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キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~  作者: 乃神レンガ


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012 普通ではない何か


 そう思ってしまうのも、仕方がなかった。けど同時に、チャンスでもある。たぶんあの自動販売機は、普通に使用できる気がした。


 ここからだと商品までは分からないけど、光っているのが見える。なんとなくそれは、わざと商品を見えなくしているような光り方にも思えた。


 また本来の自動販売機よりも、大きいような気がする。距離が離れていても分かるくらいなので、それなりに大きいようだった。


 他にも汚れ一つない白一色で、ここからでもよく目立つ。いや、目立つように配置されているのだろう。


 まるで砂漠にあるオアシスのように、デスゲームの参加者を誘っているようにも思えた。


 だとしたら普通に、エンで買い物ができるかもしれない。


 けど問題は、周囲の池である。こういう状況だと、大抵池の中に化け物がいるのが定番だった。


 目の前の光景は、あからさま過ぎるのである。罠の一つや二つあっても、おかしくはない。


 なので僕は少しの間周囲を探索しつつ、池の様子を(うかが)う。だけど周囲には何か役立つようなものは無く、池に異変のようなものも発生しなかった。


 なので僕はとりあえず、安全を確認した後に、遠くから拾った石を投げ入れてみる。


 そうして僕が池に石を投げ入れると、ポチャリという音と共に、水面に波紋(はもん)が広がった。


 特に何も起きない……んん?


