黒い硬質な手は、とても目立つことは間違いない。


 いや、逆にこれなら見方によっては、かっこいいのかも? 黒い手甲に見えなくもないし、そういう異能だと言い張れば、問題はなさそうな気がする。


 それに意識すれば、手首あたりからクワガタのような黒いアゴを、飛び出させることも可能のようだった。


 これもまるでアメコミのヒーローみたいで、かっこいいかもしれない。


 僕は高校生になって卒業したけど、過去に発症した中二病が、呼び起されるような感じがした。


 そう思いつつ、アゴは再び収納しておく。慣れれば、収納もあっという間にできるようになるかもしれない。今はゆっくりと、腕の中に沈んでいく感じだ。


 ちなみに出すときは、一瞬で出てくる。それがある意味、本来の正常な状態だからかもしれない。


 そして僕にとってはこの能力だけで、既に大当たりである。これなら今後他のクリーチャーに【吸収融合】を発動しても、見た目だけなら人としてのものを保てるかもしれない。


 さて、他にも何か、できることはあるのだろうか?


 僕は何だかわくわくしながら、擬態クリーチャーの能力を思い出してみる。


 確か他には、擬態を解いて灰色のスライムになって、その中に相手を取り込んでいたはずだ。その際に、少しずつだけど溶かしてもいた。


 そう考えてまずは左手で、それができないか試してみる。すると次第に、左手が灰色のスライムへと変化していく。


「うわっ、何だか変な気分だ」


 自分の左手が灰色のスライムになったことに対して、違和感がすごい。また意識すれば、自由に動かせるようだった。元に戻すことも可能なようである。


 僕はそれを見届けると、試しに手持ちにあるバー状のクッキーを一つ開封した。そして再び左手を灰色のスライムに変えると、バー状のクッキーを取り込ませてみる。


 なるほど。味覚的な何かは、特に何も感じないな。加えて取り込んだものについては、体内なら自由に動かせるみたいだ。


 しかし灰色のスライムになっていない部分にも移動させることができたことで、僕はあることに気がつく。


「え? もしかして……」


 それを見て僕は、もしかしたら全身が既にスライムになっているのではないかと、そう思ったのである。


 うそ……だろ……。


 つまり擬態クリーチャーと融合したことで、僕はこの容姿以外の部分を、失ったのかもしれなかった。


 果たして僕は、まだ僕なのだろうか? 僕だと思い込んでいる、クリーチャーではないのだろうか? 一度脳みそも吹き飛んでいるし、僕が僕だと証明しづらい。


 そんな考えが、既に本物かどうかも分からない脳内を駆け巡った。


「考えるな。考えちゃいけない。僕は僕だ。きっと魂的なものは、僕のままだ」


【吸収融合】で変わるのは、少しずつだと思っていた。いや、そう願望を抱いていたのかもしれない。


 だけどそれが二回目で、全身が変わってしまったのである。それは全くもって、想定外の出来事だった。


 正直このまま【吸収融合】を使い続けて、僕という存在は残り続けるのか、とても不安になってくる。


 だけどそれを考えても、現状はどうしようもない。生き残るために、アレは必要なことだった。


 僕は無理やりそう思い込んで、そのことを頭の隅に追いやる。そして再び、バー状のクッキーを左手に戻ってこさせた。


 そして続けて意識してみれば、バー状のクッキーはあっという間に溶けて消える。消化したような感覚があり、エネルギー的な何かが少し満たされる感じがした。


 たぶんこの方法で飲食をしても、問題は無い気がする。逆に普通はお腹を壊すようなものでも、この方法なら食べられるような気がした。


 味覚も無いし、不味くても大丈夫だ。つまりそれは、人間やクリーチャーの死骸も、該当(がいとう)していることを意味していた。


 (ゆえ)に道徳心や様々な葛藤(かっとう)を無視すれば、それでデスゲームでの食料問題は、解決してしまう。


 なので僕の視線は、自然と二人の亡骸(なきがら)へと向けられたのだった。

 

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