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キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~  作者: 乃神レンガ


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010 右腕の問題

 ここまでは目を()らしていたけど、この右腕はあのとき、勝手に動いたのである。


 太山さんの首へと飛び掛かって、その血を(すす)ったのだ。


 加えてそのとき、右腕は僕の言うことを全く聞かなかったのである。


 この事実から導き出される答えは、一つしかない。


 そう。この右腕にはおそらく、何かクリーチャーだったときの本能のようなものが、残っているのである。


 だからあのとき、僕の意思とは関係なく襲い掛かったのだろう。


 なのでこの右腕の本能をどうにかして抑え込まなければ、太山さんのような事故が今後も起きかねない。


 ただ先ほどは意識を集中すれば、右腕の暴走を抑えることができたのも事実だ。


 逆さ吊りのとき勝手に血を吸い始めたけど、止めさせることができたのは大きい。


 故に右腕の暴走は、僕の意思次第でどうにかなる可能性があった。


 しかし暴走したときはどちらも不意にであり、僕の気が逸れた場合に起きている。なのでその部分には、注意する必要があった。


 また一度目は言うことを聞かず、二度目は聞いたことの違いは、やはり血を吸った前か後かの違いかもしれない。


 血に飢えていた方が、より言うことを聞かないような気がした。なのでもしかしたら定期的に、どこかで血を摂取させる必要があるのだろう。


 それはつまり、人を襲わなければいけないことに他ならない。なのでまた一歩、人と関わるのが難しくなってしまった。


 故にどうにかして、人の血以外で右腕の飢えを満たす必要がある。


 ちなみに同類である虫のクリーチャーの死骸から吸わせてみたけど、全く意味がない感じがした。おそらく、同類では血への飢えは満たせない。


 なので現状では、人の血以外で右腕の飢えを満たす方法はなかった。だとすればこれからも、右腕は僕の隙をついて暴走をすることだろう。


 いずれは完璧に制御できるようにする必要があるけど、果たしてそれはいつのことになるのだろうか。


 そんな不安に(さいな)まれながらも、僕はあることを思う。 


 右腕はもう仕方がないとしても、今後新たなクリーチャーと融合したときには、更に暴走の可能性が増すような気がするんだよな……。


 その可能性は、十分にあり得た。いや、間違いなく起きるだろう。


 だとしたら、僕が強くなる=暴走の可能性が増す。ということに繋がる。


 これでは見た目のことも含めて、余計に人と関わるのが難しくなりそうだった。


 もはや僕は、クリーチャーと共にあるしかないのかもしれない。そう思わずには、いられなかったのである。


 また右腕の暴走が原因で殺害してしまった太山さんについては、割れた床の部分を中心に無理やり床を引っぺがすと、そこに穴を掘ることで埋めておいた。


 右腕はこういうときには役に立つ。明らかに力が強いし、まるで重機のように作業が楽だった。


 加えて太山さんは既にミイラになっており、虫のクリーチャーたちによって解体されている。


 なので埋めることについても、そこまで苦ではなかった。もちろん、精神的にはクルものはあったけど。


 あとは墓石代わりに、瓦礫(がれき)などを積み上げていく。完全に自己満足だけど、これをするのとしないのとでは、明確な差があった。


 またこんなときでも、周囲への警戒は(おこた)らない。


 虫のクリーチャーたちをそれぞれ別の方向に配置しつつ、定期的に確認していた。


 そうして太山さんのお墓も完成したこともあり、この場所でのやることは済んだ。


 なので僕もそろそろ、先へと進むことにする。方向は、少女が逃げたのとは反対にしよう。


 僕はそう判断を下すと、虫のクリーチャーたちを新たに回収して、その先へと進み始めるのだった。


 ◆


 あれから誰とも会うこともなく、廃墟(はいきょ)のような通路を、僕は淡々(たんたん)と進んでいる。


 また三回ほど見つけたドアを開けて、何かないか探してもみた。しかしそのうちの二つはゴミしかなく、残念な結果に終わっている。

 