 一瞬何も起きないかと思われたけど、水面に新たな動きが現れ始める。


 な、何かいるのか? とりあえず、いつでも逃げられるようにはしておこう。


 またいつでも虫のクリーチャーを囮にできるように、右手で一匹掴んでおく。


 すると、その時だった。池から唐突(とうとつ)に、何かがぬるりと現れる。


「え?」


 それは、スキンヘッドの中年男性だった。(まばた)きをすることなく、歩くように池からこちらへと浮上してきたのだ。


 服装はワイシャツにズボンとシンプルだけど、革靴は片方しかはいていない。それと池から出てきたので、当然のようにずぶ濡れだった。


 そして僕を見つけると、スキンヘッドの中年男性が何かを口にする。


「タス……ケ、テ……クレ」


 するとその瞬間、僕に(まと)わりついていた虫のクリーチャーたちが、一斉に逃げ出した。掴んでいる個体も、一生懸命足をシャカシャカと忙しない。


 明らかに目の前の存在に対して、虫のクリーチャーたちは恐れを抱いている。普通ではない。


 (ゆえ)に目の前の存在に対して、僕はクリーチャーが擬態しているのだと、そのように判断を下す。


 これは逃げるべきか? 虫のクリーチャーたちが恐れているということは、確実に危険な存在なのは間違いない。


 だけど新しいクリーチャーということは、たぶん【吸収融合】の対象になるはずだ。強くなるには、どうにかして触れて発動する必要がある。


 逃げるべきか戦うべきか。僕はどちらかを選択する必要があった。


 すると僕が、そのように考えていたときである。そこへ、乱入者たちが現れた。


「は、(はじめ)さん! 見つけたわ! あそこよ!」

「てめぇ、逃げられるとは思うなよ! 害虫を(けしか)けやがって! 覚悟しろよ! この虫野郎!」

「ひょ?」


 突然のことに、僕は変な声が出てしまう。だがそれも、仕方がなかった。


 そう。どういう訳か先ほど()いたと思ってた一という男と、守られていたはずの厚美という女性が、この場に現れたのである。


 マジか。ここにきて、あいつらも現れるのかよ。


 幸い二人とはまだ多少の距離が離れており、即座に何かが起きることはない。


 むしろあの擬態クリーチャーと、二人の方が近くなっていた。二人は僕を見つけてから、こちらへと向かってきていたのである。


 故に二人が擬態クリーチャーに気がつくのは、当然だろう。ギョッとした感じで、二人は足を止める。


 僕ばかりに意識が向いていたのか、今更その存在に気がついたみたいだ。


 また擬態クリーチャーも同様に、二人の存在を認識したようである。


「なんだお前は!」

「え、なにあれ、あの人びしょ()れなんだけど……」


 二人は擬態クリーチャーを見て、そのような言葉を口にする。そこに気味悪がってはいても、恐れた様子はない。


 おそらく池から出てくるところを見ていなかったから、クリーチャーだとは思っていないのだろう。


 両目ガン開きでびしょ濡れのスキンヘッドのおっさんが、片方の靴だけ履いて立っているように見える。


 それだけでも十分にヤバいやつに見えるけど、クリーチャーと判断できるかと言われれば、まだ微妙なラインだった。


 クリーチャーの可能性はあるけど、単にヤバいだけの人間かもしれない。二人からしたら、そんな感じなのだろう。


 けど僕は、あのおっさんが擬態クリーチャーだということを知っている。


 池からぬるりと生えるように浮上してきたことや、虫のクリーチャーたちが(おび)えて逃げ出したのは、十分にその判断材料になった。


 だから擬態クリーチャーに対して、僕は強い警戒をしている。だけど二人はまだ、そこまでには至ってはいない。


 すると擬態クリーチャーが、不意に声を発した。


「タス……ケ、テ……クレ」


 それは先ほど僕が聞いた内容と、全くもって同じもの。怪しさしかないけど、二人の受け取り方は違ったみたいだ。


「は? どういうことだ?」

「もしかしてあの狐顔の化け物が、そこの池に突き落としたんじゃない?」

「まじかよ! 最低だな! やっぱりあいつ、右腕があの害虫にそっくりだし、人に擬態した化け物だろ!」


 どういう訳か、僕の方が擬態クリーチャーだと思われたらしい。


 確かにぱっと見びしょ濡れのおっさんよりも、右腕がクリーチャーの僕の方が、そう見えてもおかしくはないだろう。


 これはどうするべきか。たぶんあの二人は、僕のことを殺す気だ。ここまで何かの方法で追いかけてきたみたいだし、間違いないだろう。


 今も強い殺気のようなものが、(はじめ)という男から向けられている気がした。


 それに人ではなく化け物、クリーチャーだと思われているのなら、僅かにあった躊躇(ためら)いも、おそらくは消えている。


 なら僕は、この盤面(ばんめん)を上手く活用しなければいけない。擬態クリーチャーにとっては、あの二人も獲物のはずだろう。


 するとそこで、一という男が擬態クリーチャーに声をかけた。


「おい、そこのおっさん! 金を払うなら、助けてやってもいいぜ! 有り金全部置いていけ! でなければ、殺してでも奪うからな!」


 うわっ、この男、言っていること盗賊じゃんか。


 あの様子では、たとえ有り金を全て受け取っても、その後に相手を殺すような気がしてならない。


 けれども当然、擬態クリーチャーがそれに答えることはなかった。相変わらず、同じように助けを口にするばかりである。


 しかし僕が、そう思ったときだった。もう一人の厚美という女性が、あることに気がつく。


「待って、あの男、スマートウォッチを着けていないわよ?」

「あ? マジだ。いったいどうやって外したんだ?」


 確かに厚美という女性が言う通り、擬態クリーチャーはスマートウォッチを着けてはいなかった。


 たぶん着けていないのは、そもそもがクリーチャーだからだろう。またスマートウォッチはやはり特別なのか、擬態できないのかもしれない。


 異能と同じように、このスマートウォッチも普通の物ではないのだろう。そんな気がする。


 あとは身に着けている衣服については、その元になった人物が着ていた衣服という可能性が高い。靴が片方ないのは、回収できなかったからだろうか?


 だけど靴とは違って、スマートウォッチ自体は回収ができているはずだ。あれは死亡したとき以外では、現状外れることはない。


 元になったおっさんを殺して衣服などを奪ったとすれば、その中にスマートウォッチがあってもおかしくはなかった。


 けど身に着けていないということは、もしかしたら本人以外は着けられないような、そんな仕掛けが元々あるのかもしれない。


 そんなことを僕が思っていると、擬態クリーチャー側が不意に動きをみせる。


 「タス……ケ、テ……クレ」


 同じことを口にしながら、二人の方へと歩き出したのだ。


 僕の方に来なかったのは、単純に数が少ないからだろうか? 獲物として数の多い方へと、本能的に向かった可能性がある。


 いや待てよ、未だに僕の右手には一匹の虫のクリーチャーがいるし、数としては同数か。


 それなら僕が完全に警戒しているのに対して、二人がまだ油断しているからかもしれない。


「止まれ! てめえはなんか普通じゃねえ! それ以上近づくと、ぶん殴るぞ!」

「き、気持ち悪いわ! (はじめ)さん、あの男を近づけないで!」


 するとまるでゾンビのように向かってくる擬態クリーチャーに対して、二人もようやくその異常に気がつき始めたようだ。


 一という男は異能で全身に鉄を(まと)うと、擬態クリーチャーに対して強い警告を発する。


 だが当然、それで擬態クリーチャーは止まらない。結果として、二人のすぐ近くまで迫ってしまう。


「ちっ、イカレ野郎がよぉ! 死にやがれ!」


 そして一という男が、とうとう擬態クリーチャーへと殴りかかる。鉄の拳が、その顔面を強打した……かのように思われた。


「は?」


 けれども擬態クリーチャーの頭部はスライムのように形を変えると、ぐにゅりとその拳を飲み込んだのである。


 見れば弾力(だんりょく)性と(ねん)性のありそうな、灰色の何かに変化していた。


 そして拳が直撃した瞬間、まるでプロボクサーのカウンターのように、一瞬で相手の(ひじ)辺りまでをその中へと引きずり込んだのだ。


 傍から見ていた僕でも視認するのが難しいほどに、それは早業だったのである。



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