 けどあとの一回では、新たに水の入ったペットボトル一本と、コンビニのおにぎりを二つ見つけることができた。


 ちなみにおにぎりの具は、ツナマヨとおかかである。僕はツナマヨおにぎりが好きだったので、ほんの少し嬉しくなった。


 なので休憩がてらに既に開けていた水と、おにぎりを食べて腹を満たす。


 あんな吐くようなことやグロイものを見たのにもかかわらず、僕はおにぎりを二つともペロリと平らげてしまった。


 水も飲み干し、悪いけどゴミは休憩していた部屋に捨てている。


 それと貴重な食料だったけど、あまり多くは持ち運べないので、温存はしなかった。腹が減っていたというのもある。


 また腰に下げたビニール袋には、既に水の入ったペットボトルとバー状のクッキーが、それぞれ二本入っていた。加えてスマートウォッチも、三つある。


 なのでそこまで大きなビニール袋ではないので、この辺りが限界だろう。


 複数ぶら下げるのは、流石に機動力が落ちる気がしたので止めている。音もその分うるさくなるし、多くは身に付けられない。


 加えて左腰にぶら下げることで、右腕とのバランスを取りやすいというのもある。


 右腕の大きさはそこまで元の腕と変わらないけど、重量はたぶん重くなっていた。


 それにいざ戦うときがくれば、右腰にあれば邪魔になるだろう。


 故に今後ビニール袋をもし増やすとすれば、背中にもう一つという感じだろうか。


 しかし結局のところ、ビニール袋では心もとない。なのでこの先ではできれば、物を入れられるリュックサックなどが欲しいところだった。


 そういう経緯がありつつも、僕は三つのドアを開けたことで、60エンも使ってしまったのである。


 ドアを開ける際と、閉める際にそれぞれ10エンずつかかるのだ。


 一応開けた後は、五分ほど鍵がかからないのは確認している。けど部屋を念入りに調べていると、五分などはあっという間に過ぎてしまっていた。


 また毒島の頭部を利用したストッパーのように、何かをドアに挟んでおくという手段もあったのも事実だ。


 けどこれについては、安全を考慮して行わなかったのである。もしドアが半開きであれば、誰かが気がついて入ってくるかもしれない。


 現状誰かに遭遇する=ほぼ敵対なので、僕は安全を選んだのだった。


 もちろんそれでも人が偶然入ってくる可能性もあったけど、そこまで気にしたら何もできない。ある程度の妥協は必要だった。


 そういう訳で現在の所持金は、330エンから270エンに減少している。


 また今のところ他人のスマートウォッチから移動するしか得る方法が無いので、残りのエンは使いどころを見定めていきたい。


 そんな感じで通路を進んでいると、また新たなドアを発見する。けどそのドアには、これまでと大きな違いがあった。


「え?」


 見れば鍵を開けるためのタッチパネルが、緑色に光っていたのである。加えてそこには『20』と表示されていた。


 なんだこれ? つまりこの部屋に入るには、20エン必要ってことだよな? これは、どうするべきだろうか。


 開けるべきか、スルーするべきか。僕は少々悩む。


 これは普通の部屋よりも、特別な部屋ということだろうか? 開けるのに倍の値段が必要だし、普通と違うのは間違いない気がする。


 けど逆に、罠という可能性もあるよな? もしかしたら、新たなクリーチャーがいるかもしれない。


 それに今体に(まと)わりつかせている虫のクリーチャーは安全だけど、新たなクリーチャーがそうとは限らなかった。


 むしろ別の種類なら、普通に襲ってくる可能性が高いだろう。襲われなくなるには、やはり一度【吸収融合】をする必要がある気がした。


 なので何かしらの危険があることを前提に、僕はどうするべきかを考える。


 でもこの先、危険は当然あるよな? であれば新たなクリーチャーがいるなら、【吸収融合】でパワーアップした方が良いかもしれない。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、ここは覚悟を決めて、開けてみる方が得策だろう。


 ただあまりにヤバそうだったら、入らずに逃げることも考えることにする。もしものときは、虫のクリーチャーたちを(おとり)にしよう。


 それと一応ドアに耳を当てて、中の音を聞いてみる。けど内部の音は、一切聞こえなかった。


 ドアを開ける際には、毎回このようにして確かめていたのである。もしかしたら、中に人がいるかもしれなかったからだ。


 けどもし防音性が高くて単純に聞こえないだけだったら、そのときはもう仕方がない。


 またノックして声をかけようかとも迷ったけど、逆に出待ちされる可能性を考慮してやめておいた。開けた瞬間に襲われたら、ひとたまりもない。


 とりあえずこれで、もうあとはドアを開けるだけだった。


 にしてもここまでの間に、僕もある程度は覚悟ができるようになってきたみたいだ。


 少女に殺されそうになったことや、太山さんの件が関係しているのは間違いなかった。


 これまでの日常を考えればありえないことだけど、今はありがたいと思って、これを受け入れることにしよう。


 そう思いつつも軽く深呼吸をしたのち、僕は緊張しながらもタッチパネルから鍵を開錠して、ゆっくりとドアを開いた。


 さて、いったい何が出るだろうか。


 僕はドアの隙間から、中の様子を(うかが)う。するとそこには、驚くべき存在がいたのだった。


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